騎士団長
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王都の大きさは領都の比ではなかった。5、6階建てのビルみたいに高くて厚い城壁は果てが見えない。検問所を通り抜けると、片側3車線くらいの大きな道に出た。ミナミがこちらに来てから見た中で、最大の都市だった。
人の数も多い。大通り沿いの建物はほとんどが店舗で、売る人買う人でごった返している。すごい熱気と喧騒だった。二人で乗馬レーンを進みながら、お上りさん状態できょろきょろしてしまう。
「まず、宿をとろっか」
村長の親戚が経営しているという宿に向かう。ザワ村出身だと安くしてくれるそうだ。王都は物価が高いらしいから、節約モードに移行する。
「ごめんくださーい!ザワ村のもんでーす!」
ミナミは宿屋の扉を元気良く開けた。1階は食堂っぽいつくりで、カウンターに中年の女性がいる。
「いらっしゃい。村長から連絡きてるよ。ミーナちゃんだね」
「お世話になりまーす。外に馬いるんですけど、預けていいですか?」
「裏の小屋に入れておいで。世話は馬番に頼んでいいよ」
部屋を二つ頼んで、外で待っていた皇子と裏にまわる。馬を預けてから再びカウンターに向かった。
「あらま。こちらの色男がモーリー?」
おかみが魅了に落ちた。ミナミはもう慣れたが、この魔力から逃れられる女性はいない。おかげで一番いい部屋と朝・夕食を格安で手に入れた。しばらくこの宿を拠点とする。
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王都2日目。今日はおばあさんの孫に遺言状を届けに行く。
「お待たせしました。団長がお会いになるそうです」
騎士団を訪ねると、意外にもすんなり通してくれた。騎士見習いの少年が応接室まで案内してくれる。
そこでしばらく待つ。ソファに座って1分もしないうちにドアが開いて、大柄なおっさんが入って来た。
「祖母の遺言を持ってきたとか?」
挨拶もそこそこ、向かいにどかりと座ると、渡した遺言状を読み始めた。
「…なるほど。君たちが祖母を看取ってくれたようだな。礼を言う」
騎士団長のおっさんは頭を下げた。年は40歳ぐらいだろうか。髪と目の色がおばあさんに良く似ていた。もっと邪険にされるかと思っていたが、礼儀正しく接してくれた。
「遺産についても承知した。遺言通り、祖母の家は君たちが受け取るといい」
「ありがとうございます」
ミナミが代表して応対する。皇子は黙って騎士団長を観察している。
「では用件は済んだな。私はこれで失礼するが、良かったら騎士の訓練でも見学していくかい?」
団長は立ち上がりながら提案をしてくれる。皇子が反応した。
「いいのか?」
「いいとも。騎士の力量が気になるんだろう?」
バツの悪そうな顔で皇子は頷いた。剣術道場に通っていたから興味があるんだろう。ミナミも少し見てみたいので、見学をさせてもらう。先ほど案内してくれた少年が、今度は外の訓練場へと二人を連れていく。
「こちらは主に王都の警護を担当するレオン騎士団です。約200人の騎士が常駐しています」
少年は誇らしげに説明をしてくれる。皇子は神殿の時より熱心に聞いている。
「小姓や従騎士を含めると1000人近くになります。全て王の直属です」
「歩兵はいないのか?」
「普段はいません。有事の際は近隣の村から徴兵します」
そんな話をしているうちに訓練場に着いた。外にまで剣を打ち合う音が聞こえる。
中に入ると小さめのコロッセオみたいだった。円形の壁にぐるりと囲まれた空間で、何組もの騎士が戦っていた。まだ暑いのに鎧を着けている。
「危ないので見学エリアからは出ないでください」
少年がベンチに座らせてくれる。おとなしく見学をしていたら、上官っぽい人がやってきた。
「やあ、どこのお嬢さんかな~?」
ナンパだった。ミナミが目をぱちくりさせていると、少年が助けてくれる。
「団長のお客様です。見学は許可されています」
「お前に聞いてんじゃねーよ。この可愛らしいお嬢さんと話してんだよ」
ナンパ野郎は少年を小突いて追い払うと、ミナミの手を取った。
「この後食事でもどう?良いレストラン知ってんだけど」
「えーっと、ご遠慮します。知らない人についてっちゃダメだって言われてて」
作り笑顔で断るが、男は引き下がらない。
「そんなこと言わないでさぁ。貴族しか入れない店なんだよ~」
暗に貴族とアピールしてくる。不愉快なので手を振り払った。
「お断りします。平民なんで」
男がなおも言い募ろうとすると、さっと皇子が彼女の前に割り込んだ。
「なんだ手前は」
ナンパ野郎は凄むが、皇子は涼しい顔で答える。
「この娘の保護者だ。気を散らせて悪かったな。これで失礼する」
「ちょっと良い顔だからって調子に乗るなよ!」
男は腰の剣を抜いて切っ先を皇子の顔に向けた。他の騎士も異変に気付いて、こちらを見ている。
(えー!?こんな簡単に剣出すの?一般人相手に?もしかして切り捨て御免ってやつ?)
謝って穏便に済まそうかとミナミが考えた時、騎士団長がやってきた。少年が呼んできてくれたようだ。
「何の騒ぎだ」
「これは団長。この平民が訓練に参加してみたいと言うもんで」
卑劣な男は嘘八百を並べる。団長が皇子に訊く。
「そうなのか?」
「ぜひとも」
ナンパ野郎はぎょっとしていた。まさか受けて立つとは思っていなかったらしい。
「剣は扱えるのか?」
「元騎士という者に習った。問題ない」
「…では訓練用の剣でやれ。皆、場所を空けろ」
鶴の一声で騎士たちが動く。皇子とナンパ野郎は刃を潰した剣を渡され、訓練場の真ん中で対峙した。
一般人と正騎士。普通なら勝負にならないだろう。しかしミナミは皇子が勝つと思った。




