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号泣爺再び

            ◇




 ザワ村ほどの雪は降らないが王都にも冬が来た。リコリスを加えた3人でハンターの仕事にも行くようになった。老師とは魔法の研究や開発をしながら穏やかに日々は過ぎていく。


 王太子の弓術指南はすでに終えている。城に顔を出さなくなって1カ月ほど経った頃、王から呼び出しがあった。ミナミが見せた土魔法の件だった。


「すっかり忘れてた。あったね、そんなことも」


 ミナミは思い出したように言う。いつものことだが、彼女は自分の魔法の凄さが全く分かっていない。下手をすれば国に取り込まれてしまうほどの脅威なのに、だ。


「新魔法は事前に見せてほしいのだが…」


 皇子は憮然とした顔で釘を刺す。心配の種を増やさないで欲しい。


「はーい。久々の参内(さんだい)だね。冬服作んないと。リコはどうしよっか」


 さらりと苦言を聞き流し、ミナミはリコリスと二人で服の話を始めた。




            ◇



 

 3人の貴族服を王太子御用達の服屋に頼みに行くことにする。店は王都の賑やかな通りにある。そこで採寸と注文を済ませ、帰りはぶらぶらと買い物がてら街を散策した。


 リコリスは令嬢のはずだが、城下に詳しい。皇子とミナミに菓子屋や屋台料理を案内してくれる。


「宮様。日ノ本風の食材を扱う店があるのをご存じですか?」


「知らん。だが興味はあるな」


「ま…まさか米?米が?!」


 食材市場まで来たとき、リコリスが訊いてきた。ミナミが興奮して食いつく。何でも文句なく食べる娘だが、やはり故郷の物が食べたいらしい。その店に行ってみることになった。



「いらっしゃいませ~」


 領都の茶葉店に似た雰囲気の店だった。確かにこちら風ではない食材が多く置いてある。


「こ…米!お米はありますか?!」


 一番に店に駆け込んだミナミは店員に訊いた。店員は困ったように首を振った。


「申し訳ございません。冬は荷が入らないんですよ。秋なら新米があったんですが」


「新米!ああっ!食べたかった!」


 がくりと項垂(うなだ)れるミナミ。すると店員は奥から粉の袋を持ってきた。


「米を粉にしたものならまだございます」


「米粉?!あ、小豆もありますか?」


「ございます」


「あるだけくださいっ!」


 普段は吝嗇(ケチ)な彼女にしては珍しい。値切らずに買っている。


 リコリスが壷を店員から受け取っていた。嬉しそうに皇子に見せてくる。


「宮様!味噌です!鍋にしましょう!」


「良いな。肉も買って帰るか」


 食に(こだわ)りのない皇子も懐かしさに笑みがこぼれる。他にも昆布や湯葉があったので買った。


「見てヨッシー~!お箸!」


 ミナミは食器まで見つけていた。リコリスと2人で椀やら皿やらを賑やかに選んでいる。


 ふと気づくと、いつの間にか店の中には皇子たち3人しかいなくなった。店員の姿も消えている。


(…?)


 不穏な空気に周囲を見回す。以前、感じたことのある気配が店を囲んでいる。


「ミナミ、リコリス」


「はい!」「何?ヨッシーはやっぱ菊が良い?あたしは桜かな」


 二人の少女に声をかけ、剣の(つか)に手をかける。


「こちらに来い。囲まれた」


「!」 


 二人は椀を持ったまま皇子に駆け寄った。背中合わせで身構える。リコリスは剣を抜き、ミナミはいつでも魔法を発動できる構えだ。


「何者だ?」


 皇子が一番濃い気配に言うと、店の暖簾(のれん)をくぐって、(じじい)が入ってきた。


「やっと見つけましたぞ…。殿下」


 領都の茶屋で会った老人だった。相変わらず涙を流している。


「もしかして…号泣お爺ちゃん?」


 ミナミが小さな声で訊く。


「ああ」


 皇子はため息をついて柄から手を離した。リコリスも剣を納めさせる。またあの繰り言に付き合わされると思うと、頭が痛くなった。




            ◇




 この店は老人たちの拠点の一つらしい。店の奥の畳敷きの部屋に通され、茶を出される。3人の前には、老人と素破者(すっぱもの)らしき10名ほどの男たちが伏していた。


「宮様。お知合いですか?」


 リコリスが不思議そうに訊いてきた。


「知らぬ。人違いだと言っているのに聞かんのだ」


 皇子が素っ気なく答えると、老人は頭を上げて叫ぶように言った。


「いいえ、確かにあなた様は我がヤマタイ皇国のモリナガ親王殿下にございます!」

 

「なんか微妙に色々違うね…。そんなに似てるの?ヨッシーとそのモリナガ殿下って」


 ミナミが茶菓子を食べながら言った。


「殿下は殿下でござる。お(いたわ)しや…。ご記憶を無くされ、こんな下賤な側女を…」


「ケンカ売ってんのかジジイ!誰が側女だよ!」


「止めんかミナミ。口が悪いぞ」


 何度目かのため息をついて、気色(けしき)ばむミナミを止める。二人を連れて隠形で逃げることはできない。皇子はきっぱりと翁に言った。


「何度も言ったように、俺はその殿下ではない。記憶は途切れていない。そんな国の名も聞いたことがない」


 翁とその配下は衝撃を受けたようにどよめいた。


「そんな…」


 翁の涙が畳に落ちる。ミナミはそれを見て同情の眼差しを送った。


「とりあえず、話聞こか」


 彼女は翁に事情を話すように促した。

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