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君の隣に  作者: ミサ
第1章
11/35

その11

 撮影から3日後、俺は出来上がった【アンジェリア】のポスターを抱え、【next】へとやって来た。

「こんにちは、今日はポスター持ってきました」

「わざわざ、ありがとう。結構良い仕上がりだそうね?」

 社長の渡瀬さんが笑顔で迎えてくれた。

「はい、このポスターを各ショップに掲げます。あと、各メディアでも取り上げてもらう事になりました。メイさんも今まで以上に忙しくなると思いますよ」

 俺は笑顔で手にしていた、ポスターを彼女へ手渡した。

 渡瀬さんは受け取ると、そのポスターを広げてみる。

 それは【ルージュ】のポスターで、背中が深く開いた深紅のドレスを着たメイが、こちらへ振り向いているショットだった。表情は艶っぽく大人の色香を醸し出している。

「ふーん、なかなか……今までのメイとは違うわね。さすが、兼島さんだわ」

 ご満悦な顔でそう言うと、俺の方を見た。

「で、今日の要件は?これを届けに来ただけではないでしょう?」

「はい、実は主任の吉澤から言われてきたのですが、これからメイさんも忙しくなってくるのでマネージャーをつけては?ということなんです…現在スタジオ入りから、仕事の行き帰りもすべて1人ですよね?せめて移動だけでも誰かつけてはどうかということなんですが」

 渡瀬さんは考え込む様に腕を組んでいる。

「うーん、うちの事務所って結構、個人営業的な感じなのよ。自分で仕事を取ってくるって感じでね。私は各々が取ってきた仕事の内容を見極めてあげて、有益か害になるかの判断をするくらいで、モデル達自身がマネージャーみたいなものだからね」

 俺は渡瀬さんの話を聞きながら、モデルも意外と大変なんだと思った。

「……ねぇ、悪いとは思うんだけど、そちらで手配って出来ない?」

「は?」

「もし、メイに誰か付けるとしたら、他のモデルに対して不公平になってしまう…【アンジェリア】の仕事に関してだけ必要なら、そちらで手配してくれた方が助かるんだけど」

 渡瀬さんのいう事も一理あるので、俺は頷いた。

「わかりました。吉澤にそう伝えます」

「ありがとう…助かるわ。ところで朝倉君、君いい体格してるけど、何かしてたの?」

 いきなり話が飛んで、驚いていると渡瀬さんが笑った。

「あ〜ごめんね、つい仕事柄見ちゃうのよね。朝倉君が【グローリー】の社員じゃなければスカウトしてたかも」

「…冗談きついですよ」

 俺が苦笑すると、彼女は真剣な顔になった。

「いや、本気だって…惜しいなぁ。絶対ステージ映えするのに」

「遠慮します。向いてないですよ、俺には.……一応、中学から高校まで水泳してました。今でも休みの時、ジムに行って泳ぎますよ」

 渡瀬さんは、納得したような顔をしていた。

 俺は中学2年から水泳を始めた。

 やはり、彼女の言葉が堪えていたんだと思う。泳ぎを始めて意外にも自分に向いている事に気づいた。すると楽しくて、毎日時間も忘れてひたすら泳いだ。

 高校に入学する頃には、痩せて身長も伸びていた。

 水泳もかなり上手くなってたらしく、水泳の授業後に水泳部から勧誘され、卒業まで続けた。

 今は時々、ジムで泳いで気分転換している程度だ。

「じゃ、俺はこれで。マネージャーの件は吉澤に相談後、折り返し連絡しますので」

 そう言うと、俺は【next】を後にした。




「あ、じゃ、お前がやれ!どうせ、現場に行くんだから、途中で拾って行けばいいだろう」

 会社へ戻り、主任に先程の社長からの話を相談すると、一言で片づけられた。

「俺ですか?」

「何だ?何か問題でも?」

「……いえ、わかりました。向こうには俺が送迎をする事を伝えます」

「頼んだぞ!メイは大事なうちの看板なんだから」

 そう言って俺の肩を叩くと、別の件で呼ばれた主任は席を立って行った。

(駄目だ、言えない。メイは俺の事が嫌いだから、この役目はしたくないなんて)

 彼女の気まずそうな顔を思い出し、俺は溜息をついた。


 


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