園遊会
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園遊会へ出席することが決まると、大急ぎで衣装の準備に入った。皇子のは王太子専属の服屋に超特急で仕上げてもらう。ミナミは馴染みの侍女たちに任せた。なぜか王太子宮にミナミと皇子の衣裳部屋がある。ドレスを一から作るには時間がなかったので、その中から適当に選んで、飾りを外したり追加したりして済ませた。
園遊会当日。会は午後からなのに、二人は朝イチから入浴をさせられた。身分が低い者は早めに着いていなければならないらしい。皇子に腕を貸してもらい、ミナミは高いヒールに難儀しながら園遊会の会場に入った。
「モーリー様!ミーナ様!」
早速皇子推しの令嬢たちがやって来てくれる。今いるということは、それほど高位の貴族家ではないようだ。
今日の皇子も抜かりない。多少不機嫌だが、それはいつものことなので置いておく。磨き上げた容姿に、オーダーメイドの貴族衣装。匂い立つ色気に令嬢たちは声にならない叫びを上げた。
続々と位階順に貴族が集まる。令嬢も集まる。推しの会はすでに組織化されていて、行儀良く並んだ会員たちは、一人ずつ皇子に挨拶をすることになっていた。
「モーリー様、ご機嫌よう」「今日も素敵です…」「あ、あの受け取ってください」…
皇子は「ああ」とか「ご機嫌よう」とか「ありがとう」とか、適当に答える。ミナミが横でプレゼントを受け取る。返礼はできない旨も伝えるが、皆納得している。
(これは握手会とかしたら儲かるのでは…?)
ミナミは良からぬことを想像して、皇子に睨まれた。
最後の入場は王家のメンバーだった。王、王妃、側妃、王太子、第二王子、姫の順だ。噂の第二王子を、ミナミは初めて見た。王太子と良く似た美少年だ。金髪碧眼一家だ。金髪が嫁入りの条件なのかもしれない。
王が園遊会の始まりを宣言し、玉座っぽい椅子に座る。王家のメンバーはその左右に分かれて座った。左が王妃と王太子と姫で、右が側妃と第二王子だった。
人々は爵位の高い順に、王に挨拶をする。我々以下の身分はいないと思われるので、のんびり令嬢たちとおしゃべりをする。
「そろそろ陛下にご挨拶に参りましょう」
男爵家の会員が声をかけてくれた。限りなく平民に近い身分らしい。挨拶の列に並び、順番が来ると、玉座を注視していた貴族たちがざわめく。ボアの褒章の時にいた連中だろう。いちゃもん重臣の顔もあった。何か言いたそうだが、王の許可があって来ているのだ。ミナミは胸を張って進み出た。
「王国の太陽たる国王陛下に恩寵あれ。本日はご招待、感謝する」
皇子が代表して定型の挨拶を述べる。王は機嫌よく笑顔で答える。
「王太子の弓術指南と護衛の特訓の成果は聞いているぞ」
「とんでもない。太子と騎士たちの努力の賜物だ」
「滅多に褒めないのに。雨でも降るんじゃない?」
王太子が軽口を挟む。王はその様子を見て喜んだ。
「良い友を得たようだな。今日は楽しんでいけ。モーリー」
皇子とミナミは一礼をして御前を辞した。王への挨拶が済むと、ユリア姫がやって来た。豪華なピンク色の妖精のようなドレスを着て、嬉しそうに話しかけてくる。
「ごきげんよう、モーリー様。よくお越しくださいました」
「ご機嫌よう、ユリア姫。花のようなドレスだな。よくお似合いだ」
珍しく、皇子が女子の服装を褒める。姫は真っ赤になりながらも礼を言った。
「ありがとうございます!モーリー様も素敵ですわ。お兄さまと対のようです」
そう。王太子の専属服屋が、同じデザインの色違いを作ったのだ。金髪に映える紺色と、黒髪に映える白色と。あの服屋も推しの会に入っているに違いない。
ふと気づくと、不機嫌だった皇子の顔が綻んでいる。ミナミは前から気になっていたことを訊いてみた。
「ヨッシーってユリア姫には優しいよね。もしかして妹とかいた?」
「ああ。ちょうど姫くらいのがいた」
やはり兄目線だった。そこへ女官が姫を呼びに来た。姫と同世代の挨拶も受けないといけないらしい。
姫はもっと皇子と一緒にいたがったが、渋々去っていった。
入れ替わりに推しの会のメンバーが皇子を取り囲む。美貌の皇子に話しかけたそうな貴族女性は多かったが、それに牽制されて近づくこともできなかった。若い貴族の男子たちも、困惑したように見ている。出会いの場を台無しにして、申し訳ない。ミナミは心の中で謝った。
美味しい菓子やジュースを沢山飲み食いしたので、ミナミはお花摘みに行きたくなった。化粧も直したい。皇子に声をかける。
「ヨッシー、ちょっとお花摘みに」
「厠か」
「お花摘みだっつーの。皆さん、ちょっと失礼」
ヒール問題もあるが防犯のためだ。平民の女が一人でフラフラしていると危ない。よってトイレまで皇子に付き添ってもらう。
少し離れた建物内にある、女子トイレの前まで皇子にエスコートしてもらった。
「そこの中庭で待ってて」
「分かった」
用を足して、落ちた口紅を直す。ちゃんと侍女さんが化粧ポーチを持たせてくれたのだ。
髪も整えたミナミは、トイレを出た。
「!!!!!」
皇子を探して中庭に出ると、茶髪の令嬢と抱き合う彼の姿が目に飛び込んできた。




