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魔法士の弟子

            ♡




 次の日、さっそく紹介状を持って魔法士を訪ねた。おかみさんおススメの菓子折りを持参してだ。


 元宮廷魔法士団長の住まいは王都の外れにあった。なかなか立派なお屋敷で、執事風の人が取り次いでくれた。玄関ホールで待っていると、階段の踊り場に飾られている大きな肖像画が目に飛び込んできた。


「ヨッシー!あれ見て!」


 ミナミはあまりの驚きに指差してしまう。白銀の髪と水色の瞳の、ドレスを着た貴婦人の肖像画だ。


「おばーちゃんの若い時の絵だよ!」


 間違いなく火葬の時に現れた美人だ。興奮して騒いでいると、二階から老人が下りてきた。白い髪に長い髭のいかにも魔法使いという感じのローブ姿だ。


「この婦人を知っておるのか?」


 老人は厳しい表情で言った。この人が、騎士団長が紹介してくれた魔法士だった。




            ♡




「そうか…。彼女は亡くなったのか…」


 魔法士のおじいさんは若い時、芸妓だった頃のおばあさんの大ファンだったらしい。応接室に通され、おばあさんの死を伝えると、がっくりと項垂(うなだ)れてしまった。


「で、お主らは魔法を習うために弟子入りしたいと?」


 暫くして復活した魔法士は皇子とミナミを交互に見た。皇子は頷いた。


「ぜひお願いしたい」


「魔法を習得して何がしたいのだ?小僧」


 少し意地悪な質問をされる。ミナミは魔法を習う理由を考えた。


(面白そうだからとかじゃダメかなー。お金儲けたいとか、もっとダメか…)


「魔法がどのようなものか、知りたいだけだ」


 皇子はキッパリ言い切った。相変わらず気持ちが良いほど迷いがない。


「知れば使いたくもなろう。得た力を何に使う?」


「自由に生きるために使う」


「ほう…珍しい理由じゃな。してお嬢、お主は?」


 魔法士は、今度はミナミに訊いてきた。迷ったが正直に話す。


「あたしは親も兄弟もいないんです。今はハンターで稼いでるけど、いつまでもできる仕事じゃないし。魔力が多めにあるって分かったから、魔法使えるようになりたいなって。あ、でも戦う系じゃなくて、誰かを笑顔にできるような仕事に使いたいです」


 こんな将来の夢みたいなことを言ったのは小学生の時以来だった。ミナミは少し恥ずかしくなった。おじいさんは不思議そうに二人を見比べた。


「お主らは兄妹(きょうだい)ではないのか?」


「違う。人種が同じだけだ」


 王都でも黒髪黒目の人間は珍しいらしい。どこでも兄妹に見られる。


「もしやお主らは異世界人か?!」


 何かに気づいたのか、おじいさんは二人の正体を言い当てた。思わず皇子とミナミは目くばせをすると、頷いた。バレたからには認めることにする。


「そうだ。俺たちはこちらの人間ではない」


「二人同時にか?転移時の状況は?」


 おじいさんは身を乗り出すように訊いてきた。食いつきがすごい。


(わし)の研究は異世界人についてなんじゃ!なんという僥倖(ぎょうこう)だ!」


 結構なお年寄りなのに、心配になるほど興奮して叫ぶ。皇子とミナミは呆気にとられた。弟子というより、研究サンプルにされそうな予感がした。

 



            ♡




 結局、おじいさんの研究への協力を条件に弟子にしてもらえた。お屋敷に住み込みになったので、ぶち子とマダ男を連れて引っ越す。宿代が浮いて助かった。だが給料は出ないので、ハンターで稼ぐ必要はある。

 

「まずはお主らの魔力量と属性を調べるぞ」


 おじいさん、もとい老師はタブレットのような黒い板を出した。


「神殿とは随分違うな」


 皇子はあの光る神像みたいなやつだと思っていたらしい。


「あんなものでは正確に数値は測れん。ほれ、手を乗せてみろ」


「じゃあ、あたしから」


 ミナミが先に測る。板に手を乗せると、すっと何かが引っ張り出される感覚がする。これが魔力らしい。

 板の表面に数字と赤い丸と青い丸、茶色の丸が現れた。


「魔力量は670。属性は火、水、土だな」


 老師は神官ほど驚かない。異世界人は大体魔力が多いらしい。


「属性以外の魔法は使えないのか?」


 皇子が老師に質問する。


「基本的にはな。属性を付与された魔法具などを使えば、使えぬこともない」


 次は皇子の番だ。神殿では像が光って目が潰れそうになったが、今回は大丈夫だろう。

 

「…魔力量10000…属性は…全属性」


 皇子の測定結果を見て、老師の額に汗が滲む。桁違いの魔力量のようだ。


「いや、実質は測定不能か。さすがは異世界人というべきか…」


「全属性とは?」 


 皇子が全く動じずに問う。何やらぶつぶつ言っていた老師は、やっと自分の世界から帰ってきた。


「ああ、火、水、風、土、雷、光、闇 の7つの属性、全てを持つことじゃ」


(要するにチートってことね)


 ミナミはある程度予想していた。おそらく、皇子は何をやってもずば抜けてできる。でも本人には自覚が無い。一切、優越感を感じないのだ。いつも淡々としていて、あんまり幸せそうじゃない。それはちょっと寂しいことなんじゃないか。


(魔法はきっと面白い。ヨッシーも楽しんで習ってもらいたいなぁ)


 そう、密かに願う。


 おばあさんは死ぬ間際、皇子にミナミを託した。それから彼女は皇子をうらやむことを止めた。チートだけど幸福感の薄い男と、いられるだけ一緒にいようと思い始めたのである。

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