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落胤

            ♡




 ピアーデ王の遺骸は皇子が寝台に安置してくれた。寵姫もリコリスが服を整えた。


「あら?」


 リコリスが何かを見つけた。寵姫のドレスの袖から青銅の鏡が出てきた。


「見せろ」


 皇子はそれを受け取った。まじまじと銅鏡を見ている。こちらの鏡はもっとガラスっぽい。さすがに銅鏡はない。お守りじゃないだろうか。ミナミがそう言うと、彼は「そうだな」と言って、それを影に仕舞った。


 最近、影魔法に荷物を入れられることが分かった。捕虜もそこに入れてある。


「そうだ!捕虜!どうしよう!?」


 200億ゴルドが回収できない。ミナミは絶望した。今の王城は気絶した兵と四天王2人しかいない。誰とどう交渉したらいいのだ。


「それより生存者がいないか探すぞ」


 3人で後宮を捜索をする。あの赤毛の子も無言で付いてくる。色々ショックだったようだ。あんなに皇子にグイグイ行くような厚かましい子が、すっかり落ち込んでいる。


「死体だらけですね…」


 どの部屋もミイラか白骨ばかりだった。少なくとも半年以上前に、王と後宮の人間は殺されていたようだ。王の妻子は1人も残っていない。最後に厨房らしき場所を捜す。ここも無人かと離れようとした時、微かに猫の鳴き声が聞こえた。


「猫だ。誰かのペットが生き残ってるかも」


 ミナミは鳴き声を追った。食糧庫らしき部屋の扉を開く。暗い中に足を踏み入れると、はっきりと鳴き声が聞こえた。赤ん坊の泣き声だ。


「お…お助けください…殺さないで…」


 痩せて薄汚れた女性が赤ん坊を抱えて(うずくま)っていた。


「リコー!ヨッシー!生存者発見!」


 ミナミは嬉しさに飛び上がって2人を呼んだ。




            ♡




 たった1人の生存者は女官だった。皇子が彼女に浄化と再生、治癒をかけた。悪い寵姫は倒したと伝えると、ほっとした様子だった。食糧庫に潜み、たった1人で半年以上生き延びていたそうだ。すごい精神力だ。まだ生後3か月の赤ん坊は、元気になった母の乳をお腹いっぱい飲んで眠っている。


 侍女と赤ちゃんの世話が終わると、他の部屋を捜索していた皇子が戻ってきた。


「話を聞かせてもらうぞ」


「はい」


 女官は畏まった。救出したばかりの女性に尋問なんて。ミナミは抗議しようとしたが、リコリスが真顔で首を振って止める。


「その赤子は男子か」


「はい」


「ピアーデ王の落胤だな」


「…」


 らくいん。隠し子。口をつぐむ女官を、ミナミは目を丸くして見つめた。皇子はため息をついた。


「血筋を守ったのは良い。だが今のこの国は…」


 宰相も大臣も官僚もいない。魔法士も全滅。兵は捕虜になっている。唯一残った王族が3カ月の赤ん坊。空の王城に暴徒が押し掛けてくるのも時間の問題だ。ミナミたちが潰さなくても、とうの昔に潰れていたのだ。


「権力の不在が諸国に知れ渡れば、切り取り放題になるな」


「…この国のことは、この国の人に決めてもらおうよ」


 このお人好しは、また他人のゴタゴタを背負い込もうとしている。悩む皇子にミナミは提案した。


「この国の民とは?」


「捕虜たちだよ」


 今はネズミだが、2万人もいれば何とかなるだろう。




            ◇




 皇子はまず、宮廷魔法士団の団長とその部下を取り出した。目が覚めた彼らは、自国の王城の広間にいることに気づき、驚いた。


「お前たちを解放する。条件はノースフィルド王国への正式な謝罪と今後100年間の不可侵条約の締結だ」


 魔法士たちはざわめく。団長の老人が口を開いた。


「我らには決めることはできない。王に…」


「王は崩御した。半年以上前だ。寵姫がそれを隠していた」


 皇子は後宮での一件を伝えた。なかなか信じようとしない彼らに、スクリーンで寵姫との戦いを見せた。


「…どうすれば良い」


 団長が苦しそうに言う。


「このまま暴徒と外国に踏みにじられるか、自身の手で国を立て直すか。選べ」


「また2択か。後者だ。決まっておる」


「ではお前がこの中で最高位の貴族だ。摂政となれ」


 皇子は女官と赤子を招き入れた。ピアーデ王の血筋が生き残っていたと知ると、団長は泣いて喜んだ。


 魔法士団の生き残りは20名。四天王を名乗る大男と土饅頭の中の男も出してやる。それから広い練兵場で2万の騎士を元に戻す。身一つでは役に立たないので、鎧と武器も“再生”してやった。


 ネズミから人間に戻った彼らは、なぜかミナミとリコリスに(なつ)いていた。餌をやったり世話をしてやった記憶が残っているらしい。彼女たちの指示をよく聞くので、王城の警護や官僚がすべき仕事を割り振らせる。


 王城に人気がもどったところで、皇子はノースフィルド王国に土人形を遣った。




           ◇




 夜更け。王の私室に黒髪の美女は現れた。予めイザベラを通して謁見を申し入れてある。


「…なるほど。最悪の状況だな」


 美女の話を聞いた王は顔を(しか)めた。隣国の政情不安は自国に影響する。ピアーデが瓦解すれば流民が押し寄せるだろう。助けるか見捨てるか。どちらがリスクが高いか。


「もう一つ。ピアーデ王の落胤がいる」


 後宮で見つけた女官の子を、ノースフィルドで預かってほしいと頼む。向こうで養育するのは危険だ。人質としてこちらにいる方が何かと好都合だろう。


「上手く立ち直れば、養育の恩を売って返す。反乱が起きれば、正当な血筋として立てる」


「良いだろう。こちらで育てよう。不可侵条約と援助の件も分かった」


 王はピアーデへの全面支援を決めた。十数年後には大きな利を産むと判断したのだろう。


「ピアーデの王子に、太子の娘が嫁げば理想的だな」


 ふと思ったことを言うと、王は笑い出した。


「気の早いことを。まだイザベラを口説いている途中だぞ」


 王族が妻を娶るのに口説く必要があるのか。この世界の常識は不思議だ。美女の理解できないという顔を見て、ますます王は笑った。

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