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君の隣に  作者: ミサ
第2章
32/35

その31

 メイの部屋から出て、地下駐車場に置いてあった車に乗り込むと俺は実家へと向かった。


「ただいま」

「兄貴! どうしたの? そのまま自分のマンションに帰るって言ってなかった?」

 突然の帰宅に、妹の美樹は驚いた様に訊ねる。

「気が変わった---明日まで休む」


 ここへ帰って来る前に、吉澤主任に電話をした。明日まで休みを欲しいと言うと、電話の向こうの主任は笑いながら了承してくれた。

「あぁ、構わないぞ。ゆっくりして来い! お前は最近、仕事やプライベートで忙しそうだったからな」

「ありがとうございます」

 俺は礼を言って電話を切った。


「ふーん…珍しいね。仕事大好きの兄貴が休むなんて」

「たまにはいいだろ」

 そう言って自分の部屋へ行く。

 いつも母親が掃除や換気をしてくれているらしく、数ヶ月ぶりの部屋は俺が使っていた時のままだ。

 美樹は興味津々という感じで俺を見ていたが、何の反応も示さない俺にそれ以上言葉をかける事も無く自分の部屋へと戻って行った。

 そして夕食の時、母さんは久しぶりに帰って来た息子に自慢の手料理を食べさせる為に、どんどん料理を出してきた。

 俺も久しぶりの『母の味』とやらに舌鼓をうった。その合間に母さんが今日の出来事を語ってきた。

 母さんと美樹とメイの3人は、市内のレストランへランチに出掛けて、その後はショッピング等をしながら楽しんだようだった。

「あんたも、一緒に来たら良かったのにね。五月ちゃん、本当に綺麗なお嬢さんになってて---お母さん感動しちゃった」

「何でだよ……」

「だって、あんなに綺麗で良い子があんたの彼女だなんて、もう嬉しくて嬉しくて---」

 ---あぁ、そうか……俺達、付き合ってる事になってたんだ。

「で、大樹。あんた結婚はいつするの?」

「はぁ?! 母さん何言って………」

「林原君だって、同級生の子と結婚するんでしょ? あんた達だって同じじゃない。結婚してもおかしくなんてないのよ」

「あのな……俺達は今、仕事が忙しいんだよ。結婚なんてまだまだ考えてる暇はない」

 そう言って俺は目の前の食事に箸をつける。

 母さんは俺をじっと見て、一言告げた。

「あんたは男だからいいけど……五月ちゃんは女よ。同級生が結婚なんて羨ましいに決まってるでしょ! そこん所考えてあげなさい」

 そんな事言われても---実際に俺達、付き合ってる訳じゃないしな。

「とりあえず、目上の人のアドバイスは聞いてた方がいいわよ」

 母さんはそれだけ言うと、この話を打ち切った。



 俺は自分の部屋に戻ると、さっきのメイの言葉を反芻する。


 ---昔から好きな人がいるもの。でも彼は背の高い子は好きじゃなかった---

 ---馬鹿よね、朝倉君が嫉妬なんてするはずないのに---


 メイが俺の事を? まさか……そんな素振りなんて無かったはず…

 いきなり言われた告白に俺は戸惑ってしまった。

 嬉しくないと言えば嘘になる。むしろ凄く嬉しい。

 だけど先に彼女から言われた事が悔しい様な、情けない様な気がしてならない。

 俺はふと思いつき、美樹の部屋へと行くとドアをノックした。

「はい?」

 部屋の中から美樹の声がした。

「…俺だ、少し話したいんだけど…いいか?」

「兄貴? いいよ。入って」

 その返事に俺は部屋のドアを開ける。

 美樹は机に向かい、勉強をしていた。

 部屋に入って来た俺の方を向くと、首を傾げて尋ねてきた。

「…何? 珍しいね。兄貴が私に話があるなんて」

 俺はどう切り出していいか躊躇っていたが、美樹の言葉に意を決して話し出した。

「ん…実は、麻生の事なんだけど」

「五月ちゃん? 何、どうかしたの?」

 美樹が心配そうな表情でこちらを見る。

「お前、あいつが…その、俺の事を好きだって何で思ったんだ?」

「兄貴……何、言ってんの」

「いいから、お前には俺達はどう映ってるんだ?」

 俺の言葉に何か感じたらしく、美樹は考え込む様にゆっくりゆっくり話し始めた。

「うん…最初、五月ちゃんに会った時--兄貴の部屋に私がいるのを見てショックを受けた感じで『あ! この人、兄貴の事好きなんだ』って咄嗟に思った。その後はもう、2人を見てたら誰でも気づくでしょう? 傍から見たらこっちが恥ずかしくなるくらい、お互いの事を見てるんだもの---って言うか、まさか---兄貴気づいてなかった?」

 美樹---頼むその呆れた顔止めてくれ。自己嫌悪に陥るから……

「信じられない! え? まさか付き合ってないの?」

 俺は憮然として頷く。

「……兄貴、意外と馬鹿なんだ……」

「何とでも言え…」

 はぁーっと溜息が聞こえ、美樹が更に言い放った。

「このまんまだと、五月ちゃんに愛想つかされるよ」

「もう、つかされたかもな」

「何言ってんの! 自分の気持ちはちゃんと言ったの? 言わないと分からないよ」

 美樹の言葉に、俺は自分の気持ちを何も言ってない事に気づいた。

「なぁ……麻生、明日はどうするって言ってた?」

「んー、確か結婚するお友達と会うって言ってたよ」

 って事は、後藤と会うのか−−−

「分かった、ありがとう」

「兄貴!」

 部屋を出て行こうとする俺を美樹は呼び止めた。

「?…何だよ」

「私は五月ちゃんしか『お姉ちゃん』って認めないからね」

 そう言って俺に笑いかけた。

「---わかったよ……努力はしてみる」

「頑張れ!」

 何故か美樹に励まされ、俺は美樹の部屋を後にした。



 翌日---メイ達の動向が知りたくて、俺は林原へと電話した。

「はい……え、朝倉? どうしたんだ。こんな早くから……って言うか、お前昨日は大丈夫だったか? かなり酔っていたけど」

「ああ、昨日はありがとう。迷惑かけたな……少し二日酔いはあったけど、大丈夫だった」

「そうか、なら良かった……って、そんな事で電話かけてきたのか?」

「いや、実は……今日、後藤と麻生が会う約束してるらしいんだけど、帰りは何時になるかと思って…」

 俺の言葉に、林原は少し笑いを含んだ声で答えた。

「何だよ、女友達にも嫉妬か?」

「ばっ…違う! ちょっと話しがあるんだけど、連絡がつかないから」

「冗談だよ……んな、ムキになるなよ。んー、確か夕方には帰るって言ってたと思う」

「わかった。ありがとう。悪かったな、仕事中なのに」

 俺は謝罪の言葉を告げた。

「気にするな。それより今度、俺達とお前達の4人でどっか行こうぜ」

「ああ、そうだな。また、連絡するよ。じゃあな」

 そして俺は電話をきった。


 夕方か---

 俺はメイに会った時に言う言葉を考えていた。


  


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