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魔道具“伝話”

            ◇




 5万の敵を無力化した直後、防壁に亀裂が走った。20人以上の魔法士団の攻撃だった。


「撤収!砦に戻れ!」


 ネズミを回収し終わった兵を砦に戻し、更に強固な防壁を張りなおす。今度は皇子が出る番だ。


 王城襲撃の時と同じだ。ピアーデの魔法士は数人組で大魔法を放つ。彼らは皇子を囲み、氷槍(アイスランス)を打ち込んだ。


「また氷槍か。他に無いのか」


 素早く背後にまわり、1人また1人と雷魔法で意識を刈り取った。起きると面倒なので影に放り込む。


 リコリスも応援に来る。ミナミも砦から土饅頭で援護してくれた。あっという間に敵は半減した。


「お前が黒い悪魔か!」


 一際(ひときわ)魔力の多い老魔法士が挑んで来た。早さも技の練度も高い。相手にとって不足なしと、皇子は挑戦を受けた。


「さては襲撃犯の生き残りがいたか。皆殺しにしたと思ったが」


 軽く挑発すると、老魔法士は強烈な“風刃(ウインドカッター)”を繰り出した。なるほど、あの風魔法士の師か。皇子は空中へ跳んだ。老人は雷魔法も使う。たちまち風と雷の嵐のような戦いになった。




            ♡




 皇子が一番強そうな魔法士のジジイと戦い始めた。リコリスが数人をボコボコにする。ミナミはすることが無くなった。なので王城に連絡を入れてみた。ミナミ発案のもと、皇子が作り上げた魔道具“伝話”を使う。見た目はスマホっぽい。だが通話とショートメールぐらいの文字が送れるだけの道具だ。


「こーゆーの作りたいって言うだけで作っちゃうヨッシー、すごいわ」


 同じものを老師とイザベラに渡してある。とりあえず老師にかける。


「もしもし?老師?今大丈夫?」


 暫くして老師が出る。初めてのわりに慣れている。


『ミーナか。そっちこそ大丈夫なのか?モーリーが苦戦しとるように見えるぞ』


「してるわけないじゃん。生け捕りにしたいから手加減してるんだよ。騎士団長さんいる?」


 いるらしいので代わってもらう。


「あ、ご無沙汰してます。すみません、こっちの捕虜の身代金の相場って幾らくらいですか?」


『ミーナ嬢?どうなってるんだ?なぜ声が聞こえる?』


 普通の反応だ。声を伝える魔道具だと言うと絶句している。驚かせすぎたか。


「それでぇ、捕虜の相場なんですけど。やっぱ騎士と歩兵とか違いますよね」


『歩兵に捕虜交換は無い。戦奴として売るしかないな』


 奴隷制があった。ミナミは衝撃を受けた。仕方ないので歩兵は釈放することにする。騎士が1人当たり200万ゴルドが相場らしい。ウルフの毛皮より安い。


「それ、ウチが頂いても良いですよね?ウチらが捕まえたんだし」


『それは…陛下に聞いてくれ。そもそもピアーデが挑んだのは我が国だからな』


(今王様と話したくないんだけどな)


 そうも言えず、礼を言って切った。だが金庫番として働かねば。ミナミはイザベラに伝話をかけた。




            ♥




 皆で戦いの推移を見守っていた後宮の部屋に、ふいに奇妙な音楽が流れた。イザベラは慌てて懐から薄い板を取り出した。ミナミが渡していた魔道具“伝話”だ。


「はい。イザベラです」


『あ、ごめんね。今大丈夫?』


 思ったよりずっとはっきり聞こえる。すぐ隣にミナミが居るように感じた。


「大丈夫です。ミーナ様もご無事ですか?モーリー様は?」


『全然大丈夫。ヨッシーも、あれ手加減してるから』


 ほっと胸を撫でおろす。するといつの間にか横に王太子がいた。


「イザベラ?!何それ?何でミーナと話してるの?」


 綺麗な顔をぐいと近づけ、伝話を見る。イザベラは失礼が無い程度に下がって距離を取った。


「これはミーナ様よりお預かりした魔道具です。距離に関わりなく話ができます」


『殿下いるの?イザベラちゃん、右下の赤いラッパマーク押して。スピーカーになるから』

 

 ミナミの指示の通りにすると、魔道具から大きな声が聞こえた。これで部屋にいる全員に聞こえる。


『殿下、すいません、捕虜のことなんですけどぉ』


 王太子は魔道具と、思いもよらない内容に二重で驚かされた。


「捕虜?あのネズミのこと?」


『安心して下さい。元に戻せますから。騎士団長に聞いたら、騎士は200万ゴルドで交換できるって。それ、ウチで頂いて良いですか?』


「それよりモーリーが…」


『あー。生け捕りにするつもりなんで。めっちゃ手加減してます。大丈夫。ほら、ジジイ落ちた』

  

 確かにスクリーンには空中から叩き落される敵魔法士が映っていた。


「生け捕りにしてどうするのさ」


『そりゃ吐かせますよ。諸々』

  

 王太子が何と答えようかと迷っていると、ユリア姫が口を開いた。


「ミーナさん!」


『ユリア姫?ご機嫌よう!どうでした?ネズミ、面白かった?』


「ええ!とっても!みんなで大笑いしたわ!」


 ミナミがリコリスにだろう、『姫にウケたわー!大成功!』という声が聞こえた。


「…ありがとう。モーリー様にもお伝えしてください」


『承知しました。もうちょっと待っててくださいね!ピアーデの悪い奴にお仕置きしてくるんで』


 明るい声で物騒なことを言う。姫は苦笑した。


「あまり無理なことは…。私はもう大丈夫よ」


『いや。天誅を下します。二度と毛が生えない魔法をかけてきます』


 部屋にいた女性が皆笑う。王と王太子は複雑な顔をして頭を触った。

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