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13 幸運と不運

 物語であれば、めでたしめでたしで終われる。


 ハッピーエンドであれ、バッドエンドであれ、そこで終わりにできる。


 けれど、ここは現実だ。


 死ぬまで物語(人生)を終わりにできないのだ――。





 他人から見れば、マグダレナは不運と幸運が半々の、まあいってみれば、どこにでもいる女性の人生を歩んでいるだろう。自分でもそう思っている。


 マグダレナは男爵令嬢だったが、父親が無能だったせいで家が潰れ、娼館に売られかけた。それが彼女の不運。


 けれど、貴族学園に入学した頃から自分に言い寄っていたフェリクス・ジョンソン公爵の愛人となり、彼の保護下で暮らしている。それが彼女の幸運。


 人によっては幸運とはいえないかもしれない。元貴族の令嬢が愛人になるなど。


 マグダレナとしては、不特定多数の男に体をいいようにされるくらいなら、たった一人の、しかも若くて美形で妙な性癖のない男を相手するほうが何倍もマシだと思っているが。


 マグダレナは見かけこそ可憐で儚げだが、中身は虚無を抱えている女だった。他人に対しては勿論、自分自身に対してすら何ら興味を持てないのだ。


 生家が潰れた事も、その後、父親が消息不明な事も、自身が愛人にまで身を堕とした事も、心底どうでもよかった。


 自分を愛し、苦界に堕ちる所を救ってくれた上、男爵令嬢だった頃より裕福な生活を送らせてくれる男だろうとフェリクスに対する恩も感じないし、当然愛など一切ない。


 だから、フェリクスがマグダレナとの子を形式上は正妻との子にするなどと言った時、彼を見限り、子を産み落とした後、以前から思案していた通り、公爵家を出ていこうと決意した。


 元々、あまり他人に囲まれるのが好きではないのに、妻に領地経営を丸投げし、愛人(じぶん)にべったりしてくるフェリクスがうっとうしかった。


 今の裕福な生活は惜しいが、このまま死ぬまで彼にべったりされる生活が続く事を思うと息苦しくて、ジョンソン公爵家を出ていこうかと思案していた所に、タイミング悪く妊娠してしまったのだ。


 さすがに宿った子を堕胎する(殺す)気はない。腹の中で十月十日(とつきとおか)命を育もうと()()()()には、おそらく母性というものは芽生えないと確信している。だが、そんなマグダレナでも無垢な命を自分の都合で勝手に殺すのは気が引けた。何より、単純に堕胎が怖かったのだ。


 そう、この時は、妊娠した事を運が悪いと思っていた。


 だが、そのお陰で、彼女に出会えたのだ。


 他人を蔑みきったその翡翠の瞳に――。






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