姫の初恋
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皇子とミナミの日常に、王太子の弓術指南の仕事が加わった。王太子も忙しいので、大体1週間に1回ほど、王宮で訓練につきあう程度だ。たまに皇子の指導で護衛騎士の訓練もする。終わると騎士たちはボロボロになっている。超が付くスパルタ教育だ。
老師が内部事情を教えてくれた。王太子派と第二王子派の争いが勃発中とのこと。騎士団長は王太子派。あのいちゃもんをつけてきた重臣が第二王子派だそうだ。ミナミたちは王太子派になのだろうが、週1のパートタイムなのであまり意識していない。皇子が騎士を指南する時は訓練場に見学の女子が殺到するので、王太子派に貢献しているかもしれないが。
今日も弓術の稽古を王太子につけている。最近は動く的を狙わせてる。クレー射撃のように当たると割れる的を、皇子が魔法で射出す。的は出るタイミングも方向もバラバラで、難易度の高い訓練となっている。
「25個中、18個当たりか…。まだまだだね」
王太子は残念そうに言うが、結構良いスコアだ。皇子とミナミと比べてはいけない。
「そんなことありませんよー。最初は全然当たらなかったじゃないですか」
「ミーナに褒められてもなあ。君、百発百中じゃないか」
「生活がかかっておりますから」
王太子と気安い会話もできるようになった。彼は金髪碧眼の美男子かつ王族ながら、実にフレンドリーな青年だった。明るく社交的で、皇子と正反対の性格だ。
「今日はこれまで。次は騎射でやってみるか」
「じゃあお茶を飲もう。今日は時間があるんだ」
皇子が稽古の終了を告げると、王太子が嬉々としてお茶に誘ってくる。すると侍女たちが現れて、ミナミと皇子を拉致する。その後は異世界エステと着替えのコースだ。
「何で毎回洗われるんだろう…」
「汗をかかれたでしょう?殿下も入浴されてますわ」
ミナミの呟きに侍女が答える。初回ほど時間はかからないが、磨かれて、貴族の格好で茶に招かれる。段々分かってきたが、これは王太子の権威を示している。平民の格好で王太子と同席することはできないのだ。面倒だが仕方がない。ミナミはタダ風呂に入れると考えるようになった。
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「え?殿下って学生なんですか?」
王太子が学園の話をしたので、ミナミは驚いて訊いた。
「そうだよ。来年で卒業だけどね」
聞けば、王立魔法学園には生徒会や文化祭もあるらしい。ほとんど高校に通えなかったミナミは学校に憧れがある。いつかまた行きたいと思ってもいる。だがこの国では無理だ。平民は学園に通えない。
「いいなあ。楽しそう~」
「ミーナも通えば?騎士団長の養女にでもなれば行けるよ」
羨ましがるミナミに、王太子が軽く提案する。皇子は黙ってお茶を飲んでいる。会話をするのは大体、ミナミと王太子だ。
「団長のご家庭に波乱が起きませんか?」
「庶子の登場で?あははは。それも面白いね」
すると、王太子の従者がやってきた。
「ユリア王女様がお越しです。いかがいたしましょう?」
「…噂の弓術指南を見に来たな。モーリー、ミーナ。妹が君たちに会いたいようだ。通しても良いかな?」
王太子の妹姫が来たらしい。本物のお姫様だ。ミナミは興味を持った。
「構わん」「良いですよ」
二人で了承する。従者は姫を通すために部屋を出ていった。
「妹がいたのか?」
皇子が王太子に尋ねる。他人のプライベートに関心を持たない彼にしては、珍しい。
「腹違いのね。まだ10歳だけど、可愛い子だよ」
「そうか」
(ヨッシー、妹がいたのかも)
ミナミは何となくそう思う。一瞬だが、とても優しい目をしていた。
ドアがノックされ、開く。と同時にピンク色の何かが勢いよく飛び込んできた。
「アレク兄さま!」
「ユリア!お行儀悪いよ?」
王太子がピンク色を受け止めた。
「お兄さまの弓の先生を紹介してくださいな!」
ピンク色のドレスを着た金髪碧眼の美少女だった。この子が王太子の妹姫のようだ。
「相変わらずせっかちだね。ユリア、彼はモーリーだよ。僕の弓術の先生だ」
「…!!!!!」
進み出た皇子に、姫が釘付けになる。長い黒髪の、美貌の男。言葉も出ない程の衝撃を受けている。
(罪な顔だよ…。幼女まで魅了かい)
ミナミは生暖かい目で固まる美少女を見つめた。王太子も苦笑している。
「モーリー、僕の妹のユリアだ」
「よろしく、ユリア姫」
皇子は姫に近づくと、跪いた。そして柔らかい笑みを浮かべた。王女の背後に控える侍女が2、3人倒れる。それを助ける王太子の侍従たち。真っ赤な顔で皇子に見入る美少女。
(…混沌だ…)
ミナミは遠い目をした。数十秒後、なんとか再起動したユリア姫は挨拶を返した。
「ユリア・ノースフィルドです…」
「こちらはミーナ嬢。モーリーと一緒に弓術を教えてくれる先生だよ」
王太子がミナミも紹介するが、王女の目は皇子から離れない。ミナミが覚えたての令嬢の挨拶をするが、多分聞いていない。
ユリア姫は、10歳にして初恋に落ちたのだ。




