襲撃
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ヤマタイ皇国は大陸の東にある国だ。数百年間ほぼ鎖国状態であり、その実態は知られていない。号泣爺はそこから人探しに来た。探すのはモリナガ親王。1年前に先帝が身罷り、親王が即位する直前、突如として行方不明になったのだ。
守役だった爺は国中を探したが見つからなかった。とうとう大陸の他国まで探索の手を伸ばすようになった。そしてモリナガ親王と瓜二つの男を、ノースフィルド王国で見つけた。
「で、タキア領都で見失ったヨッシーを探して王都まで来たと」
爺の話を聞き終わり、ミナミは出された串団子を齧った。皇子は不機嫌に腕を組んで沈黙している。リコリスも静かに控えていた。
「そうでござる。これほど似ているのに別人だとは…」
「残念だけど、1年前にヨッシーがザワ村にいたのは確かだから」
ミナミの言葉に爺はますます意気消沈する。忍者衆も見るからに落ち込んでいた。これからどうするのか訊くと、皇太后に報告をするため、一旦国に帰ると言う。
「他に皇位を継承できる者はいないのか?」
ふいに皇子が口を開いた。親王ではないと分かってもなお、爺は敬語で答える。
「ございません。親王殿下だけが、唯一の直系男子なのでございます」
「…少ないな。先帝には幾人の妃と子がいたのだ」
「妃は3人でございます。親王殿下と内親王殿下以外は、皆幼いうちにお亡くなりに」
皇子は首を振ってため息をついた。
「詮無き事を訊いた。無事の帰国を祈る」
「は…」
3人は店を出た。色々と買いすぎたので辻馬車を拾って帰ることにした。
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米粉と小豆を大量に買ったので、ミナミは汁粉のような和菓子を作ってみた。リコリスには大好評だった。
「お…美味しいです!ミーナ様!」
「でしょー?次は御萩作るね」
「おはぎ、ですか?」
「煮詰めた餡子の中にお餅が入ってるの。本当は餅米で作るんだけど」
皇子と老師は甘いものを好まないので、味噌を塗って焼いた五平餅風のものも作る。男子組はそれをつまみに日本酒のような酒を飲んでいた。
「ヤマタイ皇国か。ニンジャとかいう怪しい術を使う暗殺者が有名じゃな」
ほろ酔い加減の老師はお猪口を呷った。和風の酒器も今回買ったものだ。
「別人と分かったのだ。もう現れないだろう」
皇子はいくら飲んでも酔わない。お猪口を珍しげに眺めながら、号泣爺の話を老師にしていた。
「空位のままでは国は持つまいの。気の毒なことよ」
「妃嬪が少なすぎる。同情できん」
老師の憐憫をバッサリ切る。
「我が陛下も、もっと妃を娶るべきだと言われておった。王太子殿下も未だ独身。直系が3人だけでは心もとないな」
「王子王女が殺られれば、すぐに断絶だな」
「これモーリー。物騒なことを言うな。聞かれただけでも反逆罪じゃ」
(相変わらず男尊女卑なんだよなー。こりゃ一生変わんないな)
追加の五平餅を焼いていたミナミは、師弟の会話に内心ブーイングだった。この時代の価値観は変えるのは至難の業らしい。
「はい、追加ね」
少し焦げた餅を出す。
「焦げとるな」「焦げてるぞ」
男どもが抗議するがスルーする。
「独身男も焦げ付いてますわよ」
「…」
男どもを黙らせると、ミナミは素知らぬ顔で緑茶を啜った。
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真新しい貴族服を着て参内したのは、雪がちらつく寒い日だった。皇子は紺のジャケットに黒いズボン、ミナミとリコリスはお揃いの赤い女騎士風の服だ。ズボンなので動きやすい。ドレスも悪くないのだが、なにせヒールが高すぎて一人で歩けないのだ。今回は双子コーデの女騎士がコンセプトだ。
「ご機嫌よう。モーリー様、ヴィレッジ子爵令嬢…今はヴィレッジ卿ね。まあ、ミーナ嬢も騎士服だわ」
「なんて華やかな!よくお似合いですわ、リコリス様、ミーナ様」
城に入ると、推しの会の会員が押し寄せる。適当に挨拶をし、小姓の案内で王家のプライベートゾーンまで連れていかれた。
「よく来たな。モーリー、ミーナ嬢、ヴィレッジ卿」
王が出迎えてくれる。もっと尋問風の扱いかと思ったが、気楽なお茶会だった。私的な場の王は優しいおじさんだ。遠慮なく席について茶を飲みながら世間話をする。そのついでみたいに、先日の土魔法が話題に上がった。
「あの人形の魔法を教えてほしい。あれはミーナ嬢しかできないのか?」
王の問いに3人は顔を見合わせた。土魔法は皆使える。だが皇子とリコリスが土人形魔法を試したことはない。
「多分、ヨッシーはできると思います。リコはどうかなぁ。今度練習してみます」
「今、作って見せてくれ」
急に振られたが、難なくミナミは王そっくりの土人形を作ってみせた。今着ている服の細部まで再現している。
「…自分自身を見ているようだな。モーリーもやってみてくれ」
「おおっ!」
皇子は仕方なくミナミの土魔法を真似した。寸分違わぬ王の土人形が現れる。周囲にいた護衛騎士や侍従、小姓や女官たちが驚きの声をあげた。
違いは表情だ。ミナミが作った人形はニコニコと笑っている。皇子の方はツンと澄ました顔だ。性格が製作者と似ている。王は二つを見比べて噴き出した。
「もう消していい。…これを宮廷魔法士団ができると思うか?」
「どうでしょう。維持に使う魔力が結構多くて。老師が魔力消費の少ない術式を研究中です」
人形を消し、ご下問に答える。ミナミも皇子も魔力が多いので、何でも力業で押し切れてしまうのだ。一般人が再現するのは大変かもしれない。
「その研究次第か…」
「失礼いたします!」
その時、ドアが荒々しく叩かれ小姓が小走りに入ってきた。王の御前であり得ない無礼な所作だ。
「どうした」
眉をひそめた王が訊く。小姓は跪くと大きな声で急を知らせた。
「王太子宮が襲撃されております!謀反にございます!」




