奪還へ
◇
釈放後、皇子はすぐに謁見を求めた。許可が下りると、ミナミとリコリスを連れて王城に出向いた。
「今回の逮捕はこちらに非があった。許せモーリーよ」
まずは王が謝罪をする。極めて異例なことだ。居合わせた貴族たちはざわめく。
「俺は何とも思っていない。闇魔法への理解が足りないことが原因だ」
皇子は鷹揚に受け入れた。そして、ある人物への告発を願い出た。横を見ると、ボアの時の大臣が真っ青な顔で立っている。まさか皇子が生きて現れるとは思っていなかったのだろう。
「これらは夕べ、牢に送られた暗殺者だ」
床に落ちた影から捕まえた刺客を出す。4人は意識を奪っているが、例の船乗りだけは証言させるために起きている。初めて闇魔法を目にした者は驚きの声を上げていた。大臣に顔色はますます悪くなった。
「この中に、お前に俺の暗殺を命じた者はいるか?」
これは茶番だ。事前に王と王太子には伝えてある。あの大臣はここで潰す。
「あの方です!平民を1人殺せば、ムショから出してくれるって言いました!」
船乗りも言い含めておいた通りに証言をした。そして土気色の顔をした大臣を指さす。場内は大騒ぎになった。大臣派の貴族も動揺を隠せない。
「い…陰謀だ!お前が企んだのだろう!私は知らん!」
「王よ。殺人未遂と姫の誘拐及び王太子宮襲撃の容疑で、この者を告発する」
大臣の悪足掻きを無視して、皇子は堂々と言った。
「言いがかりだ!証拠はあるのか!」
「あるとも。王太子宮と後宮の残留魔力波と同じものが、お主の屋敷からも発見されたぞ」
今度は老師が答えた。開発を託した魔力波検知装置は完成していた。王城内は魔法が禁止されている。上書きされない残留魔力はまだ残っていた。ましてや複数の人間を送り込む、強力な闇魔法だ。王太子宮にはいまだその魔力波が滞留していた。姫が消えた後宮の庭にも。
「そんな…残留魔力波…?」
知らなくて当然だ。魔法学園と宮廷魔法士団が総力を挙げて研究し、今日初めて発表されたのだから。大臣は膝から崩れ落ちた。
「捕らえよ」
王は短く命じた。大臣とその派閥の何人かが兵に押さえられる。捕らえる者は決まっていた。罪人は引っ立てられた。残った貴族たちは小声で囁き合っている。大臣率いる反王太子派はこれでお終いだと。
◇
謁見が終わった後、皇子たちは王、王太子、騎士団長らと内密に会った。姫の救出計画を練る。
「監禁場所が特定できた。すぐに出たい。国境を超える許可をくれ」
城下に潜んでいた誘拐犯は一昨日に王都を出ている。その後は東の国境に向けて移動していた。
「…その情報はどうやって?」
王が訊いた。多くの兵や役人を動員したが見つからなかったのだ。不思議に思うのは当然だ。
「紹介しよう。…いるか?」
皇子は翁を呼んだ。すぐさま天井から現れる。護衛たちが動こうとするが、王は手で止めた。
「いつもこの国にいるわけではないが、今回は協力を得られた。ヤマタイ皇国の忍び衆だ」
他国とはいえ王族だ。翁は御前に平伏する。王は直接問う。
「その情報は確かか?」
「はっ。10歳ほどの貴族令嬢を乗せた馬車を確認いたしました。今夜にはピアーデ王国との国境を越えまする」
あまりに詳細な翁の報告に王らは驚いた。次の課題は使える情報収集の組織作りになるだろう。
「多人数では不味いな。訓練中に誤って国境を越えたという体で行ってくれ」
王は戦になることを懸念しているのだろう。
「では魔法騎士団の選抜50名を貸してくれ。あとは俺とミナミとリコリスで行く」
「ちょっと待って。あと1人、連れていってほしいの」
ミナミが突然願い出た。誰だと問うと、下を指さした。影からすうっと侯爵令嬢が姿を現した。皇子も気づかないほど見事な隠形だった。
「イザベラ?!」
王太子が驚いて呼ぶ。学園の訓練着姿の令嬢は跪き、王に深々と一礼した。そのまま皇子に頼む。
「どうか私もお連れください。“影渡り”で参りますので、遅れはしません」
「…分かった。ではリコリスらと救出部隊の方を頼む」
一瞬迷ったが、あまりに見事な隠形だったので許した。だが王太子が、
「何言ってるの?令嬢が行く所じゃないよ。侯爵だって許さないに決まってる」
と反対した。
「太子、今は1人でも多くの優秀な魔法士を投入すべきだ」
「駄目だ!行かせない!」
王太子は頑なに拒否する。それほどノバリザイア侯爵令嬢を好いているようには見えなかったが。誰にでも愛想の良い男なので分かりづらい。
「恐れながら殿下。令嬢の闇魔法が絶対必要です」
ミナミは作戦を説明した。皇子はおそらく敵の闇魔法士に掛かり切りになる。救出部隊はその隙に姫を奪還する。
「令嬢はギリギリ姫1人なら“影渡り”で運べます。それが一番安全な方法なんです」
「…」
そう言われると、黙らざるを得ない。王太子はもうそれ以上反対しなかった。彼は令嬢に近寄ると、その手を取った。顔を上げた令嬢に真剣に言う。
「無事に帰ってきてほしい。ユリアも君も」
「はい。必ず」
(だから口説くなら二人きりの時にしろ)その場にいた全員が同じことを思っていた。
◇
その日の夕方、王都を50数騎の騎馬隊が出立した。目的地は東のピアーデ王国との国境。いよいよ姫奪還作戦が始まった。




