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君の隣に  作者: ミサ
第1章
14/35

その14

 翌日---朝10時にメイのマンションまで迎えに行くと、彼女はすでに入口で待っていた。

「おはよう、家で待ってればいいのに…着いたら電話するつもりだったし」

 助手席に乗り込んできたメイに、俺は呆れたように言った。

「うん、何か早く起きちゃって。家にいても落ち着かないから」

 笑いながら答えた彼女の目は、眠たそうだった。

「……もしかして、寝てないとか?」

 俺の質問に慌てたように、首を振る。

「ううん、ぐっすり眠ったよ!むしろ寝過ぎたくらい?」

(うそつけ!)

 心の中でそう言うと、ゆっくりと車を発進させた。



「ところで朝倉君……連れて行きたい所って?」

 車が走り出してしばらくすると、俺の顔を窺うようにメイは聞いてきた。

「…着いてからのお楽しみ」

 前を見ながら俺が答えると、メイは『ケチ』と呟き窓の外を眺めていた。

 どれくらいたっただろう---あまりにも静かなので信号が赤になった時に何気に助手席を見ると……メイは既に夢の中にいた。

(やっぱり、眠かったんだ)

 俺は彼女の無防備な寝顔を見て、微かに笑みが零れた。



「おい麻生、起きろ!着いたぞ」

 俺はぐっすり眠っている彼女の肩をそっと揺すった。

「うーん…どこ?……」

 ゆっくりと目を開けて、辺りを見回す。

 そこは隣の県に新しくできた、コミュニティセンターだった。市が運営しており、研修会議室、図書館、児童館、展示ホール、体育館や温水プール等もあり、最近注目されているスポットだ。

「え?ここ?」

 完全に目が覚めたメイは、着いた場所が意外なものだった為、目を丸くしている。

「そっ、ほら早く降りろよ」

「あ、待ってよ!」

 先に歩いて行く俺に驚いて、メイは慌てて車から降りた。

 建物の中に入ると、エレベータールームへ向う。

「ねえ、一体どこに行くの?」

 エレベーターが下りてくるのを待ちながら、メイは俺の方を見た。

「うん…来るの迷ったけど、どうしても麻生と来ないとだめだと思ったから----あ、来た」

 扉が開くと俺は中に乗り込んで、メイが乗るのを待ってから最上階のボタンを押した。

 それを見たメイは、エレベーター内の案内板から最上階の表示を探す。

「……え?プラネタリウム」

 そして俺の方を振り返った。

「何で?」

「あの時、プラネタリウムに行ったのがきっかけで、俺達気まずくなっただろ?だから、もう1度お前と見に来て、あの時の事がリセット出来たらと思って…」

 俺の真剣な顔をじっと見ていたメイはフッと笑った。

「うん、解った」

 そして最上階のフロアに着いた。



 そこは俺達が中学の時に行ったプラネタリウムとは違い、最新式の機種を設置しており内装も豪華だった。

 メイも同じ事を思った様で『うわー、今のプラネタリウムって綺麗なのね』と、ひとしきり感心していた。

 そして上映が始まった。

 天井に現れる四季折々の星座をみながら、俺はどうやってあの時の言葉を謝ればいいか考えていた。



「やっぱり、最新式は違うわねー綺麗だった!」

 メイは建物を出てもまだ興奮していた。

 俺はそんな彼女を見ながら、だんだん苦しくなってきていた。謝るきっかけが掴めない。

「どうかしたの?気分が悪いとか?それともお腹空いた?」

 さっきから黙っている俺が気になったのだろう、メイは振り返って聞いてきた。

「いや……そうじゃなくて…麻生、実は俺…お前に話したいことが……」

「何?」

 言いにくそうにしている俺に、メイは続きを促した。

「俺、ずっとお前に謝りたかった。昔、お前に向かって『背の高い女は好きじゃない』って言ったこと、すげー後悔した。本当はすぐにでも謝りたかった。だけど、意地になっていて結局謝れないままお前が転校してしまって……」

