三章・二話
なんとまぁ、驚いた事に、俺の肉体は水圧などもろともせず、アスファルトに立っているかの様に身軽だった。
「だから言っただろう?モノは試しだ…」
「あー、いや……それはもう解りました。…これが水妖性の特性ですか?」
すると間野先輩は、得意気に頭を振り上げ、見下す様な視線で言う。
「あぁ、そうだ。水妖性は本来、水と共生して生きるべき妖の属性だからな。水妖性の中でも、レベルの高い、力の強い妖になってくると、水を自在に操れる程になる」
間野先輩の言葉は、今一つ信憑性に欠けていた。もし仮に、レベルが高く力の強い妖でないと水を操れないと云うのなら、俺が今まで普通に行ってきた行為に説明がつかない。なぜなら、俺のような半妖には、それ程の力には肉体が耐えられない筈だからだ。
「今年の3月、この地は季節外れの猛烈なゲリラ豪雨に襲われましたよね」
「それがどうかしたか?……まさか」
「そうです。あれは、俺が起こしました。速いスピードで移動するには、速いスピードで動く水と一緒に行くのが手っ取り早いですから」
何せ、飛騨山脈の奥に居たのだから、此処東京の地に参上するのは些か手間が掛かる。しかも急な出来事だったから、俺自身相当手こずった。
「うむ……だとするなら、やはりお前を連れて来たのは正解だったみたいだな」
恐らく今は、此処に来て最高に急展開な、俺の人生安泰安寧計画瓦解プロジェクトの始動段階だと見て間違い無いだろう。一体何処に連れて行かれるのかは知らないが、深く干渉していない奴は肉親であろうと疑って掛かるべきだ。
「さっきから意味深な言葉ばかり仰られてますけど、勿体ぶらずに教えてくださいよ。俺を何処に連れて行くのかを」
間野先輩は案の定黙る。気まずいような、申し訳ないような面持ちで俯く。
--------何で、そんな顔をするんだ。
「俺の夢を叶えるって、言ってましたよね?知るはずもない俺の夢を叶えると嘯く事が出来るんでしょう?そんなの可笑しいじゃないですか」
間野先輩に関してただ一つ断言出来る事は、確実に〝下級妖〟だと言う事だ。本能で、半妖の俺より圧倒的に能力的に劣っていると認識出来る。
そんな奴に、俺の在る筈も無い夢を叶える事など、出来はしないのだ。
それこそ、〝カミサマ〟じゃなければ出来ないだろう。
俺の鋭い追究に、間野先輩はとうとう口を開いた。
「お前はこの地域で平和に暮らしたいのだろう?なら、私達と共に、此処を守らないか?」
「その提案が俺自身を分析した結果だと言うなら、些か愚問じゃありませんか?」
間野先輩は、一瞬顔を顰めたが、思い付いた様に目を見開くと、愉快そうにこう言った。
「なら、うちの組織の奴等と戦ってみろ。もしお前が勝ったら入らなくていい。だが、負けたら問答無用で入ってもらうぞ」
きっと間野先輩は、俺の事なんて、全く知らないんだろう。
つづく




