騎士vs皇子
◇
皇子は騎士と戦うことになってしまった。どうもあの騎士団長が仕組んだような気がする。
(わざと見学させたな)
ミナミを連れて行けば、あの男が絡んでくる。そうなれば皇子が男と一戦交える流れになる。
あの男に灸を据えたいのか、皇子の力を測りたいのか。どちらにしろ、師匠以外の騎士を知る良い機会だ。皇子は油断なく剣を構えた。
「手加減してやるから安心しろ。骨の一、二本で勘弁してやるよ、平民」
へらへらと笑う騎士は完全に勝つつもりでいる。腕に自信があるのだろう。
「では始め!」
審判が開始の合図をする。とたんに奴は身体強化をかけて突っ込んできた。そこそこ速い。
紙一重で突きを躱す。型に忠実な攻撃を、後退しながら躱し続ける。
「ヨッシー!ゴー!ゴー!」
ミナミが意味不明の声援を送る。他の騎士たちも野次を飛ばしながら見物している。
「下がってばっかじゃ後がないぜ!」「掠りもしねぇな!すげえ!」「ちったぁ受けろよ!」
打ち込みを全て躱され、相手の騎士から笑いが消えた。更に加速して振り下ろされた一撃を、皇子は受け止めた。
(思ったより軽いな。師匠の方が重かった)
こんなものかと、横に払った。押していた相手はたたらを踏んだ。瞬時に背後を取る。
「なっ…!」
皇子の姿を見失ったのだろう。驚いて前方を探している。
「バカ!後ろだっ!」
仲間が教えてやるより早く、皇子の剣が後ろ首を捕らえていた。刃を潰した剣なので峰打ちとなる。
騎士が倒れ伏す。皇子はいつもの癖で、相手の背中を踏みつけ、止めを刺そうとした。
「そこまで!勝負あった!」
審判が慌てて止める。見ていた騎士たちは呆気に取られていた。
「お見事。他に挑戦者はいるか?」
騎士団長が笑顔で訊くが、名乗りを上げる者はいない。訓練場は静まりかえった。
「では模擬戦はこれで終了だ。もう昼だな。一緒に昼食はどうかな?」
「はーい!ありがとうございます!」
ミナミが勝手に団長の誘いに乗る。皇子は仕方なく頷いた。そして借りていた剣を騎士見習いに返すと、訓練場を後にした。
◇
士官用の食堂で豪華な昼食を出される。ミナミは大喜びだった。
「美味しいです~!」
「それは良かった。先ほどは済まなかったね。不愉快な思いをさせてしまって」
「全然大丈夫です!まったく気にしてません!」
戦ったのは皇子なのだが、なぜかミナミが胸を張る。騎士団長は苦笑している。
「モーリーと言ったな。なぜ身体強化を使わなかった」
「使うまでもない。弱すぎる」
あの男は相手が平民だからと慢心していた。速さも重さも師匠に遠く及ばない。
「あれでも中隊長クラスの騎士なんだが…。どうだ、君、うちに入らんか?」
「断る。国には仕えたくない」
「そうか…その腕、惜しいな」
皇子は団長の誘いをあっさり断った。剣を極めるのも良いが、今は人を斬りたくない。団長は残念そうだったが、すぐに話題を変えた。
「王都にはいつまでいるんだ?すぐ村に帰るのか?」
「暫く観光をしてから帰ろうと思っています。二人とも王都は初めてなので」
ミナミが今後の予定を話す。二人はハンターの仕事で稼ぎつつ、都見物をするつもりだった。もう一つ、皇子には目的があった。騎士団長なら知っているかもと思い、訊いてみることにした。
「団長殿は魔法を教える者をご存知だろうか?」
「魔法を?君が?」
「そうだ。俺たちは魔力持ちだが魔法が使えない。魔法の師を探している」
「君が魔法まで習得したら空恐ろしいな…」
騎士団長は、魔法は専門の学校で習うものだと教えてくれた。しかも魔力持ちのほとんどが貴族なので、平民がそこに入学することは難しいらしい。
「だが魔法士が弟子を取ることもある。知り合いの魔法士を紹介しよう。偏屈な老人だが、君と合いそうだ」
そう言って、騎士団長は紹介状を書いてくれた。元宮廷魔法士団の団長で、今は引退して魔法の研究をしているそうだ。
「かたじけない。助かる」
皇子は礼を言って紹介状を受け取った。騎士団長はニヤリと笑いながら皇子の肩を叩いた。
「魔法剣士になったら、あらゆる貴族が君を欲しがるぞ。」
「そうなのか?」
「俺も諦めないからな。モーリー、また勧誘させてもらう」
騎士団長は右手を差し出した。皇子はその手を握った。そして二人は騎士団を辞した。
◇
「やったぁ!これで魔法習えるね!」
騎士団からの帰り道、ミナミは喜んで跳ね歩いていた。
「確かに紹介状はもらえたが、弟子入りが許されるか分からんぞ」
「大丈夫だよ。弟子にしてもらうまで何度でも押しかけるから。『三顧の礼』ってやつ?」
「全く違うだろ…」
いつものズレた解釈にため息をつく。だが婆どのが死んだ後のミナミは、抜け殻のようだった。それが王都への旅に出る頃には元に戻っていた。このしなやかな竹のような強さは彼女の長所だ。
「手土産持ってった方が良いよね?何がいいかな」
ミナミの笑顔を見ていて、皇子は気が付いた。昔のことを思い出すことがほとんど無くなった。
それだけこちらの暮らしに馴染んだということだろう。
「宿のおかみに訊いてみるか」
「そだね」
次は魔法の師を訪ねよう。二人は王都での次の目標に向かって歩き出した。




