女王との駆け引き
◇
宮殿の通信係らしき人魚が女王へと繋いでくれた。女王は姫の家出を知っていた。
「知っていて何故放っておく?姫の言う通り、廃嫡するつもりか?」
『まさか。マリエルは妾を除けば、人魚族一の強者じゃ』
だから王太女にした。弟王子は男子故大切だが王になる器ではない。女王はそう言って、ため息をついた。
『じゃが厳しくし過ぎたかの。妾の顔色を窺ってばかりで、民を率いる自覚が無い』
「…」
段々と愚痴めいてきた。皇子はともかく姫を引き取って欲しいと伝える。だが女王は思いもがけない依頼をしてきた。
『殿の下で躾けてたもれ。仮の眷属とすれば陸でも暮らせよう』
「待て。仮とは言え王女を眷属になど…」
皇子は慌てて断ろうとした。女王は彼の言葉を遮った。
『あの剣。人族が作った物じゃ。殿の目的は始めからあれであったな?』
驚いた。女王は何もかもお見通しだった。神器らしき剣は今、皇子の影の中にある。それを手に入れるために王子を癒し、沈没船へ向かったのだ。
『クラーケンの呪いは、人族の剣が原因であったとエルフ共に知れたら事ぞ』
「…知れたらどうなる?」
皇子は開き直った。
『人族の国の1つ、2つは消えるだろうて。だが娘を預かってくれれば、黙っていてやろう』
「…分かった。預かろう」
駆け引きは女王の勝ちだった。皇子は仕方なく了承した。女王が更に依頼を追加する。
『亜人会議が1週間後に決まった。マリエルをその場に連れて行ってほしい』
会議が開かれる場所は、ちょうど皇国への航路の途中だ。寄ることはできる。女王は皇子を姫の後見役に指名した。会場までの海図と姫の荷は後ほど送らせるという。
『恐らくエルフがクラーケンの件を突いてこよう』
「承知した。人魚族の責にならぬようにする」
また面倒事を背負ってしまった。暗澹たる思いで皇子は通信を切った。
◇
船長は航路の変更に反対した。ただでさえ難所が多い。そんな未知の島に寄るのは自殺行為だと言う。人魚族の女王の命だと脅し、追加の報酬として海底宮殿の土産を分けることを約束する。人魚の宝に目が眩んだ船長は承知した。
「全然大丈夫です!お任せください、旦那様!」
航海士たちと相談すると言って船長は船室を出て行った。残る翁は不満を述べた。
「一刻も早く皇国へ行かねば。そんな亜人共の会議なぞに時間は割けませぬ」
皇子は影からあの剣を出した。自らの手を切って血を垂らす。古びた剣は眩い光を放った。
「天叢雲剣で間違いないな」
「確かに。殿下はこれを取りに海底に?」
翁は剣を押し頂き、皇子に訊く。
「そうだ。人魚族の女王はこれが人族の剣だと気づいた。エルフ族が知れば復讐は避けられんそうだ」
皇国の混乱が原因だと責められる可能性もある。それこそ悪霊の思う壺だ。そう説得するが、翁はあまり納得していない。結局、島に滞在するのは3日間だけという条件で了承した。
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人魚の姫を預かることになった。女王に神器の件で脅されたそうだ。あのババア。ミナミは心の中で悪態をつく。サメ娘だけでも余計なのに、更にロリ人魚か。
「…姫を俺の眷属とする。あくまで仮だ」
姫が王太女としての自覚を持った暁には解除するそうだ。仮なので名付けはしない。皇子は姫に自分の血を与えた。すると尾びれが足に変じた。姫の魔法ではなく皇子の魔力らしい。マリエルは浴槽から恐る恐る出た。
「ありがとうございます!背の君!」
「その呼び方は止めろ。お前と妹背の契りを交わした覚えはない」
皇子も姫からお前呼びになっている。もう眷属だからだ。彼の冷たい態度にマリエルはショックを受けていた。
とりあえず、幼女を連れて船長に1名増えたことを伝えた。
「え?また増えたんですか?何この可愛い生き物…」
変態船長は美幼女を穴の開くほど見つめる。キモい。ミナミは蔑んだ目で変態を見た。
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夜、皇子は仲間と魔法騎士を食堂に集め、亜人会議とやらに寄ることを発表した。そしてマリエルで動作確認した自動翻訳機を配った。人魚の魔道具を真似て耳飾り型だ。これで言葉が通じないが故のトラブルは避けられる。
「せ…殿は怒ってらっしゃるの?」
マリエルはべそべそ泣いていた。外見は子供なので早めにベッドに入っている。弟妹の世話に慣れたリコリスが寝かしつけていた。ミナミはタマの服のサイズ直しをしている。サメのくせに胸がきついらしい。ぷりぷりしながら針を運ぶ。
「宮さまは元々あんな話し方をする方です。怒ってはいませんよ」
リコリスは優しく慰める。ようやく人魚と話ができて嬉しいらしい。ミナミは縫いながら口を挟んだ。
「怒っちゃいないけど、迷惑がってるよ。ヨッシー、自分勝手な女嫌いだから」
ガーンと効果音が見えそうなほど衝撃を受ける幼女。布団で顔を隠してまた泣いている。王太女、メンタル弱いな。可哀そうになったミナミはアドバイスをした。
「アイツ、魔法バカだから。魔法であっと言わせたら、見る目変わると思うよ」
翌日、マリエルは船の間近に巨大な渦潮を発生させた。あやうく沈没しかけ、激怒した皇子にしこたま怒られていた。




