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君の隣に  作者: ミサ
第1章
13/35

その13

 取材の後、反省会と称したミーティングがあり、それも終わった頃には夜も更けていた。

 俺はメイを送るため、駐車場から車を社の前に回してくると、メイは入口で、雪村さんや吉澤主任と話をしていた。

 軽くクラクションを鳴らすと、3人が振り向く。

「主任、雪村さん、何なら送って行きますけど?」

「いや、大丈夫だ。終電まではまだ時間あるからな」

「そうそう、それにお邪魔でしょう?」

 そう言うと雪村さんが悪戯っぽく笑っている。

「へ?」

「な、何、言ってんですか?変なこと言わないでください!朝倉さんにも迷惑ですよ」

 雪村さんの言葉にメイが焦ったように、反論している。

 俺は意味が判らず首を傾げていたが、吉澤主任が運転席の方まで回って来て一言。

「……メイちゃんは、うちの大事なモデルだ。よこしまな事考えるんじゃないぞ!」

 俺はやっと意味が呑み込めた。

「ばっ、馬鹿な事言わないで下さいよ。全く、2人共ふざけ過ぎです」

 真っ赤になっている俺を見て、主任は笑い出した。

「冗談、冗談。お前の事は信用してるって!……もし付き合うとしても、お前なら真剣に付き合うだろうし」

 もし---の後はメイ達に聞こえない位の小声だった。

「大丈夫ですって、彼女は俺のこと嫌いですから」

 俺は主任を安心させる為に言った。しかし、自分で言って胸が痛くなる。

「は?んな、訳ないって……」

 驚いた様に主任が何か言おうとしたが、メイが助手席のドアを開けた為話すのを止めた。

「それじゃ、お疲れ様です。気を付けて帰って下さいね」

 メイが2人に別れの挨拶をする。俺は車を発進させる時に軽くクラクションを鳴らした。



 帰り道、先程の2人のおふざけの所為せいで気まずい雰囲気になっていた。

(ったく、あの2人は変な所だけ息が合うから……)

 俺は心の中で悪態をついた。

 メイは外の景色を見つめていた。

「そう言えばお前、腹減ってないか?」

 俺はふと思い出して、メイに問いかけた。

 取材の為、緊張していてお昼を食べてないはず----

「うん、空いているけど……」

「何か、食って行くか?」

 俺の言葉にビックリしたようにこちらを見た。

「食べたいけど……こんな時間からだと居酒屋とかでしょ?料理がちょっとね……」

 メイが『うーん』と顔をしかめた。

「一応モデルなので、食事は気を使うようにって、社長に言われてるから」

 なるほど……俺はふと思いついた。

「おい、ちょっと遅くなっても大丈夫か?」

「?---明日はオフだから平気だけど」

 俺は車線変更をする為、指示器を出した。



 マンションの前に着いた時、メイが恐る恐る聞いた。

「…ここって?」

「ん?俺んちだけど」

 答えて、はっと気づく。

「待て、誤解するな!あの2人の話は忘れてくれ。俺にその気はないから、安心しろ!」

 彼女を安心させるように必死に言うと、メイは何故か複雑そうな顔をしていた。

「…俺は、お前に飯を食わそうと思って連れて来たんだよ」

「え?」

 俺の言葉にびっくりしたようだ。

「朝倉さん、料理できるの?」

「お前……俺が誰の息子か忘れてないか?」

「あ---おばさん!」

 メイが解ったと笑顔で答えた。

「そっ、大学進学で一人暮らし始めてから外食が多くなると、母さんの飯がどんだけ有難かったか判って、休みに入る度に家に帰って習ってた。意外に素質あったらしくて、結構美味いぜ」

