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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・12


 水口からウズラの話を聞き終わってドッグランへ戻ると、柵に涙目のリクとカイがへばりついていた。

「……置いてかれたかと思った……」

「なんでだよ」

 中に入ってふたりの頭を撫でる。自分と変わらない成人男子の頭を撫でるなど正気ではないなと思いつつ、情けない顔が可愛いと思えるようになってしまった。慣れって怖いなとつくづく航は思った。

 ボールでも投げてやるかと広い方のランへ行こうとすると、ウズラをはじめ、なにやら見知らぬヒトビトがぞろぞろとついて来た。自ら扉を開ける人もいないので、たぶん犬なのであろうと、航は黙って全員が扉をくぐり抜けるまで開けといてやる。列が終わればきちんと二重鍵を閉め、ほら行くぞーとボールを投げる。こぞって取りに走ったヒトビトを数えてみればリク・カイ・ウズラを入れて13人いる。13人?13匹?13頭?とにかくその13人が野球ボールほどの大きさのボールを争っているので、「ほら!もう1個あるぞー!」と握り上げて振ってみる。だが誰ひとり航を見るものはなく、ただひたすら先のボールを団子になって奪い合っている。見かねて「ほーら!こっちこっちー!」と反対側に投げてみるが、そもそも誰も見ていないので新たに投げられたボールを追いかける者は無く、いくらか弾んだボールはただ虚しくコロコロと端へ転がっていく。そのうちボールを手にしたカイが航のもとへと走って戻ってこようとするが、横からリクがタックルし、落ちたボールをウズラが奪い、その上に別の誰かがのしかかり、手から離れたボールを誰かが奪い、ラグビーの様相を呈してその集団は航に襲い掛かって来た。

「うおおー!?」

 避けようとしたが思わぬところから飛んできた誰かに体当たりされ、航は地面に押し潰された。

「ちょ、待て!誰だおまえ!」

 背中をさすりながら立ち上がると元気に飛び跳ねながら誰かが答える。

「ちーっす!アニキ!オレ!」

「ラーイーくーん!!」

 金網の向こうから露口が鬼の形相で叫んでいた。

「扉から入んなさいって言ったでしょう!ていうか、美馬さんが来てから!!」

「いいじゃんなあ?どっちみちこっちでやるんだし、先に入ってたってさ」

 航はうんざりした顔でライに訊いた。

「何、今日、アジリティのレッスン?」

「そ。なんか美馬さん忙しいから、ちょっと待っててって言われた。はい、投げてアニキ」

 リーリーと下がるライをリクが「なんでお前が参加してんだよ」と小突く。「いいじゃん、仲間じゃん。もうマブダチだろ?おれら」などと肩を組むライをリクが全力で突き飛ばす。「なんだこのー」と調子に乗って来たライがますますリクに構うと、リクは「やかましい!」と眉をしかめ、ますます取っ組み合いとなる。その隙にカイやウズラが航を見て「こっちこっちー」と手を振るのでそっちめがけてボールを投げてやる。結局リクとライ以外のみんながそっちのボールに集まるので、先ほど投げたボールは放置される。仕方がないので皆がボールを争っている隙に放置されたボールを航が取りに行こうとすると、ボールを取ったカイが航の方へ戻ろうとして、航がいないことに気づく。「あれ?」とカイが航を探したのと、「こっちこっち」と拾ったボールを航が振り上げたのが同時で、カイは持っていたボールを落とし、航をみつけた皆は航をめがけて走り出す。慌てて航は握っていたボールを投げるが、突進して来た皆に倒され、投げたボールはライがジャンプしてダイレクトキャッチしていた。

 野球とラグビーと格闘技が混ざったこれに、新しい競技名が欲しいと思う航だった。



「天道さんが来ると犬たちが楽しそうなんで助かります」

 保護犬たちの帰宅時間になり、回収しに来たスタッフに笑顔で言われ、航もはははと笑った。リクとカイのためにドッグランへ来ているのに、気づけばいつもボール投げをするときは誰かしら混ざっている。週を追うごとにヒトの数がなんか増えているなとは思っていたが、スタッフだけではなく、隣のランでベンチに座っていたご夫婦にも笑顔で会釈された。あっちでもこっちでも。なんだこれ。引率の先生とでも思われていたのか俺。泥だらけでへとへとに疲れているが、だが、助かりますと言われては怒る気になれない。所詮転がしやすい人間なのだろうなと、航は自分でも思う。

「じゃね、兄貴。またね」

 ウズラの頭を撫でて「またな」というと、他の何犬かわからないヒトビトも口々に「またね」と言って帰って行った。

 保護施設へ向かう扉が開いたと思ったら、入れ違うように美馬が小走りで出てきた。

「露口さん!ライくん!お待たせしてごめんなさい!」

 目の前に来て突然気づいたように美馬は驚いた。

「わっ。天道さん、いらしてたんですか。こんにちは」

「こんにちは。忙しそうですね」

「んもう、犬以外で忙しいのは疲れます……」

 ふうとため息をつく美馬のもとへリクとカイがすり寄る。そして両側からぎゅっと美馬を抱き締めた。

「優しいねえ~、リクくんカイくん。慰めてくれてるの?」

 リクとカイを一度にまとめて抱きしめ返しながら、美馬はうっとりと目を瞑る。航は厳しく言った。

「離れなさい」

 リクとカイはジト目で航を見ただけで離れはしない。さらにそこにライが加わった。

「ライくん!」

 露口の厳しい声が飛ぶ。

「離れなさい」

 航もさらに低く言い放ったが、むしろ離さないのは美馬のようだった。

 

 

 

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