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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・14


 休みだったこともあって掃除機もかけたし、散らかしているわけでもないが、洗濯物は取り込んだまま放り出していたので、慌てて寝室へ持って行った。こだわりひとつないなんとも殺風景な部屋に美馬が佇んだことで、航は突如ニオイが気になった。男所帯は女性にとって臭いと聞く。ただでさえここはヤモメ男3人の部屋。もとい2頭とひとりの部屋。航はバタバタと窓際へ走り窓を開けたが、存外寒いことに気づいて薄く、1センチほど開けるに留めた。

 所在なさそうに立つ美馬にソファーを勧める。テーブルの上の鮭の残骸を美馬が見つめていることに気づき、慌てて台所に持って行った。そしてお茶ぐらい出さねばと、吊り戸のなかに無造作に仕舞われていたコップを出す。いつぞや6本パックのビールにくっついていたやつだ。

「まずは、あの、ライくんのことで……」

 おずおずと聞こえて来た美馬の言葉に、ペットボトルからコップにお茶を移そうとしていた航は速攻土下座した。

「本当にすみません、躾が至らないせいで!これからはレッスンの邪魔にならないように、ライが来たらすぐランを出ますんで!」

 やっぱりそれだったかと航は冷や汗をかいた。リクとカイの罵詈雑言は聞こえてないとはいえ、たぶんあのときふたりは相当吠えていたはずである。ライどころか露口でさえ、さぞかしやりにくかったことと思う。

 聞いたところによると、美馬が指導するアジリティや躾の教室は予約待ちが出るほどの人気で、特に休日ともなると1年先まで予約が埋まっているという。

 露口は保護施設が立ち上がった頃からの馴染み客で、ライを迎えてからは特に躾の面で美馬と懇意にしているらしい。落ち着きのないライに手を焼いていることは前々から聞いていたのであまり刺激しないようにと思っていたのだが。

「まさかリクとカイがあんなにライくんを挑発するとは思わなくて……」

 委縮する航に美馬は慌てて両手を振った。

「いえいえ!そうじゃなくて!そこは全然問題ないんです」

「そうだよ、お兄ちゃん。挑発とかしてないよ」

「励ましてたんだよ」

 しれっとした顔で言うリクとカイを航は睨みつける。

「よかったら、天道さんも一緒にライくんのレッスンに参加してもらえないでしょうかって、露口さんからお願いされまして……」

「は?」

 全然予想していなかったことを言われ、航は呆けた。

「え?なんで?」

 航は自分を指さす。

「火事から犬たちを助けたときも、天道さんの指示に従ってましたし……」

「いやま、あれは緊急事態でしたし、美馬さんがいたから言うこと聞いたんじゃないですかねえ」

 航はとぼけたが、実際ライは自分の意思で犬たちを助けようとしていた。

「天道さんにすごく懐いてますし……」

「……あれはナメられてるんですよ……」

 カツサンドをカツアゲされたり、踏み台にされたり。

「露口さん、とても気にしてるんです。天道さんの方がライくんのパートナーにふさわしいんじゃないかって」

「ええ!?やめてよ!お兄ちゃんおれたちのだよ!」

「ライ来たら食い扶持が増えるじゃん!お兄ちゃん、もうカツカツだよ!」

「やめなさい、キミたち……」

 腰を浮かすリクとカイを情けない気持ちで航がなだめると、美馬が眉を下げた。

「やきもち妬いてるんだね。お兄ちゃん大好きだもんね。でも大丈夫だよ。アジリティだけの話だよ」

「それでもイヤ」

「絶対反対」

「ライと遊ぶ暇あるならおれたちと遊ぶ」

「お兄ちゃんはおれたちを裏切らない」

 プイと横を向くリクと、航を見据えるカイ。航はため息をついて美馬を見た。

「すみませんが、こいつらが嫌がるので……」

「そうみたいですねえ……」

 美馬も笑いながらため息をつく。

「要は露口さんの指示をライが聞くようになればいいんですよね?」

「そうなんですが、なんだか日に日に露口さんの言うこと聞かなくなってきてて……」

 美馬は心底困った顔をする。

「前はもっと素直な子だったんですが……」

「典型的なハスキーって感じしますけどね。陽気で勝手でそそっかしくて」

 いうこと聞かなくてわがままで自分勝手に楽しくて自分が楽しければそれでよくて悪気はないけど周りは迷惑しててでも楽しくて毎日がハッピーで悩みとかなんにもなくて楽しくて。とまでは言わないが。

「明るくて、頭の良い子なんです。だから余計指示を聞かないことが露口さんの悩みの種で……」

 たぶん躾のプロの美馬にしても飼い主の露口にしても、素人の航に頼んできたのはようよう考えてのことなのだろうと察した。

「わかりました。毎回参加とはいきませんけど、とりあえず、今度露口さんとライが来たときに行ってみます」

「本当ですか!ありがとうございます!」

 美馬は目を輝かせて頭を下げた。

 隣で「えー」とか「ぶー」とかリクとカイが言っているのでレッスンに付き合うつもりはなかったが、ライに直接説教かますくらいはしてやってもいいだろうと航は思った。以前、「ママの困った顔が可愛い」などとすかしたことをほざいていたが、思った以上に露口が悩んでいることを知ったらライも反省することだろう。

「それともうひとつお願いが……」

 美馬は恐る恐ると言った風に顔を上げながら人差し指を立てた。



 


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