魔法士の弟子
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次の日、さっそく紹介状を持って魔法士を訪ねた。おかみさんおススメの菓子折りを持参してだ。
元宮廷魔法士団長の住まいは王都の外れにあった。なかなか立派なお屋敷で、執事風の人が取り次いでくれた。玄関ホールで待っていると、階段の踊り場に飾られている大きな肖像画が目に飛び込んできた。
「ヨッシー!あれ見て!」
ミナミはあまりの驚きに指差してしまう。白銀の髪と水色の瞳の、ドレスを着た貴婦人の肖像画だ。
「おばーちゃんの若い時の絵だよ!」
間違いなく火葬の時に現れた美人だ。興奮して騒いでいると、二階から老人が下りてきた。白い髪に長い髭のいかにも魔法使いという感じのローブ姿だ。
「この婦人を知っておるのか?」
老人は厳しい表情で言った。この人が、騎士団長が紹介してくれた魔法士だった。
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「そうか…。彼女は亡くなったのか…」
魔法士のおじいさんは若い時、芸妓だった頃のおばあさんの大ファンだったらしい。応接室に通され、おばあさんの死を伝えると、がっくりと項垂れてしまった。
「で、お主らは魔法を習うために弟子入りしたいと?」
暫くして復活した魔法士は皇子とミナミを交互に見た。皇子は頷いた。
「ぜひお願いしたい」
「魔法を習得して何がしたいのだ?小僧」
少し意地悪な質問をされる。ミナミは魔法を習う理由を考えた。
(面白そうだからとかじゃダメかなー。お金儲けたいとか、もっとダメか…)
「魔法がどのようなものか、知りたいだけだ」
皇子はキッパリ言い切った。相変わらず気持ちが良いほど迷いがない。
「知れば使いたくもなろう。得た力を何に使う?」
「自由に生きるために使う」
「ほう…珍しい理由じゃな。してお嬢、お主は?」
魔法士は、今度はミナミに訊いてきた。迷ったが正直に話す。
「あたしは親も兄弟もいないんです。今はハンターで稼いでるけど、いつまでもできる仕事じゃないし。魔力が多めにあるって分かったから、魔法使えるようになりたいなって。あ、でも戦う系じゃなくて、誰かを笑顔にできるような仕事に使いたいです」
こんな将来の夢みたいなことを言ったのは小学生の時以来だった。ミナミは少し恥ずかしくなった。おじいさんは不思議そうに二人を見比べた。
「お主らは兄妹ではないのか?」
「違う。人種が同じだけだ」
王都でも黒髪黒目の人間は珍しいらしい。どこでも兄妹に見られる。
「もしやお主らは異世界人か?!」
何かに気づいたのか、おじいさんは二人の正体を言い当てた。思わず皇子とミナミは目くばせをすると、頷いた。バレたからには認めることにする。
「そうだ。俺たちはこちらの人間ではない」
「二人同時にか?転移時の状況は?」
おじいさんは身を乗り出すように訊いてきた。食いつきがすごい。
「儂の研究は異世界人についてなんじゃ!なんという僥倖だ!」
結構なお年寄りなのに、心配になるほど興奮して叫ぶ。皇子とミナミは呆気にとられた。弟子というより、研究サンプルにされそうな予感がした。
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結局、おじいさんの研究への協力を条件に弟子にしてもらえた。お屋敷に住み込みになったので、ぶち子とマダ男を連れて引っ越す。宿代が浮いて助かった。だが給料は出ないので、ハンターで稼ぐ必要はある。
「まずはお主らの魔力量と属性を調べるぞ」
おじいさん、もとい老師はタブレットのような黒い板を出した。
「神殿とは随分違うな」
皇子はあの光る神像みたいなやつだと思っていたらしい。
「あんなものでは正確に数値は測れん。ほれ、手を乗せてみろ」
「じゃあ、あたしから」
ミナミが先に測る。板に手を乗せると、すっと何かが引っ張り出される感覚がする。これが魔力らしい。
板の表面に数字と赤い丸と青い丸、茶色の丸が現れた。
「魔力量は670。属性は火、水、土だな」
老師は神官ほど驚かない。異世界人は大体魔力が多いらしい。
「属性以外の魔法は使えないのか?」
皇子が老師に質問する。
「基本的にはな。属性を付与された魔法具などを使えば、使えぬこともない」
次は皇子の番だ。神殿では像が光って目が潰れそうになったが、今回は大丈夫だろう。
「…魔力量10000…属性は…全属性」
皇子の測定結果を見て、老師の額に汗が滲む。桁違いの魔力量のようだ。
「いや、実質は測定不能か。さすがは異世界人というべきか…」
「全属性とは?」
皇子が全く動じずに問う。何やらぶつぶつ言っていた老師は、やっと自分の世界から帰ってきた。
「ああ、火、水、風、土、雷、光、闇 の7つの属性、全てを持つことじゃ」
(要するにチートってことね)
ミナミはある程度予想していた。おそらく、皇子は何をやってもずば抜けてできる。でも本人には自覚が無い。一切、優越感を感じないのだ。いつも淡々としていて、あんまり幸せそうじゃない。それはちょっと寂しいことなんじゃないか。
(魔法はきっと面白い。ヨッシーも楽しんで習ってもらいたいなぁ)
そう、密かに願う。
おばあさんは死ぬ間際、皇子にミナミを託した。それから彼女は皇子をうらやむことを止めた。チートだけど幸福感の薄い男と、いられるだけ一緒にいようと思い始めたのである。




