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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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13/52

犬がすっかり兄弟になりまして・13


 さんざん遊んで疲れているかと思ったら、リクもカイもまだ帰らないと言った。

 仕方がないので、ライがレッスンしている広いランの隣のランで、自由にさせておく。もっとボールを投げろと言われても、航の方に余力がない。正直航の方が疲れているのでさっさと帰りたかったが、リクとカイはランを隔てる柵のこちら側から金網にかじりついて、ライの姿を見学していた。

「……もしかして、やりたいとか?」

「ちがう」

 ふたりして食い気味に否定してくる。

 美馬の指示に姿勢を正し、Aフレーム、ハードル、ドッグウォークと次々こなしていくライをふたりは眉を寄せ凝視している。

 次に露口の指示に、へらへらと笑いながら尻の座りも悪く落ち着きのないライは、フライング気味に指示の前に飛び出し、Aラインのてっぺんでえっへんと胸を張り、スラロームをズルし、やる気がないのかハードルを全部倒す。

 その瞬間リクとカイがヒューヒューと盛り上がり、どうしたどうしたいつもの威勢はどうした?疲れて足も上がんないのか、ええ?さしものハスキーさんもたいしたことないねえ、やっぱり身体重いんじゃあないのぉ~?しょせん重い橇引くための犬だよねえなどと、信じられないほど口汚くヤジを飛ばし始めた。

 航は驚き目を剥いてリクとカイを見る。

 ヤジられたライもうるせえ!と言い返す。悔しかったらおまえらもやってみろ!おまえらの方がどすどす足音ばっかりデカいんだろうがよ!身体デカくてスラロームが全部倒れるわ!悔しかったらやってみろデブ!

 柵を挟んで騒ぎ始めたリク・カイ・ライを航は止めつつ、つくづく露口と美馬に聞こえてなくてよかったと冷や汗をかいた。

 そしてライがレッスンに集中できるようにと、まだ何か叫んでいるリクとカイの襟首をひっつかんで帰宅した。



 いつもは閉園の時間までドッグランを使っているので、予定より1時間ほど早く家に着いた。帰り道々が良い散歩になったし、普段家で留守番しっぱなしのリクとカイにはいい運動になったと思う。

 いつもよりずいぶん早めの晩御飯をリクとカイに出し、航は自分の食事も作り始める。

 仕事がある日はカップ麵だのスーパーのお総菜だので済ませているので、日曜ぐらいは自分で魚を焼いてみようと鮭の切り身を買ってみた。あっという間にフライパンには焦げ付くし煙はもくもく立ち上がるしでリク・カイ共々大騒動してしまったが、食べられないことはなかった。他にフライパンが無く、仕方がないので焦げ付いたフライパンでもやしを炒めたら、なんと焦げが取れた。航は自分の天才っぷりに感嘆の声を上げた。

 焦げた鮭とポン酢をかけたもやしを肴に発泡酒を呑んでいるとドアチャイムが鳴った。

 航がここに越して来て、初めて鳴ったチャイムである。航の家を訪問してくる者などまずいない。たまに使う通販も、通勤途中のコンビニを受け取り指定している。

 航はハッとする。もしや先ほどの鮭の煙が火事と間違われ、消防に通報されたのでは!?

 航は慌てて立ち上がり、はいはいはーい!と返事をしながらドアを開けた。

「すみま……!」

「こんばんは」

 美馬だった。たちまちリクとカイが駆け寄ってきて美馬に抱きつく。

「わーい!美馬さーん!」

「リクくんカイくんこんばんわー。もうご飯は食べちゃったかなー?」

 美馬もリクとカイを抱き締め、いつものように頬ずりする。そして航を見る。

「ご飯、お誘いしようと思ったんですけど、もしかして済んじゃいましたか?」

「あ、今ちょうど食べてるところで……」

 たいしたものではないんですがと心の中で航は付け足す。

「あ、そっか、そうですよね……」

 美馬は小さく何度か頷くとリクとカイを下ろし、あいまいに笑った。

「あ、すみません、じゃあ、また……」

「え、え、え、な、なんですか、なんかあったんですか?」

 ドアを閉めようとする美馬を航は引き止めた。おっとりしてるが言いたいことははっきり言う美馬の、珍しく煮え切らない態度が気になる。

「いえ、あの、たいしたことじゃないので……」

「いやいやいや、たいしたことじゃなくても、なんかあったから来たってことじゃないですか、その言い方は。気になりますよ」

 なおもドアを閉めようとする美馬を、足を挟んで閉めさせまいとする。

「いえいえ、あの、わざわざ、ね。部外者の天道さんに相談することでは……」

「いやもう、ここまで来て部外者もなにも無いじゃないですか。気になります、言ってください」

「えーっと、あの……」

 ようやく閉めるのを諦めて航の方を向き直った美馬だが、なおも言葉を出しにくそうにしている。長い話なのかなと思った航はドアを大きく開け、身体を横にずらした。

「どうぞ。散らかってますけど」

「すみません。お邪魔します」

 美馬はためらうことなく中に入った。航も何も考えることなく、ドアを閉めた。



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