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君の隣に  作者: ミサ
第2章
22/35

その21

「……く……ん、朝倉君…」

 誰かが俺の名前を呼んでいるのに気づき、朦朧とする意識の中で薄く目を開ける。

 そこには心配そうな顔をしたメイが薄明りの中、俺の顔を覗き込んでいた。

 ……麻生?何でここに?……

 俺は彼女の存在を確かめる様に、そっと手を伸ばす。

 彼女の頬に触れると驚いた様な顔をしたが、逃げる様子はない。

 ……夢なら…当然か……

 俺は頬に触れていた手を動かすと、彼女の長い髪に触れた。

 そしてそのまま彼女を引き寄せる様に後頭部へ手をまわす。

「え?ち、ちょっと……朝倉君っ!−−−っや…っ!」

 彼女が小さく抗議の声を漏らしたが、俺は構わず自分の腕の中に抱き寄せた。

 その温もりと柔らかい感触が心地良くて、更に抱き締めると彼女から喘ぎ声が漏れた。そんな声を聞きながら、また深い眠りに落ちそうになった時、それを妨げる大きな声が俺の耳に飛び込んできた。

「兄貴!未成年が家にいるんだから、ちょっとは節制してくれない?五月ちゃんも困ってるでしょ!」

 美樹のあけすけな言葉に、俺は完全に目が覚めた。

 腕の中には頬を赤く染め困った様な顔で、こちらを見上げているメイが……いた。ヤバい!…夢じゃないっ…

「−−−っ!ごめん、寝ぼけてた!」

 慌てて彼女を離す。するとメイは体を起こした。

「……びっくりした…起きたかな?と思ったら、いきなり引っ張るんだもの」

 俺と目を合わせずにそう言うと、ベッドからそっと離れた。

「まったく……仲が良いのはいいけど、私の存在忘れないでよね!」

 美樹は呆れたように俺の部屋から出て行った。

 まずい……どうする、俺…

 そう言えばメイはお見舞いに来てて、美樹と一緒に夕飯の準備していたんだ……忘れていた。

 気まずい雰囲気が流れる。

「美樹ちゃん−−−私達の事誤解してるみたいね……私がちゃんと説明しとくから」

 メイはそう言うと、俺の部屋を出て行く。

 俺は情けなさと恥ずかしさから、ベッドに倒れ込んだ。



 さすがにずっと倒れてはいられなかった。

 なかなか姿を現さない俺に業を煮やした美樹が、凄い勢いで俺をベッドから引っ張り出したからだ。

「全く…邪魔したのは悪かったけど、仕方ないでしょう?へそ曲げないでよね!子供じゃないんだから−−−

ご飯冷めちゃうじゃない!」

 呆れたように美樹が俺を見る。

 もう、どうでもいいよ−−−どっちみち、メイには呆れられてるだろうし、へたすると嫌われたかもしれない−−−この前は酔っぱらって抱きついて、今日はベッドに引っぱりこんでるんだからな−−−最悪だ、俺−−−

「美樹ちゃん…朝倉君は病人なんだから、もうちょっと優しく…」

 メイが窘める様に美樹に話し掛ける。俺は思わず彼女を見た。

 目が合うと、メイはにっこりとほほ笑んだ−−−怒ってないのか?俺はその微笑みに安堵した。

「ほんとに仲良いんだねー見てるこっちが当てられちゃう!」

 手で仰ぐ真似をしながら美樹が笑う。

「あ、あのね−−−美樹ちゃん、私達は…」

「とりあえず、食べようぜ。腹減った」

 メイの言葉を遮るように、俺は『いただきます』と手を合わせて食べ始めた。

「よく言うよ−−−兄貴がなかなか来なかったんじゃないの!」

 言うタイミングを失ったメイは俺の方をチラッと見たが、何も言わずに美樹と他愛もない話をしながら食事を始めた。

 ごめんな…麻生。お前が誤解を解きたいのは解るけどもう少しだけ、このまま美樹に付き合っているって思わせてたいんだ−−−その間だけは何か、本当に付き合っているような気分でいられるから−−−俺、情けないよな。

 彼女を横目で見ながら俺は心の中で謝った。




「じゃ、そろそろ帰るね」

「えーっ、五月ちゃん、今日泊ってってよぉ!」

 美樹は帰ろうとするメイを引き留めている。

 馬鹿!そんなの駄目に決まってるだろうが!

 案の定、メイは困った顔をしながら『それは無理だよ…ごめんね』と美樹に謝っている。

「だったら明日、私と1日付き合ってくれない?」

 なおもメイに無理を言う美樹に、俺が注意をしようと口を開きかけた時、メイが笑顔で頷いた。

「いいわよ!明日は休みで特に予定もないから…どこ行きたい?」

「五月ちゃんのお奨めの所!」

 美樹は嬉しそうにメイを見ている。

「わかった!じゃ、明日またここに来るね。何時がいい?」

「9時は?一緒に朝ご飯食べてから出かけようよ。私が準備しとくから…お昼はどこか外で食べよう」

 2人は楽しそうに、明日の計画を立てている。

「兄貴は明日はどうするの?」

 いきなり美樹が俺に話し掛けてきた。

「……ん、もし明日までに熱が下がっていたら仕事だけど、熱が下がらなかったら休むかな……」

 熱と薬の為、あまり頭が働いてない。ボーっとしながら呟く。

「そっか…もう、寝たら?きついんじゃないの?」

 美樹が心配そうに俺の方を見た。メイもこちらを見つめている。

 あぁ……そうだよな、遊びに行く話をしてる横で病人がいたら、話しづらいな。

「悪い……先に寝る…麻生、今日はわざわざお見舞いに来てくれてありがとう……帰り気をつけろよ」

「うん、朝倉君も早く良くなってね」

 俺はふらつく足で、寝室へと戻る。背後では2人がまた、明日の計画を話し始めているのが聞こえてきた。

 その声を聞きながら俺はベッドに倒れ込むと、すぐに深い眠りに引き込まれた。

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