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君の隣に  作者: ミサ
第2章
19/35

その18

 2週間後---

 さすがにあの時程の邪な思いは今は無い…と思う…が、酒は飲まないに越したことはないと、自分なりの答えを出した。

 しばらく禁酒する---俺は心に誓った。

 それなのにあの二日酔いの日以来、メイとは会っていない。

 食事に誘いたいが、家に連れて行くのはもう自分自身が信用できないので無理だ。外食はメイが極力避けたいみたいなので、あえて誘う訳にもいかない。

 今度仕事で会うのは、2週間後の企画会議しかない---

 やばい、どうする?俺……

 そんな悩みを悶々と抱えていた俺に主任はある事を頼んだ。

 そのせいで、俺は更に落ち込む事になった。



 俺は【ディア】の編集部の前に来ていた。

 さっき吉澤主任から『これ、【ディア】に持って行け』と言われ、【アンジェリア】のノベルティグッズ(ラインストーン入りの手鏡)をひと箱渡された。

「なんですか?」

 俺は箱を受け取りながら、主任に聞いた。

「ん?この前の雑誌の撮影の時に、『読者プレゼント用に何か貰えませんか?』って聞かれてたの忘れてて、さっき編集部から問い合わせの連絡が来たんだ。で、『持って行きます』って答えた」

 で、俺ですか?いいですけど……

「わかりました、行ってきます……担当の人って誰ですか?」

「あ、聞くの忘れた」

 主任がしまったという顔をして、俺を見た。

「いいです。行けばなんとかなるでしょう」

「悪い!頼んだぞ」

 そう言うと主任は拝む様に、俺を送り出した。



「さて、と……」

 俺が意を決して編集部のドアをノックしようとした時---

「うわっ!」

「え?あ、ごめん---大丈夫?」

 いきなりドアが大きく開き、もう少しで顔面にぶつかる所だった。

 その人物は焦った俺を覗き込むように訊ねてきた。

「だ、大丈夫です。いきなり開いたので驚いただけですから」

 そう言って顔を上げると、そこにいたのは『リョウ』だった。

 彼は俺の顔を覚えていたらしく、笑顔を浮かべた。

(やっぱり、カッコいいよな)

 彼の笑顔を見て、俺はついそんな事を思った。

「君、確か【グローリー・コーポレーション】の……」

「はい、朝倉です。今日は読者プレゼント用のノベルティグッズをお持ちしました。あの、担当の方はいらっしゃいますか?」

 モデルであるリョウに聞くのはどうかと思ったが、彼は専属だし担当者も知ってるだろう、そう思って訊ねると面白そうに笑った。

「……?…何か?」

 笑われた事に多少ムッとしたが、一応仕事なので表に出さない様に気をつけながら尋ねる。

 すると、彼は自分自身を指差した。

「俺だよ、【アンジェリア】の特集記事の担当は---で、一応、ここの社員」

「え?」

 意外な返事に俺は言葉が出なかった。モデルが社員?どういう事だ?

 そんな俺を面白そうに見ながら、彼は編集部内へと入る様に促した。

 リョウの後に続いて編集部内へと入ると、狭い室内に机がいくつも向かい合って並んでいた。編集者らしき人たちが必死な様子でパソコンを駆使している。その間を縫うように彼は奥にある応接室らしい所へ案内した。

「悪いけど、少しここで待っててくれる?」

 そう言ってリョウは席を外した。

 俺はソファに座ってさっきの彼の言葉を反芻していた。

(特集記事の担当で、社員だって?---モデルが本業じゃないのか?)

 そんな事を考えていると、再びリョウが戻って来た。手には2人分のコーヒーを持っている。

「ごめん……待たせて。今、締め切り前でみんな忙しいものだから、人手が足りなくて」

 そう言うと、俺の前にコーヒーの入ったカップを置いた。

「あ、すみません。いや、うちも頼まれていたプレゼント忘れてたんですから---これ、ノベルティグッズでオリジナルの手鏡です」

 俺はリョウに箱を手渡した。

「わざわざ、ありがとう。【ディア】が上がってきたら、真っ先にそちらへ届けるので楽しみにしてて下さい。出来は凄く良いと俺は思ってる。【アンジェリア】の良さを写真にも記事にも表現できたと思うよ」

 その顔は自信に溢れていた。

 俺は『リョウ』って人の上辺だけ見てたんだと、その時気づいた。彼は真剣に雑誌を作る事に取り組んでいる。そして吉澤主任と同じ、仕事が出来る男だと思った。

「リョウさん…って、モデルが本業じゃないんですか?」

 疑問に思っていた事を聞いてみる。

「ああ、たまたま撮影に来るはずだったモデルが急病でドタキャンになった時、カメラマンが俺に『やってみろ!』って言ったのを面白半分でやったらウケちゃって……そしたら編集長から続けろって命令されたのがモデルを始めたきっかけ」

 彼は楽しそうにその時の事を話した。

 そして、思い出したように問いかけてきた。

「そういえば、朝倉さんはメイちゃんと近々会う予定ってありますか?」

「え?あ、はい。一応月一回、企画会議の時には顔を合わせますが……」

 何だろうと思っていると、彼は一旦席を外した。

 2、3分たっただろうか?---彼は手に何か小さな紙袋を持って戻って来た。

「これを、メイちゃんに渡してくれないかな?この前、カラオケに行った時にハンカチ借りちゃって、何時返そうかと思ってたんだ。で、一応中にはお礼のお菓子も入ってるから、出来れば早めに渡して欲しいかな?」

 そう言って、その紙袋を俺に手渡した。

「わかりました。会議で会った時にちゃんと渡しますので」

 リョウから受け取りながら、俺は快く請け負った。

「良かった!それじゃ頼むね」

 安心した様にリョウは俺に向かってほほ笑んだ。

 そして俺の顔を窺う様に見た。

「それにしても、メイちゃんって本当に良いだよね?あんな子が彼女だったら良いと思わない?」

 彼の言葉に一瞬、鼓動が早くなった。しかし、俺は平静を装って返事をした。

「---そうですね。彼女は良い娘ですよ」

 これだけ言うのがやっとだった。

 そんな俺には気づかずにリョウは言葉を続けた。

「メイちゃんは、彼氏はいるのかな?」

「さぁ……聞いた事はないですけど---」

 答えながら俺は焦燥感に襲われた。

 ---リョウは、麻生が好きなのか?---

 彼は俺の返事に『ふーん』と相槌を打つと考え込む様に腕を組んだ。

 何?一体何を考えてる?

 じっと見ている俺に気づくと、『ああ、ごめんね』と笑って、再び記事の話に戻った。

 その後、撮影の時の写真を彼が見せてくれ、俺に『何枚か持って行っていい』と言ってくれたので、【ブラン】【ルージュ】それぞれ数枚貰って帰った。

 帰りの車で、メイとリョウが写っている【ルージュ】の写真を見た。今にも唇が触れそうな程の距離で2人は微笑み合っている。俺から見てもお似合いの2人だ。

 その写真を見て俺は胸が少し苦しくなった。

 麻生は……リョウの事、どう思ってるんだろう?---そして、俺の事は?

 答えなど出るわけない疑問が頭の中を支配する。メイに聞けば簡単だが、聞くのは怖い---

 俺は再び落ち込んだ。






  





 


 

 

 

 






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