三種の神器
◇
季節は初夏になった。王立魔法学園の最終学期はあと1か月で終わる。今日は王太子臨席のもと、学園で検証した魔道具の研究結果が報告されていた。
「魔力波検知装置の件では世話になったそうだな。ありがとう」
「いいえ。歴史に残る研究に携われて光栄でした!」
報告会終了後、皇子は学園の教師たちに礼を言った。今、宮廷魔法士団と学園の共同研究が幾つも進められている。否が応でも、教師たちは燃えていた。王国の魔法学は新たな時代に入ったのだ。
「魔力回復薬、ですか?」
「そうだ。魔力切れを防ぎたい」
そのようなものが作れるか、赤毛の女教師に訊いてみる。イザベラの魔力切れの一件で考えた。これからも限界を超えて魔法を使う事があるかもしれない。そこに同属性の魔法士がいなかったら。それよりも魔力切れを起こさない対策が必要だ。
「魔力がどうやって生まれるか、から調べないと。結構大事ですよ」
「ぜひ貴女に頼みたい。ロッソピーノ師」
彼女は優秀な魔法士だ。きっと成果を出してくれるだろう。微笑みながら頼むと、うっすら頬を紅潮させて頷いてくれた。
「モーリー様と共同研究なら…」
「もちろん。ではよろしく頼む」
研究熱心で助かる。用は終わったので皇子は会場を後にした。
◇
「モーリー。ちょっと良いかな」
帰ろうとすると王太子に声をかけられた。彼と会うのは首実験以来だ。お互い時間があるので、ティールームの個室へ行く。
「話とは何だ」
「…イザベラの事だよ」
先日の昼餐の時の令嬢の一件だ。侯爵令嬢と王太子はもうすぐ学園を卒業する。公式行事以外、会うことは少なくなるだろう。今のうちに彼女の真意を知りたいと言う。
「そんなこと、令嬢に直接訊け」
呆れて突き放す。この男は侯爵令嬢のことになると歯切れが悪い。面倒なので当人同士で話をさせることにする。
学園内は魔法が使える。皇子は足元の影に声をかけた。
「俺だ。今、来られるか?」
そう言って個室の番号を伝える。すぐに令嬢が“影渡り”で現れた。
「お呼びですか?師匠」
王太子に気づき、令嬢は王族への礼を取った。皇子は席を立つ。
「太子が話があるそうだ」
「モーリー!?」
狼狽える王太子と令嬢を置いて、影に潜った。他人の恋路など知ったことか。こちらはこちらで大変なのだ。影の闇の中、皇子はため息をついた。
♡
屋敷の雰囲気が悪い。原因は翁の孫娘だ。先日は挨拶ということで、一旦お引き取りいただいた。だが今日、また来た。皇子がまだ学園から戻らないので、居間で待たせている。
ジジイと孫娘。ミナミとリコリス。テーブルを挟んで沈黙する。翁が口火を切った。
「お怒り御尤も。だがあれほどの御仁、これからも夫人や側女は増えますぞ」
端からミナミたちを側女と決めつけている。
「違う。あたしが怒ってるのは、あんたが孫娘をモノみたいに扱ってることだ!」
老人を睨みつけてテーブルを叩く。老師も皇子も、男尊女卑の考えは変わらない。でも女をモノ扱いはしない。貴族の令嬢達だって親が決めた先に嫁ぐが、婚約式をしたり、贈り物や手紙を交換してお互い尊重する。それは人として守らなきゃいけない最低限のマナーだからだ。
「心の底からヨッシーを愛してて、嫁になりたいなら歓迎する!でも!アホなジジイがほいほい献上してきた女なんか認められるか!」
そう啖呵を切ると、翁と孫娘は驚いて固まった。リコリスは腰を浮かせてオロオロしている。すると床の影から皇子が現れた。
「…そういう事だ。ヒナよ。暫くここで働いてみるのはどうだ?」
問われたヒナは目を見開いて皇子を見た。決定権を委ねられたことが無いのだろう。目が泳いでいる。
「いつか、心の底から俺を愛するようになるかも知れんぞ」
ちらりと皇子がミナミを見て笑う。バッチリ聞かれていた。恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
翁は複雑な顔をして黙っていた。
「では、殿下と皆様に認めていただけるまで、頑張ります」
ヒナがおずおずと言う。話すと幼さが見える。ミナミと同い年くらいかと思ったが、もっと若いかもしれない。これが皇子の好みなのか。ロリコンなのか。訊くとまた怒られそうだから止めた。
◇
ヒナを従業員として雇うことになった。翁も一応納得した。ミナミとリコリスがヒナを屋敷の案内に連れていく。その間に、皇子は翁と第二の条件について話を聞いた。
「お前たちが探している物とは?モリナガ親王とやらのことか?」
忍び衆の腕も以てしても発見できなかった、皇子と瓜二つだという親王だ。翁は首を振った。
「いいえ。実は別に探している宝物があるのです」
親王失踪と同時に、皇家の始祖より伝わる神器が消えた。それらが失われたことで、ヤマタイ皇国は天変地異が起こり始める。神器は皇位の象徴であり、国を守る要でもあった。
翁たちは二手に分かれ、親王と神器を探した。神器を見たことのあるものは無く、闇雲にそれらしい宝物を探し求める。それがあの刺客、元船長の言っていた宝物だ。
「あの愚かな船乗りは、それらの宝物をこの国に持ち込もうとして捕まったのです」
「どうやって神器を見分ける?」
皇子は興味を引かれた。何やら大掛かりな魔道具のようだ。
「神器は始祖の血に応えまする。内親王様の血をいただき、それで確かめてまいりましたが…」
「不思議な話だな。それで、その神器とはどのような物だ」
翁は懐から紙を取り出して、皇子に見せた。そこには皇太后が描いたと言う神器の絵が描かれていた。
「八尺瓊勾玉、八咫鏡、天叢雲剣。始祖が異世界よりもたらした三種の神器でございます」
驚きのあまり皇子は言葉を失った。彼の知る三種の神器が、ここルクスソリアにもあったのだ。誰が?何故?様々な疑問が駆け巡る。神器の絵に見入る皇子を、翁はじっと観察していた。




