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裸のネズミ

            ◇




「敵軍が布陣を完了した模様です!」


 砦の兵が報告してきた。彼らは皇子たち一行を王都から視察に来た宮廷魔法士だと思っている。ついでに上位貴族の振りをして、指揮権も取り上げた。一般兵には籠城を命じてある。


「ご苦労。後は俺たちに任せておけ」


「はっ!」


 魔法士など見たこともない僻地の兵だ。崇拝の眼差しで見送られる。皇子らは敵陣を一望できる見張り台に登った。眼下は見渡す限り敵兵だ。


 未明に屋敷を出ようとした皇子は、翁からピアーデ軍の動きを知らされた。国境で敵を食い止めるべく、影渡りで砦に来た。


 王城の襲撃。王女誘拐。宣戦布告もない国境侵犯。敵の目的が読めない。王族の暗殺が目的なら、今回も王城で何かの騒動がある。


 翁を通して警告もした。侯爵令嬢と男爵令嬢も後宮の護衛にした。あとは目の前の敵を打ちのめすだけだ。




            ◇




 矢を射て敵の降伏勧告を突っぱねると、ついに戦が始まった。5万の大軍は雲霞の如く押し寄せ、あっという間に砦の四方を取り囲んだ。だが皇子の防壁が寄せ付けない。見えない壁に阻まれ、ピアーデ軍は困惑する。矢を射かけても跳ね返され、攻城兵器も役に立たない。


「ミナミ、行きまーす!」


 片手を上げてミナミが前に出る。地面に土魔法を流すと、敵軍の足元が2メートル以上陥没した。歩兵も騎兵も落下し、混乱が生じる。将校たちが何とか上に這い上がろうと指示を出しているが、それより早く土砂降りの雨が降ってくる。ミナミの水魔法だ。


「馬と人間以外、消えろ!」


 ミナミがスキルを発動する。以前は己の周囲1.5メートルに限られていたが、今は魔力を含んだ雨を媒介に1000倍の範囲で“消去”できるようになった。彼女に殺人への忌避がなければ、最強最悪の技だろう。


 砦の周囲にできた堀に、鎧と武器を失った兵が転がっている。馬も馬具が無くなり、乗り手を振り落とした。


「パンツは残してやった。武士の情けじゃ」


 意気揚々と謎の言葉(セリフ)を言うミナミ。身一つで呆然と立ちすくむ敵兵に次なる試練が降りかかる。


「次は私ですね!行きます!」


 リコリスが土人形を練習した結果、人間よりも動物の土人形の方が操りやすいと分かった。そこで大量のネズミの土人形を作り、堀の中の敵兵に取り付かせる。何度払いのけても、土ネズミは執拗に齧りつく。


「ネズミになれ!」


 スキル“身代わり”は、自身だけが変身するものではなかった。接触することで相手の姿も変えることができる。土人形を触媒に、兵がどんどんネズミに変じていく。ものの数分で砦を囲む兵は消えてしまった。


「凄いです!お姉さま!」


 水晶球で映像を撮っているヒナが興奮して叫ぶ。いつの間にかミナミとリコリスを姉と慕っている。砦の兵たちも初めて見る魔法に歓声を上げて喜んでいた。




            ◆




 後宮のスクリーンで戦場を見ていた一同は、あまりに非常識な光景に言葉を失っていた。


「もっとこう…モーリーが敵を斬り刻むとか、吹っ飛ばすとかを想像していました」


「俺もだ」


 身内だけの素の言葉づかいで王太子が呟くと、父王も同意した。敵兵を裸にしてネズミにする。そんな御伽噺のような戦法あるものか。しかもうら若い少女魔法士と令嬢騎士の仕業だ。


「アレク、あの2人の力を知っていたか?」


 考え込みながら王は訊いた。王太子は首を振る。


「いいえ。ミーナは優れた魔法士だと思っていましたが、これほどとは」


 真の力は隠すものだ。自分が知っていた彼らの姿は、ほんの一面に過ぎなかったということか。


「…ふふっ」


 ユリアが肩を震わせて笑い出した。スクリーンを見ると、砦の兵が、せっせとネズミを回収している。逃げ回るネズミと追う兵が滑稽だ。ミナミが手のひらにネズミを乗せてつついている。そしてリコリスと水晶球に向けて笑顔で手を振っていた。


「兵を裸にして、ネズミさんに…あははは!すごいわ!」


 妹は涙を浮かべて笑い転げている。王妃も護衛の令嬢らも口を押えて笑いを堪えている。王と王太子は呆気に取られた。そして気づく。彼らは王女を癒すために、その実力を(さら)したのだと。




            ♥




 ユリア姫は幸福感に包まれていた。辛く寂しかった記憶が上書きされる。


「可笑しいわ!ねぇ、お母さま!」


「え、ええ。面白いわね…裸…ネズミ…ふふふ」


 笑う義母に、軟禁中にリコリスがネズミに変身して来てくれたことを話す。王妃は目を見開いて義娘を抱きしめた。


「そう…辛かったわね。ごめんなさい。すぐに助けてあげられなくて」


 王妃は黒髪の美女と同じ言葉を言う。ずっと腫れ物に触るように、誘拐中の話は避けられていた。姫は泣きながら王妃にしがみついた。


「大丈夫。知ってるわ。皆が頑張ってくれてたこと」


 そして父と兄にも抱き着く。二人はぎゅうと姫を抱きしめ、「すまなかった」と詫びた。


 一度折れた骨は太く強くなると言う。きっと心も。笑顔を取り戻したユリア姫は、想い人とその仲間に感謝した。



「陛下!戦場の様子が!」


 護衛の侯爵令嬢が叫ぶ。皆の意識がスクリーンに戻った。そこでは美貌の魔法士と敵の魔法士団の激闘が始まっていた。

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