眷属
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ミナミと皇子の初の共同作業は微妙な結果に終わった。呪いは見事祓われたが、人魚の姫は幼女化してしまったのだ。
『良い。死んでしまうより、ずっと良い』
女王陛下は泣いて喜んでいたから、成功としたい。姫は難破船に行ったところまでの記憶しかなかった。呪いに支配されていたことは覚えていない。人魚の医師に診せても、原因も元に戻る見込みも分からないと言われた。
姫本人は周囲にに迷惑をかけたと知るとしゅんとしていたが、すぐに元気になって皇子を追っかけていた。
とは言え、こちらも旅の途中。無事に瘴気の発生源を消せたので、人魚族に別れを告げて帰ることにする。
『殿には返しきれぬ恩ができたの。また遊びに来てたもれ』
女王はたくさんのお土産を持たせてくれた。玉手箱風のものは無い。貴重な海の宝石類や工芸品、魔道具などだ。皇子は人魚族の魔法を幾つも教えてもらい、満足そうだった。
いざジンベエ号に乗り込もうとすると、1頭のサメが寄ってきた。皇子が借りていたサメだ。
「お前も見送りにきてくれたのか?」
サメの頭を優しく撫でる皇子。サメは女王に平伏し、口をパクパクと動かした。さすがにサメ語は分からない。女王が通訳をしてくれる。
『この子は殿について行きたいと言うておる』
皇子は驚いたようだが、少し考えていた。まさかサメを飼うつもりか。
「嬉しい申し出だが、陸では生きていけまい」
『殿の眷属とすればよい。影に入れておけば水も要らぬ』
女王がサメを連れて行くよう勧める。皇子はミナミたちに飼ってもいいかと訊いた。
「俺が責任を持って世話をするから」
親にペットをねだる子供のようだ。彼が何かを欲しがるのは珍しいので、皆了承した。女王の指導で眷属化の儀式を行う。と言っても名付けをして皇子の血を与えるだけだ。
「お前は雌か。では豊玉姫と名付ける。我が祖先に連なる女神の名だ」
サメの口に皇子の手のひらの血を注ぐと、その大きな体が縮んだ。数秒でサメは人化した。アッシュグレーの長い髪と金の瞳の美少女だ。縦長の瞳孔だけがサメらしさを残していた。
『これは珍しい。殿の魔力で人化したようじゃ』
皇子は裸の少女に上着を着せ掛け、立たせた。サメ娘はふらつく足で立ち上がり、片言の人語で礼を言った。
「ありがと。との」
「人化したのか。元の姿には戻れるのか?」
「あい。サメ、なれる。との、のせる」
笑顔でサメ娘の頭を撫で、手を引いてジンベエ号に連れてくる。ミナミは怒りでわなわなと震えた。
「何だ。ちゃんと俺が責任をもって世話を…」
「しなくていい!あたしがする!」
ミナミは叫び、サメ娘を取り上げた。美少女をペットにするなんて、けしからん。
こうしてサメ娘改めタマを加え、皇子一行は船に戻った。
◇
2日ぶりで船に戻る。船長に連れ帰った豊玉を紹介すると、ひどく驚かれた。
「また増えたんですか?!女神が?!」
「俺と一緒の部屋で良いぞ」
「いいえ。タマは女子部屋で面倒見ます」
ミナミが割り込んできた。皇子が付けた名を勝手に変えている。そして服を与えると言って豊玉を連れて行ってしまった。皇子はその間に、制作途中だった自動翻訳機に取り掛かる。
時々老師に伝話で相談しながら、1時間程で完成させた。だが試そうにも、今は人魚族がいない。考えあぐねていると、廊下から騒ぐ声が聞こえてきた。
「どうした。何かあったのか?」
ヒナが桶に海水を入れて運んでいる。皇子がその背に声をかけると、慌てて戻ってきた。
「女王陛下からいただいた贈り物の中に、姫さまが入ってました!」
◇
皇子がミナミの部屋に駆けつけると、彼女はリコリスとぐったりした幼い人魚に懸命に海水をかけていた。
豊玉に着せる服を探していたら、部屋の隅に積み上げた土産の箱から物音が聞こえたそうだ。箱を開けると姫がいたとか。
「熱中症かな!?水も飲ませないと!」
姫は赤い顔をして呼吸が荒い。皇子は“癒し”をかけた。水魔法で体も冷やす。大分症状が落ち着いた。
「豊玉。人魚の子供は水から出ては不味いのか?」
皇子は眷属に訊く。海のことは海のものが詳しいだろう。
「あい。うみ、みず、ない。だめ」
片言だが意味は分かった。ミナミたちは急いで浴槽に海水を汲み入れた。姫をその中に入れる。とたんに姫は目を開けてばちゃりと跳ねた。皇子を認めて尾びれを振る。
『背の君!』
「…姫。どうしてここへ?」
苛立ちを隠さず皇子は問うた。折角助かった命をまた危険に晒して。亜人の姫でなければ怒鳴っているところだ。彼の怒りが伝わったのだろう、姫はびくりと固まった。
『背の君のお側に置いてください。下働きでも何でもいたします!』
見た目は幼いが、中身は年相応だ。浴槽の中で伏して皇子に願う。
「言ったであろう。姫は海にしか住めぬ。俺たちはいずれ航海を終え、陸に上がる。連れては行けぬ」
『…』
姫は唇を噛んで黙った。ミナミが口を開く。
「あんた人魚族の王太女でしょうが。自覚無さすぎじゃない?」
『弟が。弟の呪いが治ったら、私は無用なのよ…』
泣きながら姫は打ち明けた。弟を溺愛する母は、いずれ姫を廃嫡するだろうと。
「それはないんじゃない?あんたが助かって泣いてたよ。お母さん」
『臣下や背の君がいたからよ。本心からじゃないわ』
何とも拗らせた母子関係だ。皇子は土産の山から人魚族の“伝話”を取り出した。確かこれで海底宮殿と連絡が取れるはずだ。皇子は一旦自室に戻り、耳飾り状の魔道具を起動させた。




