表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の隣に  作者: ミサ
第2章
20/35

その19

 仕事が終わって、俺はその足でメイのマンションへと向かった。居るかどうかも判らなかったが、彼女の部屋のインターフォンを押す。彼女は家にいた。

「え?朝倉君……どうしたの、いきなり」

 玄関を開けて驚いた様にメイが言った。

「う…ん、ちょっと頼まれ物が---」

「頼まれ物?」

 俺はメイに、リョウから預かって来た紙袋を渡した。

「これは?…」

「リョウさんから預かって来た。借りてたハンカチとお礼のお菓子だって言ってたぞ」

「何で、朝倉君がリョウさんと?」

 びっくりした顔で俺を見る。

「今日、【ディア】の編集部に仕事で行った時に彼に会ったんだ」

 俺の説明に納得した様に、紙袋の中身を見ている。

「わざわざ、返してくれなくてもいいのに---リョウさん律儀だなぁ」

 メイは独り言の様に呟いていた。その顔は嬉しそうだ。

「じゃ…俺はこれで…」

 いたたまれなくて俺はそう言うと、メイに背を向け帰ろうとした。

「え?帰るの?」

 驚いた様にメイが俺を呼び止める。

 その声の調子につい振り返った。メイが何故か少し寂しそうに見えたのは気のせいか?

「一応、用は済んだから---」

「今日、カレー作ったの!作りすぎちゃって、1人で食べきれないから食べてくれない?」

 必死に訴えてくるメイに、俺はつい頷いていた。惚れた弱みだよな---そんな俺を見て、ホッとした様に彼女は微笑んだ。

「良かった!いつもご馳走になってて悪いなと思ってたから…今日、朝倉君の家におすそ分けで持って行こうかと思ってたんだ」

 そう言うと、俺を部屋の中へ招き入れた。

(は?俺の家に来るつもりだった?)

 メイを見ると彼女は既に、台所でカレーを温め直している様だった。

(なぁ麻生、俺---少しは期待していいのか?)

 彼女の姿を見つめながら、俺はそんな事を考えていた。

 テーブルに着くと、メイは俺の前に大盛りのカレーを置いた。そして、サラダや福神漬けなども出してくる。

「食べて、味は保証しないけど」

 そう言って、向かいの席に座って俺を見る。

「…じゃ、いただきます」

 俺はカレーを口に運ぶ。それを見守る様にメイはじっとこちらを見ている。

「どう?」

「うん、美味いよ。辛さも丁度いいし」

 その言葉に安心した様に、にっこりと笑った。

「良かった。ねぇ、少し持って行って。さすがに1人で食べるには多いから」

「いいのか?」

「いつも、私が貰ってるんだからたまにはお返し」

 そう言うと、席を立ち台所へ行くと容器にカレーを移していく。

 俺はそれを見ながら、残りのカレーを食べた。

「ご馳走様でした。美味かった」

 そして食器をさげようと席を立ちかけた俺に、メイが話し掛けた。

「朝倉君…少しは元気になった?」

 メイを見ると、気遣う様な眼差しをこちらに向けている。

 俺は黙ってメイを見ていた。

「好きな人に…思われないって辛いよね---」

 メイは俯いてしまった。え?泣いてるのか?

「……麻生?」

 恐る恐る彼女に近づきながら声を掛けると、メイは勢いよく顔を上げた。

 俺は反動で、思わず後ろへ仰け反ってしまった。

「元気出してね、片思いの辛さは私もわかる−−−」

「お前…好きな奴いるのか?」

 『片思いの辛さはわかる』ってそう言う意味だよな?すると、メイはバツが悪い顔をした。

「それは…」

「もしかしてリョウか?」

 俺はさっきのメイの顔を思い出して問いかけた。

 メイは一瞬驚いた顔をしたが、俺から視線を逸らした。

「---やっぱり、そうなのか?」

「朝倉君には関係ない……」

 その言葉に俺は固まった。

 ---メイがリョウを好き?---

 受け入れがたい事実に、俺は言葉が出なかった。

 確かにリョウはいい男だと思う。それは今日会ってよく解った。

 それにリョウもメイには好意を持っているみたいだった。おそらく2人が付き合うのは時間の問題−−−

 俺の感情が麻痺してきた。

「…?朝倉君…?」

 何も言わない俺に、メイがそっと声をかけた。

 その声にハッと我に返ると、口が勝手に動いていた。

「そうだな…ごめん。俺には関係ないよな……リョウはいい男だよ。この前はみる目ないなんて言って悪かった」

 俺の言葉を聞きながら、メイは訝しげな顔をした。

「俺……応援するから」

 心にも無い事を言う自分がいた。本当は無理にでもメイを自分の方へ振り向かせたい。だけど、彼には到底敵わないだろう。

 それにメイは俺の事は友達だと思っている。その関係さえ壊れてしまったら、辛すぎる---

「応援?」

 意味が判らないという感じで、メイは首を傾げた。

「ああ…リョウと上手くいく様に応援するよ」

「いらない!---そっとしといて」

 俺の言葉を、拒否するようにメイは顔をそむけた。

 室内に沈黙が流れる。

「ごめん…余計な事だよな−−−俺、帰るよ」

 沈黙に耐えきれずそう言うと、メイはパッとこちらを見た。

「朝倉君、私は……」

 メイが何か言おうとしていたが、俺は鞄を手に取ると玄関へと向かう。

「じゃ、また。企画会議の時に」

「朝倉君っ」

 後からメイがついて来る気配がする。

「ねぇ、待って!私は−−−」

「ごめんな。お前は大事な友達だから、幸せになってくれたらと思って余計な事言った。もし、何か悩み事とかあれば相談にはのるから言えよ」

 靴を履いて真っ直ぐメイを見る。

 メイは何か言いたそうな顔で俺を見ていたが、俯くと『わかった』と小さな声で答えた。

「じゃ…また」

 そう言って俺はメイの家をあとにした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