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翁の条件

            ◇




 昼餐後、男たちだけで首実検をする。その結果、誘拐犯の闇魔法士は東の隣国ピアーデ王国の宮廷魔法士だということが判明した。


「何回か会ったことがある。昔は国を越えて魔法士同士の交流があったんじゃ」


 老師が奴を知っていた。だが今はもっと老齢のはずだという。


「息子か孫という可能性は?」


「無くもないが。今となっては分からん」


 皇子の問いに、老師は首を振った。生かしておくべきだったか。だが殺せる時に殺しておいた方が良い。その方が後悔は少ない。


「あの大臣もピアーデ王国からの援助を得ていた。王太子宮襲撃犯と誘拐犯との関りを正式に問う使者を出すが…」

 

 できれば戦は避けたいと王は言う。相手は認めないだろうが、放っておけば舐められる。出兵の準備が必要だろう。


「此度の一件で痛感した。我が国の魔法研究を一気に進めねばならん。特に国防と諜報だな」


「その通りです。長い平和が魔法の発展を妨げていた」


 王の決意に王太子が賛同する。差し当たって諜報分野のテコ入れに、あのヤマタイ皇国の忍び衆を使えないか。繋ぎを取ってほしいと頼まれた。

 

「それは構わんが…。連中も国に帰るらしい。まだ捕まるかどうか」


「お呼びで。殿下」


 急に天井裏から翁の声がした。だから王城の警備は問題だと言うのだ。王と王太子の警備が防壁を展開する。良い訓練にはなっているか。


「下りてこい。聞いていただろうが、話がある」


「はっ」


 天井板が外され、翁が現れた。王に平伏した後、皇子の前で首を垂れる。


「何なりと。殿下」


 王は面白げに翁を見た。異国風の振る舞いが珍しいのだろう。皇子は翁を(ねぎら)った。


「今回の働き、大儀であった。その方ら忍び衆の見事な技をノースフィルド王は望んでおられる」


「ありがたき幸せ。ただ、忍びの技は門外不出。こちらで教えることは叶いませぬ」


 当然だ。易々(やすやす)と教えるはずがない。


「どのような条件であれば良い?ヤマタイ皇国とは国交は無いが、これを機に使者を送っても良い」


 王が交渉に入る。翁は平伏しながらも優位だ。暫し考えた後、条件を提示した。

 

「では3つ。御国の使者として護良殿下をお送りくださること。ある物の捜索にご助力いただくこと。我が孫を殿下の側仕えとしていただくこと。…以上の条件をお飲み下されば、忍びの里への留学を受け入れまする」


 翁はまだ皇子を皇国に連れ帰るつもりだった。呆れて物も言えない。


「ほとんどモーリーが決めることだな。どうする?」


 王は完全に笑いを堪えている。皇子は憮然とした顔で答えた。


「…使者として赴くのは構わんが、すぐに帰るぞ。探し物の協力は問題ない。孫とは何だ。側仕えなど要らん」


 翁はぱあっと顔を綻ばせた。


「ではぜひ側女に。我が孫娘ながら、容姿も教養も殿下の側女がたに劣りませぬ。忍びの技で護衛もできまする」


 謎の売り込みが述べられる。王は口を押えて体を震わせている。このままでは収集がつかない。


「…一度会わせろ。それから決める」


 とだけ言って、即答は避けた。またミナミたちが騒ぐだろう。皇子は今から頭が痛かった。




            ♡




 王城の一角。ミナミたちは侯爵令嬢が借りてくれたサロンでお茶を楽しんでいた。首実検には不参加だ。生首なんぞ絶対に見ない。

 皇子は釈放され、誘拐事件も解決した。侯爵令嬢も回復済み。ミナミは心の底から解放感に満たされる。ただ、先ほどの昼餐での令嬢の発言の真意が気になっていた。


「弟子って、どゆこと?王太子妃候補止めちゃうの?」


 単刀直入に訊く。令嬢は皇子の釈放に尽力してくれたが、惚れてはいないと思っていた。どちらかと言うと、王太子と良い雰囲気だったはずだ。


「そのままですわ。立派な闇魔法士になりたくなったのです」


 紫と黒のグラデになった瞳が微笑む。前より一層神秘的だ。


「王太子妃は…私でなくとも良いのでは?父はあれこれ言うでしょうが、私は私にしかできない事を見つけました。それが闇魔法です」


 ミナミはこの世界の女性を誤解していた。皆、人生イコール結婚だと信じていると思っていた。


「皆様のお陰ですわ。学園を卒業したら魔法士になります。よろしくお願いいたします」


「うん。大歓迎だよ。イザベラちゃん」


 ミナミも令嬢の夢を応援したくなった。王太子には悪いと思うが。3人は和やかにお茶とおしゃべりを楽しんだ。




            ♡




「断固反対。絶対ダメ。そんな女置くなら絶交する」


 翁の出した条件を聞くなり、ミナミは激怒した。やっと老師の家に皆で戻れたのに。何でこの国の諜報部門強化のために皇子が側女を取るのだ。意味が分からない。


「俺も嫌だ。しかし翁の願いを無下にするわけにもいかん」


 皇子も困った顔で言う。ジジイが姫の探索に協力してくれたのは確かだ。その情報のお陰で奪還作戦が成功したのも。だったら王太子がその女を貰うべきではないのか。怒りのままにそう叫んだら、天井から声がした。


「さては殿下の寵愛を失うと?」


 見合上げると、天井板の隙間から翁が顔をのぞかせた。ミナミはカッとなった。怒りで魔力が漏れ出る。


「くそジジイ!下りてこい!」


「ミーナ様落ち着いて!」


 リコリスが間に入って止める。皇子はため息をついて、翁に下りるように言った。


「早速ですが、孫を連れて参りました」


 翁ともう1一人、少女が現れる。紺色の長い髪を一つに束ね、ボディコンシャスな忍者服を着ている。彼女は皇子の前に(ひざまず)くと名乗った。


「ヒナと申します」


「…(おもて)を上げよ」


 顔を上げた少女と皇子の目が合う。リコリスはミナミを部屋の隅に引っ張っていくと、耳打ちをした。


「不味いです!めちゃめちゃ宮さま好みです!」


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