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騎士団長

            ♡




 王都の大きさは領都の比ではなかった。5、6階建てのビルみたいに高くて厚い城壁は果てが見えない。検問所を通り抜けると、片側3車線くらいの大きな道に出た。ミナミがこちらに来てから見た中で、最大の都市だった。


 人の数も多い。大通り沿いの建物はほとんどが店舗で、売る人買う人でごった返している。すごい熱気と喧騒だった。二人で乗馬レーンを進みながら、お(のぼ)りさん状態できょろきょろしてしまう。


「まず、宿をとろっか」


 村長の親戚が経営しているという宿に向かう。ザワ村出身だと安くしてくれるそうだ。王都は物価が高いらしいから、節約モードに移行する。


「ごめんくださーい!ザワ村のもんでーす!」


 ミナミは宿屋の扉を元気良く開けた。1階は食堂っぽいつくりで、カウンターに中年の女性がいる。


「いらっしゃい。村長から連絡きてるよ。ミーナちゃんだね」


「お世話になりまーす。外に馬いるんですけど、預けていいですか?」


「裏の小屋に入れておいで。世話は馬番に頼んでいいよ」


 部屋を二つ頼んで、外で待っていた皇子と裏にまわる。馬を預けてから再びカウンターに向かった。


「あらま。こちらの色男がモーリー?」


 おかみが魅了に落ちた。ミナミはもう慣れたが、この魔力から逃れられる女性はいない。おかげで一番いい部屋と朝・夕食を格安で手に入れた。しばらくこの宿を拠点とする。




            ♡




 王都2日目。今日はおばあさんの孫に遺言状を届けに行く。


「お待たせしました。団長がお会いになるそうです」


 騎士団を訪ねると、意外にもすんなり通してくれた。騎士見習いの少年が応接室まで案内してくれる。

 そこでしばらく待つ。ソファに座って1分もしないうちにドアが開いて、大柄なおっさんが入って来た。


「祖母の遺言を持ってきたとか?」


 挨拶もそこそこ、向かいにどかりと座ると、渡した遺言状を読み始めた。


「…なるほど。君たちが祖母を看取ってくれたようだな。礼を言う」


 騎士団長のおっさんは頭を下げた。年は40歳ぐらいだろうか。髪と目の色がおばあさんに良く似ていた。もっと邪険にされるかと思っていたが、礼儀正しく接してくれた。


「遺産についても承知した。遺言通り、祖母の家は君たちが受け取るといい」


「ありがとうございます」


 ミナミが代表して応対する。皇子は黙って騎士団長を観察している。


「では用件は済んだな。私はこれで失礼するが、良かったら騎士の訓練でも見学していくかい?」


 団長は立ち上がりながら提案をしてくれる。皇子が反応した。


「いいのか?」


「いいとも。騎士の力量が気になるんだろう?」


 バツの悪そうな顔で皇子は頷いた。剣術道場に通っていたから興味があるんだろう。ミナミも少し見てみたいので、見学をさせてもらう。先ほど案内してくれた少年が、今度は外の訓練場へと二人を連れていく。


「こちらは主に王都の警護を担当するレオン騎士団です。約200人の騎士が常駐しています」


 少年は誇らしげに説明をしてくれる。皇子は神殿の時より熱心に聞いている。


「小姓や従騎士を含めると1000人近くになります。全て王の直属です」


「歩兵はいないのか?」


「普段はいません。有事の際は近隣の村から徴兵します」


 そんな話をしているうちに訓練場に着いた。外にまで剣を打ち合う音が聞こえる。


 中に入ると小さめのコロッセオみたいだった。円形の壁にぐるりと囲まれた空間で、何組もの騎士が戦っていた。まだ暑いのに鎧を着けている。


「危ないので見学エリアからは出ないでください」


 少年がベンチに座らせてくれる。おとなしく見学をしていたら、上官っぽい人がやってきた。


「やあ、どこのお嬢さんかな~?」


 ナンパだった。ミナミが目をぱちくりさせていると、少年が助けてくれる。


「団長のお客様です。見学は許可されています」


「お前に聞いてんじゃねーよ。この可愛らしいお嬢さんと話してんだよ」


 ナンパ野郎は少年を小突いて追い払うと、ミナミの手を取った。


「この後食事でもどう?良いレストラン知ってんだけど」


「えーっと、ご遠慮します。知らない人についてっちゃダメだって言われてて」


 作り笑顔で断るが、男は引き下がらない。


「そんなこと言わないでさぁ。貴族しか入れない店なんだよ~」


 暗に貴族とアピールしてくる。不愉快なので手を振り払った。


「お断りします。平民なんで」


 男がなおも言い募ろうとすると、さっと皇子が彼女の前に割り込んだ。


「なんだ手前(てめぇ)は」


 ナンパ野郎は凄むが、皇子は涼しい顔で答える。


「この娘の保護者だ。気を散らせて悪かったな。これで失礼する」


「ちょっと良い(ツラ)だからって調子に乗るなよ!」


 男は腰の剣を抜いて切っ先を皇子の顔に向けた。他の騎士も異変に気付いて、こちらを見ている。


(えー!?こんな簡単に剣出すの?一般人相手に?もしかして切り捨て御免ってやつ?)


 謝って穏便に済まそうかとミナミが考えた時、騎士団長がやってきた。少年が呼んできてくれたようだ。


「何の騒ぎだ」


「これは団長。この平民が訓練に参加してみたいと言うもんで」


 卑劣な男は嘘八百を並べる。団長が皇子に訊く。


「そうなのか?」


「ぜひとも」

 

 ナンパ野郎はぎょっとしていた。まさか受けて立つとは思っていなかったらしい。


「剣は扱えるのか?」


「元騎士という者に習った。問題ない」


「…では訓練用の剣でやれ。皆、場所を空けろ」


 鶴の一声で騎士たちが動く。皇子とナンパ野郎は刃を潰した剣を渡され、訓練場の真ん中で対峙した。

 一般人と正騎士。普通なら勝負にならないだろう。しかしミナミは皇子が勝つと思った。

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