 メイは何も言わずに、俺の言葉をじっと聞いている。

「だから今更だと思うけど、謝りたいんだ。嫌われているのは分かるけど---」

「私、朝倉君の事嫌った事ないわよ!」

 驚いたように、メイは俺を見た。

「え?だけど、時々気まずそうな顔するよな?」

「それは…」

 困った様な顔をする。それを見て俺は話を続けた。

「出来れば昔の様に、友達として付き合っていけたらと思って…」

「友達…?」

 メイが小さな声で囁く。

 彼女のその言葉に頷くと、俺は更に話を続けた。

「麻生、あの時は本当に悪かったと思ってる−−−ごめん!」

 俺はメイに向かって頭を下げた。

「ち、ちょっと、朝倉君!やめてよ、もう私は気にしてないから…」

 焦った様な彼女の声が俺の頭の上で響く。

「それに、私だって酷いこと言ったし---お互い様だよ」

「でも、お前は謝った。俺がそれを受け入れなかっただけだし」

 尚も言い募る俺に、メイは首を振る。

「ねえ、もう忘れよう。昔のことだし。それに朝倉君の言ったことは間違ってないよ」

「は?」

 メイの言っている意味が解らない。

 俺が彼女の顔をじっと見ると、困った様な笑顔を浮かべた。

「男の人は、背の高い女の子よりも、背の低い可愛い女の子の方が好きよ。私の元彼も結局はそういう子を選んだもの…だから、朝倉君の言葉は正し----」

「馬鹿っ、んな訳ないだろう。男がみんなそうだとは限らない!お前の良さが解らない元彼が馬鹿なだけだよ。頼むから自分を卑下するな……今はみんなが注目するくらいの『いい女』になったんだから。自信持てよ」

 本気で怒っている俺に、メイは驚いた様な顔で俺を見つめた。

「ありがとう…でも、ちょっと照れくさいんだけど。朝倉君に『いい女』って言われるの」

 そう言って笑った。

 その言葉に我に返った俺は顔が赤くなるのが分かった。

 何も言えなくなった俺にメイは更に笑い出した。

「ねえ、お昼何食べに行く?私、朝早かったからお腹空いたんだけど」

「あ…ああ、近くにイタリアンの美味しい店があるらしい」

「イタリアン?やった!私、大好き。早く行こ!」

 さりげなく話題を変えてくれたメイに俺は感謝した。



 お昼のイタリアンは、評判どおり美味くてメイは大喜びだった。

 デザートまで平らげていたのだが、食べた後で体重の事を気にしていて、それが可笑しくて俺が笑うとプッと頬を膨らませた。

「ひっどい、人が真剣に悩んでいるのに…笑うなんて!」

「どこが?あんだけ美味そうに食ってたじゃないか。いいんじゃない?たまには」

 メイは『はぁーっ』と溜息をつくと、気を取り直したように笑った。

「そうだね、明日から少し控えればいいか」



 食事が終わった後、近くにあるショッピングモールへ立ち寄った。

 別に何かを買うといった目的がないまま、2人でいろんな店を覗いてまわった。

「あ、ごめん。少しここで待っててくれる?」

 メイが突然そう言って立ち止まった。

「何?どうかした?」

 俺は振り向いてメイの方を向く。

 メイはごめんというジェスチャー付きで『ちょっと、トイレ』と言うと、今来た道を駆けて行く。

(そんなに我慢してたのか?)

 俺は彼女が戻ってくるまで、近くに設置されていたベンチに腰かけていた。

 15分位たった頃、彼女が走って戻ってきた。

「ご、ごめんね、遅くなって」

「いや、別にそんなに慌てて戻って来なくてもいいのに」

 それからまた少し、歩いてから俺達は帰ることにした。



 メイのマンションの前に着いた時、彼女が『ありがとう』と俺の目の前にこぶしを差し出したので、思わず仰け反った。

「何?」

「手……出して」

 俺は訳が判らず手を差し出す。

 するとメイの手の中から、俺の掌に銀色の物が零れ落ちた。

 そっと持ち上げて見ると、ストラップだった。それもシルバーで地球をモチーフにしたチャームが付いている。

「え?これ……」

 驚いて俺はメイを見た。

 彼女は照れたように笑うと、助手席から降りた。そしてドアを閉めて窓越しに手を振る。

「今日のお礼。さっきショッピングモールで見かけて、朝倉君にぴったりだと思ったから---プラネタリウムに連れて行ってくれた事、わざわざ昔の事謝ってくれた事……全部嬉しかったから。大丈夫、私達友達でいられるから。もう昔の事は忘れて---」

「麻生…」

 彼女は入口の階段まで行くと、振り返った。

「じゃ、また今度。次は仕事だね」

「ああ…じゃ、またな」

 俺がそう言うとメイは建物の中へと入って行った。

 そんな彼女の後姿を見送りながら、俺は溜息をついた。

「……友達か」

 本当は『友達では嫌だ』と心のどこかで思っている。

 だけど、今は『友達だ』とメイが言ってくれた事に満足していた。






  







 

これで一区切りつきました。

次は横道に逸れて、番外編になる予定です。

そのあとに本編、やっとそれぞれの恋が動き出す?いや動いて下さいと思ってますが、私にもどうなるのかまだわかりません。

それでも、お付き合い頂けるならどうかよろしくお願いします。

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