花の宴
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春が来た。
里にも花が咲くころ、女衆だけの宴が行われる。日本で言うところの『お花見』だ。
森に桜のような木の群生する場所があり、そこで終日飲み食いする。
この日ばかりは、乳飲み子以外の子供は男衆が面倒をみる。女たちの息抜きイベントである。
ミナミも張り切って弁当を作った。ジュースやおやつも用意する。大荷物になった。
「ヨッシーはこれ持って。あたしとおばーちゃんはこれ持つから」
「…」
花見に皇子を誘ったが、当日になって男子は彼しかいないことがバレた。故に不機嫌だ。
「まだ怒ってるの~?」
「なぜ俺だけ女の宴に出なければならんのだ…」
「普段お世話になっているでしょ~?恩を返せるチャンスよ~」
冬に乙女達に約束してしまったのだ。皇子を花見に連れて行くと。結婚前の思い出作りに協力すると。
「ぐぬぬ…」
呻きながらも荷物を持つ。皇子は『恩』という言葉に弱い。さすが鎌倉時代人だ。
「じゃあ、出発!」
穏やかな春の日、大家と店子の三人は森の宴に向かった。
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桜に似た木は、ちょうど見ごろを迎えていた。ピンク色の花びらがはらりはらりと舞い落ちる。
先に来ていた女たちが、あちこちに獣除けの香を置いてくれていた。
「ミーナ!こっちこっち~」
年頃の娘たちの敷物に誘われる。皆、祭りに着ていくような晴れ着を着ている。
「わぁ!モーリー来てくれたんね!ありがとう!」「ここ座って!」「これ食べる?」「ワインをどうぞ!」
10人以上の娘に構われまくる皇子。完全にハーレム状態だ。
酒が入るとかしましさが増す。無表情の彼は勧められるままに杯を空けている。目が死んでいる。
(そろそろ始めるか)
ミナミは作戦を開始した。
大荷物の一つから楽器を取り出し、調弦する。リュートというギターみたいな弦楽器だ。こちらにきてから、大家のおばあさんに手ほどきを受けている。ミナミの唯一の娯楽だ
アップテンポな曲を弾き始めると、娘たちが踊りだす。キレのあるステップに皇子は目を丸くしている。
「あたしが仕込んだんだ。ミナミも娘っ子らも」
自慢げにおばあさんが言う。おばあさんは歌舞音曲のエキスパートである。昔、都で有名な芸妓だったらしい。
踊る娘たちはフォーメーションも完璧だ。この日の為に猛練習をしていたのだから。
観客は皇子一人。超贅沢な舞台だ。
やがて踊り終わると、拍手が聞こえた。(拍手はこの間教えた)
「素晴らしかった。都の舞姫のようだ」
皇子は珍しく笑顔だ。気絶しそうな破壊力に娘らがキャーっ!!!と叫ぶ。余計かしましくなった。
「ミナミも見事だった」
機嫌が直った皇子がジュースを注いでくれた。
「あんがと~。もっと褒めて~」
「他に何ができる?」
「こっちの楽器はこれだけ。元筝曲部だったけど」
「お前、貴族の娘だったのか」
何やら誤解が生じている。貴族の姫がハンターなんかできるわけないだろうに。
わいわい話していると、5歳以上10歳未満のちびっこ共が近寄ってきた。小さいくせに皇子推しの幼女たちだ。
「モーリー」
恥ずかし気に、草花を編んだ花冠を皇子に差し出す。悔しいほど可愛い。
「俺に?」
「かぶってくれたら、うれしい。モーリー、王子様みたいだから」
「…ありがとう」
優しく微笑んで、皇子はそれを被った。悔しいほど麗しい。
小娘たちは顔を真っ赤にして走っていった。他の娘たちは、ため息をつきながら、その様子を見ていた。
「お似合いですわよ、王子様」
「からかうな。恥ずかしい」
花冠を見て思いついた。ミナミはナイフと空いた籠を持って立ち上がった。桜に似た木に近づき枝を切る。
片手ぐらいの花の小枝をたくさん籠に盛った。それを皇子の元に持ち帰る。
「見事な踊りの褒美に、乙女らにお与えください」
恭しく捧げる。王子様ごっこだ。
「よかろう」
皇子は頷いて花の小枝を手に取った。ミナミは娘らに声をかけた。
「みんな集まれー!王子様が花かんざしを挿してくださるよー!」
きゃーきゃー言いながら娘らが一列に並ぶ。皇子は一人一人の髪に花を挿した。花冠を献上した幼女たちにも下賜する。全員、幸せそうに騒いでいる。
「ああ、良い眺めだね」
おばあさんは目を細めて眺めている。昔を思い出しているような顔だ。
「婆殿にも。良き舞いだった」
敷物に座るおばあさんの髪にも、皇子は花を挿した。ミナミも期待して頭を差し出す。すると、ぶすりと左右両方の髪に花が挿される。
「えーっ。何か変じゃない?!」
見えないけれど、多分変だと思う。皆が笑っている。
「ははははっ!」
声を出して笑う皇子を初めて見た。一瞬固まった後、娘たちの絶叫が響いた。何人かは倒れている。
カオスな宴になったが、良い思い出になったことは間違いない。ミナミは満足だった。




