殴り込み
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いよいよピアーデ王国にカチコミをかける。ミナミは上機嫌で王都の大路を歩いていた。モーリー&ミナミ商会の記念すべき初取引だ。商品はネズミと化した捕虜2万人。200万ゴルド×2万=2百億ゴルド。力づくでも払ってもらう。
「これでウチらも億万長者だね!」
笑顔で隣を歩く皇子に話しかける。
「そんな金が残っているか怪しいぞ。見ろ。流民ばかりだ」
彼が差し示す路地裏は、確かにホームレスみたいな人だらけだ。この国の経営は上手くいっていないらしい。
「物価もおかしなくらい高いです。これでは民は飢えてしまいます」
後ろからリコリスが言う。物品の売値がノースフィルド王国の王都と比べると倍以上高い。重税に耐えかねた農民が王都に集中しているそうだが、どうやって食べ物を得ているのだろう。犯罪率も高そうだ。
まだ魔法が使えないヒナとノアは郊外の宿で待っている。3人娘たちはこの新しい弟がすっかり気に入ってしまった。育ちのせいか、とても素直で良い子なのだ。
「留守番組にお土産買いたいけど、どれも高いねえ」
大路の店を冷かしながら行くと、やがて城門に着いた。門番が槍を交差させる。
「止まれ!許可証を見せろ」
もちろんそんな物は持っていない。皇子が防壁で門番を吹っ飛ばした。見えない巨大ハンマーで殴られるみたいだ。詰所風の部屋から、わらわらと兵が出てくる。皆吹っ飛ばす。作戦は特に無し。正面突破だ。
「出会え!敵襲だ!」
堀にかかる橋の向こうから兵の一団が現れた。ミナミは最前列の兵の足を土魔法で固めた。すると後ろから押されて次々と将棋倒しになる。次にリコリスが軽い雷を落とし、全員を昏倒させる。最後に皇子が風魔法で堀に落とす。
3人は連携して王城の中を進んでいった。
「魔法士が出てきませんね」
リコリスが不思議そうに言った。ミナミも大量の魔法士がいると思っていた。
「まさか全員やっつけちゃってた?」
「いや。いるぞ。強い魔力反応が近づいている」
皇子が懐中時計みたいな魔道具を見て言う。魔力波検出装置を改良してできた魔力波レーダーだ。
舞踏会とかが開かれてそうな大広間に出た。そこには4人の魔法士が待ち受けていた。デカいおっさんと、赤い目のジジイ、銀髪ロン毛男、赤毛の小娘ときた。何かのパーティーみたいだ。
「よくぞここまでたどり着いたな!我こそはピアーデ王国宮廷魔法士団四天王…」
大男が長い名乗りを始める。『四天王』と聞いて噴き出しそうになった。
「俺が大男と老人をやる」
皇子は最後まで聞かずに走り出した。あっと言う間に大男の後ろを取る。頸椎に雷魔法を流すと、大男は倒れた。
「卑怯な!」
残る3人が魔法を打ち出してきた。ミナミは銀髪野郎を相手取る。氷魔法士のようだ。“氷槍”が襲ってくる。防壁で弾くと、野郎はひゅうと口笛を吹いた。
「可愛い顔してやるなあ。魔力量も多いね。オレと結婚しない?」
長い銀髪を気障ったらしく払い、ナンパしてくる。鳥肌が立った。
「やなこった」
「つれないな。アイツの女なの?」
銀髪野郎は老人と戦う皇子を顎で指した。ミナミはウォータボールを放った。野郎は笑ってそれを斬る。無数の水滴が周囲に撒かれた。
「もうお終い?じゃあ今度は…」
余裕の笑みを浮かべる野郎に、ミナミはスキルを放った。
「身体以外、“消えろ”!」
銀髪のほとんどと、身に着けていたものが消える。(パンツは残した)
「ギャー!!!」
自慢の銀髪が短髪になった野郎は、頭を抱えて叫んだ。その隙に土団子に閉じ込める。ミナミの完勝だった。
♥
リコリスの相手は赤毛の少女だった。まだ14、5にしか見えない。火属性の魔法士らしく、強力なファイヤーボールを立て続けに放ってきた。防壁で防ぎつつ、距離を縮める。雷を纏わせた剣で打ちかかると、意外にも少女も炎を纏わせた剣で受けた。魔法剣士だ。
(この子、できる!)
小さな見た目に騙されるところだった。リコリスと少女は激しく打ち合った。実力はほぼ互角か、やや少女の方が上かもしれない。リコリスの背に冷汗が流れた。
(ん?)
少女の様子がおかしい。ちらちらと横目で老人と戦う皇子を見ている。さらに雷と炎が舞う鍔迫り合いの中、リコリスに話しかけてきた。
「ねえ!あの人、あんたの男なの?」
「は?」
意外過ぎて呆気に取られる。少女は頬を染めて、
「めちゃくちゃカッコいいわね!名前教えてよ!教えてくれたら、手を引くわ」
と交渉してきた。リコリスは驚いた。
「良いんですか?四天王なんでしょう?」
「どうせジジイも負けるわよ。実力が違いすぎる。あたし1人頑張ったって無意味だし」
顔をしかめて言い捨てる。仲間意識の薄い四天王のようだ。
「あんな良い男、初めて見たわ!魔法も凄いし。剣もできそうだよね?年幾つ?結婚してる?あんたたち愛人?」
完全に魅了されている。怒涛の質問に口が挟めず、リコリスは困ってしまった。2人は戦いを止めた。勝負は引き分けだ。
◇
あの赤目の男に似ている。老人と対した皇子は思った。
「誘拐犯の首は預かっているぞ。返して欲しいか?」
カマをかけてみる。老人が闇魔法の雨を打ち込んできた。使う技も似ている。血縁か。
「…黒い悪魔とは貴様のことだな。孫の敵、討たせてもらう!」
では老師が言っていた宮廷魔法士はこの老人か。祖父と孫と戦うとは、深い因縁を感じる。
闇魔法士は珍しい。皇子もあの赤目の男とやり合って以来だ。今回は小細工は無い。老人は“影渡り”を巧みに使った攻撃を見せた。中空に同時に10以上の闇を出し、そこから魔法を打ち出すのだ。
(面白い。こんな技があったのか)
本能で闇魔法を避けつつ、皇子は新しい知識に興奮した。すぐに真似をしてみる。
「おおっ?!」
老人の赤い目が見開かれる。皇子の魔力量なら30以上の闇が出せたのだ。死角はほぼ無い。
あっという間に老人の身体に何十もの穴が開く。勝負は皇子の勝ちだった。