「へぇ、そうなんだ。おばさんの料理懐かしいな……うん、ご馳走になろうかな。すごくお腹空いてるし」

「じゃ、決定ということで」

 俺は車を駐車場へ停めた。



「あの……何か手伝う?」

 メイがリビングから居心地悪そうに訊ねてくる。

「いや、必要ない。って言うか邪魔?」

 俺の家は対面キッチンになっているから、リビングにいるメイを見て言ったら、頬を膨らませた。

「邪魔って、ひどくない?」

「俺、自分のペースで作るから、人が入って来たら調子狂う」

 鍋の中を見ながら答える。

「わかった、テレビ見てる」

 そう言って、テレビを見る為に俺に背を向ける様にソファに座った。

 その背中を見て、俺はつい笑みが零れた。



「わぁ、美味しそう!」

 テーブルに並んだ晩飯にメイは嬉しそうな声を出した。

 今日のメニューは和食で、ご飯、鮭の塩焼き、キンピラ、だし巻卵、豆腐とわかめの味噌汁とありあわせで作ったものだが、メイは感動しているようだ。

「別に、作り置きとありあわせだぞ」

 あまりに喜ぶので、照れくさくてそう言うと、メイは首を振った。

「ううん、短時間でこんだけ作れるって偉いと思う。ましてや男の人だし」

「…とりあえず、食べようぜ。冷めちまう」

 2人向かいあって座ると、遅い晩飯を食べ始めた。

「美味しい!良かったーご馳走になって。下手したら家でラーメンだったかも」

「お前、食生活、気を付けるんじゃないのか?」

 咎めるように言うとメイは拗ねたように言った。

「だって、こんなに料理上手くないし…1人で食べるの美味しくないし…」

「もし良かったら、時々飯食いにくるか?俺も誰かに作る方が作り甲斐があるし」

「え、いいの?わーなんか、中学の時思い出すね」

 懐かしそうにメイが言う。

 その言葉で俺はふと思い出した。

「そういえばこの前から言いたかったんだけど、仕事の時は『朝倉さん』で良いけど、今みたいに仕事が終わったら昔の呼び方にしないか?俺も『麻生』って呼ぶから」

 メイがじっと俺を見た。

「いいの?」

「俺はその方がいいけど、お前は?」

「私もそれが良い」

「じゃ決まり。麻生さっそくだけど、食器片付けはお前がやって」

 俺が意地悪く言うと、上目使いでこちらを見てくる。

「朝倉君、昔に比べて意地悪くなってない?」

「俺が?飯も食わせたのに、意地悪?」

「---分かった、ご飯食べたら洗います」

 そう言うと、メイは黙々とご飯を食べ始めた。



「さて、じゃ麻生んちまで送るよ」

 メイが食器を洗い終わったのを見て、俺が言うと彼女は首を振った。

「いいって、ここからタクシーで帰る。朝倉君も疲れてるでしょう。ご飯もご馳走になったし何か悪い」

「別に、平気だって。それに俺も明日休みだし」

 俺がそう言っても、まだ躊躇っている。

「何だよ。俺が送ったら何か問題でも?家に彼氏が来てるとか」

 ワザとそんなことを言ってみる。自分で言ったくせに、もしそうだったらって考えると胸が苦しい。

 俺の言葉にメイは驚いた顔をした。

「まさか、彼氏いたらここには来ないでしょう。っていうか、朝倉君は大丈夫なの?私がここに来ても」

「俺も、別に今彼女いないし」

 お互い顔を見合わせる。

「あ、じゃ、送ってもらってもいい?」

 視線を外してメイが明るく尋ねる。

 俺はメイに笑いかけると、鍵を取りに寝室へ向った。



「じゃ、今日はありがとう」

 車から降りて窓を覗き込むようにメイが俺に話し掛ける。

 俺はそれに答えずに考え込む。

「朝倉君?」

 何も答えない俺をメイは不思議そうに見ている。

 意を決して俺は、メイを見た。

 そんな俺を彼女は小首を傾げて見返している。

「なぁ麻生、お前明日暇か?」

「え?まぁ予定はこれといって無いけど…」

「もし良かったら明日、出かけないか?」

 俺の突然の申し出に、戸惑っているのが判る。

「連れて行きたい所があるんだ。駄目か」

 俺の真剣な様子に何かを感じたのか、メイが笑顔で頷いた。

「うん、わかった。じゃ明日ね」

「10時に迎えに来るから」

 その言葉に頷くと、マンションの中へと入って行った。


 


   


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