その15
本編に戻ります。
お付き合いいただけたら光栄です。
あれから1か月後−−−取材された記事が載った雑誌が発売されると、メイは更に忙しくなっていった。
唯香と2人でファッション誌の表紙を飾ったり、トークショー等にも出る様になった。(最初は嫌がっていたが、唯香に注意されてからは頑張って出る様にしていた)
その為、最近は2人でゆっくり話す機会も減っていた。
今日は月1回の【アンジェリア】の企画会議の日だった。
唯香は他の仕事が入っている為欠席だったが、メイは参加していた。
今回の企画は、人気ファッション雑誌【ディア】と【アンジェリア】のコラボというもので、2人がその雑誌のモデル達と【ルージュ】と【ブラン】の服で一緒に撮影する。勿論、モデルの皆もその服で撮影をし、その雑誌の中で特集を組む。
一部、インタビューも入れ込む形になる様だ。
「で、【ディア】の方からは、『真帆』と『リョウ』、『瑛』が出てくれる事になった」
吉澤主任がホワイトボードに書き込んでいく。
「雪村、【ルージュ】と【ブラン】のメンズをこの企画用で準備出来るな?」
主任の言葉に雪村さんは頷く。
「大丈夫−−−各々5着づつ、今製作してるから」
「……よし、おい田辺、【ディア】の担当とは話し合い出来てるよな」
田辺さんは俺の2年先輩で、人当たりが良いため交渉等は彼が受け持っていた。
「はい、カメラマン、ヘア、メイク−−−全てうちが指定していい事になりました」
彼の答えに満足そうに頷くと、主任はメイを見た。
「メイちゃん−−−」
突然、主任に呼ばれたメイは慌てたように返事をした。
「は、はいっ?な、何ですか?」
主任はちらっと俺の方を見た(?)後、彼女へ笑いかけた。
「あのさ、今度の撮影ってリョウや瑛との一緒の撮影が多いんだけど、メイちゃん大丈夫?」
「…と、言うと?」
メイが不安そうに、主任の顔を見た。
「そうだなぁ…カメラマンの意向にもよるかもしれないけど、【ルージュ】ってどちらかというと、大人なイメージだから、セクシーさを求められるかも…まぁ、キスくらいは覚悟しててくれた方が---」
主任の言葉を最後まで聞かずに、雪村さんが立ち上がった。
「ちょっと、吉澤君!メイちゃんにそんなことさせないわよ。メイちゃん気にしないでいいから。私がそんな事させないからね!」
安心させるようにメイにそう言うと、何故か俺の方を見た。
何?雪村さん。
俺が訝しげに見返すと、雪村さんはそのまま何も言わずに席についた。
「---私、大丈夫ですよ。カメラに向かってするフリだけですよね?」
恐る恐る主任に尋ねる。主任もうーんと唸っている。
「カメラマンがどう言うかなんだけどね。俺も判らない…ただ、覚悟はしててほしいかな」
「判りました」
メイは小さく答えた。
その後、何事もなく会議は終了した。
「メイ、車を表に回してくるから待ってて」
俺はメイにそう言うと、車を取りに駐車場へ向かう為会議室を出ようとした---が、雪村さんに掴まった。
「うわっ、と、何ですか!雪村さん、驚かさないで下さいよ」
「いいの?」
いきなり彼女は俺にこう聞いてきた。
「---何がですか?」
意味が判らず俺が聞き返すと、雪村さんはムッとした様に更に聞いてきた。
「平気なの?メイちゃんが他の男とフリだけでもキスするの」
俺は雪村さんの言葉に、ドキッとしたが平静を装った。
「どうして俺に聞くんですか?撮影じゃないですか。別に俺は何とも思いませんが」
「あぁ…そう!判った---この、鈍感!」
雪村さんはそう捨て台詞を残して、怒ったように行ってしまった。
「……うっ、美味しい!久々だわ…手作りのご飯」
メイは感動した様に呟いた。
俺は美味しそうに食べるメイの姿を見ながら、自然と顔がほころぶのを抑えられなかった。
今日は、会議終了後は直帰でいいとのことだったので、俺は久々にメイを誘って俺の家で夕飯を作って食べさせていた。
「お前、飯はちゃんと食べろよ。今は忙しいんだから、体力はつけとかないと」
「---わかってるんだけど、外食や弁当が多いから」
「自分で作れよ」
「家に帰ったら即、眠ってるし。それに朝倉君みたいに上手くないもん」
拗ねたようにメイは言う。まったく、こいつは。
「とりあえず、保存食作ってあるから持ってけ。これとご飯だけでも少しはましだろう?味噌汁くらいは自分で作れ」
そう言って、何個かの容器を紙袋に入れてメイへ差し出す。彼女は驚いた様にそれを受け取った。
「え?いいの?ありがとう!助かる----朝倉君いい旦那さんになるわね…奥さんになる人が羨ましいな」
屈託なく言うメイに恨めしい気持ちが湧く。
「そうだな、いつになるか判らないけど」
自棄でそう言うと、何故かメイは一瞬、変な顔をした。
---何だ?
だけど次の瞬間、笑顔で答えた。
「大丈夫、朝倉君の奥さんになりたがる人は沢山いるよ」
お前は違うんだな。
わかってはいたが、少し落ち込んだ。
そして、その後はお互いの近況報告等を夜更けまで話し、俺は彼女を家まで送った。
【ディア】との撮影当日。
メイと唯香はいつもの様に、時間前にはそれぞれのブランドの服を着てスタジオに入っていた。
「おはようございます」
元気に挨拶しながらスタジオに入って来たのは『リョウ』だった。その後から『瑛』と『真帆』が挨拶しながらスタジオへ入ってきた。
リョウは真っ直ぐに、メイと唯香の方へ歩いてくると、2人に手を差し出した。
「はじめまして、2人と撮影一緒に出来て光栄だよ。今日はよろしく」
「あ、はじめまして。メイです。今日はよろしくお願いします」
そう言うと、彼の手を取り握手した。
俺はじっとその様子を見ていた。
彼はニコッと笑うと、メイの手を握り返し挨拶した。
そして唯香の方へも手を差し出したが、唯香はその手を無視した。
「早く撮影を始めましょう。時間が勿体ないわ」
彼女の一言で、撮影が始まった。
残りの2人もメイとは挨拶したが、唯香にはリョウと同じく無視されてしまっていた。
大丈夫かと心配したが、さすが全員プロだけあって撮影には何の問題もなかった。
唯香の【ブラン】は瑛と真帆が一緒に撮影に入った。
白い服の唯香に、淡いベージュのスーツに淡い綺麗なピンクのシャツを着た瑛と、彼のシャツと同じピンクの服を着た真帆は、唯香を引き立てるように見せている。
唯香は今日も清楚で、そこにいる全員が見とれていた。
メイの【ルージュ】はリョウが一緒だった。
彼は黒のスーツに着替えていた。さきほどのにこやかな表情とは違い、大人の男の顔をしている。片やメイはボルドーのドレスを着ており、2人並ぶと大人の色香が漂っていた。
リョウはメイの腰に腕を回し、彼女の身体を引き寄せて顔を近づけている。
駄目だ!直視できない。
俺は撮影の途中だったが、スタジオから外へ出た。
「だから、言ったでしょ?平気なのって…」
振り返ると雪村さんが呆れたように立っていた。
「…雪村さん、何で?」
「朝倉君のメイちゃんを見る目って、熱っぽいもの」
雪村さんの言葉に俺は赤くなる。気づかれてた。
「黙ってて下さいよ。あいつには」
「何で?」
「迷惑かけたくないですから」
雪村さんが何か言う前に、俺は再びスタジオへ戻った。
5人で対談という形でインタビューを行い、それが済むと今日の予定は全て終了だった。
唯香は次の仕事が入っているという事で、すぐに帰ってしまった。
俺はメイを送る為に、彼女の着替えが終わる迄、待つつもりだったのだが---
その日、彼女を送る事は無かった。
本編再開です。
新キャラ出てきました。
少しは話が進むかなと期待してます。
よろしければ、お付き合い下さいませ。




