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主人公は大きな悪いことは出来ないけど口達者な小物系クズでヒロインは色々と詰めが甘い拗らせヤンデレです。
早朝の恒例行事といえば、思い浮かぶのはラジオ体操だ。学校指定の肩掛けカバンを担ぎ直しながら、思い浮かんだ爽やかなものとは性質を真逆にした恒例行事に、あくびを一つ。
「大人しく私に、監禁されてください」
俺は眠い目を瞬かせながら、そう嘯く女に目をやる。
目を向けられた女は、俺と目が合うと嬉しそうに目を輝かせた。
「――で?」
「え」
「場所と費用は?俺を監禁したとして、男一人飼って生かせるだけの貯金は貯めたの?養えるの?それとも放置して殺すの?家族の許可は得たの?まさか実家に置いておくの?あんた確か資産家でもない一般家庭だよね。マンションの一室でも貸し倉庫でもいいけど、借りれるだけの金はあんのかって聞いてんだけど」
「……」
ぐう、と押し黙る女に、ため息を吐く。
「だからさ、何度も言うけど計画性なんだよ。そういう発言はきちんと計画立ててからじゃないとただの妄想で机上の空論。そんなもん押し付けられても困る。まぁ計画立てられようが俺があんたんとこ行かなきゃならない理由はないけど」
俺がつらつらと述べると、女はばっと顔を上げた。
「…………でもっ、私だけのものになって欲しくて……」
「うん。で、現実的に。出来るの?」
女はがっくりと項垂れた。
はい勝ち。
「んじゃ俺友達と行くから」
癇癪を起こされる前に、と俺はさっさとその場を離れた。涙目になって落ち込む女を放置して去る俺は、我ながら鬼畜だ。しかし頭のおかしいことを先に言っているのは向こうだ。俺は悪くない。
「いやぁ、やっぱ美少女の心を折るのは楽しいわ」
「クズだな」
「くっそ……なんでこんなクズには美少女が寄ってきて俺には……!」
冷淡に吐き捨てる高幡と大げさに嘆く菅笠。
「いや菅笠。お前が美少女とか言うなよ。最初地味女に付きまとわれてざまぁとか言ってたくせに」
俺が指摘すると、菅笠はうっと仰け反る。そういうとこだぞ。
「だってさぁ〜未弥ちゃん、ぱっと見前髪で顔隠していつも下向いてるからすげぇ地味なんだもん。お前に近づいてるとこ遭遇して近くで見たら意外と可愛くてびっくりっつうか」
未弥。先程俺に頭のおかしいことを言ってきた女の名前だ。ちなみに、正式名称は坂本未弥。猫背にボサボサの長い前髪で分かりにくいが、なかなか可愛らしい顔立ちをしている。そして、俺が言えることではないが菅笠の発言も普通にクズである。
「坂本のこと、何で受け入れてやらないんだ?嫌いなわけじゃないんだろ」
クズに挟まれる常識人たる高幡は、なかなかに整ったその顔をしかめ、俺に問う。
「いやぁ、俺のクズさに霞んでるんだろうけどさ。冷静に考えてみろよ高幡。初対面の相手に『一生私と一緒にいてください!幸せにします!』とか言う女と、付き合える?お優しいお前でも無理でしょ」
ちなみに、下校途中の衆人観衆の中で大音量での宣言だった。うーん、やばい。
「……何か、事情があるのかも知れないだろう」
お優しい。というか、甘っちょろい。
俺は、馬鹿だなぁ、と思う。
高幡にではない。あの、坂本未弥に対してだ。
この顔立ちも性格も良い高幡なら、あんな馬鹿な発言をしてもなんだかんだで受け入れてくれるだろうに。
何を血迷って俺なのか、甚だ疑問だ。
まぁ、俺は楽しいから良いけど。
昼休み。
懲りずに突撃してきたのは、やはりあの坂本未弥だ。
暗く澱んだ目に、赤く上気した頬。どっからどう見ても正気じゃない。ボサボサの髪は相変わらず伸ばしっぱなしで、せっかく良いスタイルも長いスカートやびっしり止めたボタンで隠されてしまっている。
「他のっ、私以外の女の人を、これ以上見ないでください……!」
怒りと嫉妬の滲んだ声に、殊更わざとらしくため息をつく。坂本未弥の肩が、びくりと震えた。不安げに揺れる大きな瞳が、上目遣いにこちらを見る。
「……あのさ、見ないでって、それでどうやって生活するわけ?」
「お、男の人は、我慢します……」
「いや、あんたに我慢される謂れはないんだけど。まぁそれはいいや。んじゃ仮に俺が見ないようにするとするよ?朝起きて母親から目をそらす、まぁそれは出来る。ニュースキャスターもまぁ、男性キャスターの番組にチャンネル変えれば出来るとしよう。じゃあ登校してからは?通学路中うじゃうじゃいる女たちを避けて、教室中でわいわい騒いでいる女たちを避けて、挙句女教師を避けて器用に黒板みろと?なんなの、俺に多くを求め過ぎでしょ。それで男ばっか見てて俺に変な疑惑ついたらどうしてくれんの?教師見ないように授業受けて集中出来ずに成績下がったら?あんた成績くれんの?どうやって?」
一息に言い切る。目の前の未弥の顔が、絶望に染まっている。様子を見ていたクラスメイトたちが、ざっと引いた気がした。
こうやって毎回言い負かされるのに、どうしてあらかじめ反論を考えてこないかな。
未弥はぱくぱくと口を動かすが、結局何も言えなかったようだ。
「次は、絶対あなたを私のものにしますから!」
と宣言し、逃げるように教室を出て行った。
良いね。根性あるのは嫌いじゃない。
それにしても、もうすぐ授業が始まるのだが、どこへ行ったのだろうか。
そもそも、未弥の目は既に盲目だとかいうレベルじゃない。俺はこの通り理屈をこね回して人を言い負かすのが趣味なクズだし、その理屈だって何の厚みもないぺらっべらな屁理屈だ。この性格を厭うて女子にはこれ以上ないほど嫌われている。よって、俺が女子を見たところで、そこから何か始まるわけでもない。むしろ、女子からゴミを見る目で見られてお互いに何かが終わるだけだ。
それに、今未弥相手に俺の理屈が通っているのは、単に未弥が壊滅的に計画性がなく猪突猛進だからなだけであって、本当に正しく完璧な相手を言い負かすのはかなり難しい。
その証拠に、俺の屁理屈は高幡の正論にしばしばバッサリ切られる。
ちなみに、その度にそれを聞いていたクラスの女子たちの高幡への好感度が上がっていくのには割と納得がいかない。
そんな現実にも関わらず、未弥は妄想の世界からうっとりと俺を見ているのだ。しかも、いくら心を折るような発言をしても、付きまとうのをやめない。最早あれは病気だと思う。毎朝記憶喪失でもしてるんじゃないかというレベルだ。俺が楽しいからまだ良いけど、ちょっと病院に行って診てもらった方がいいと時々思う。
「……メンヘラ、というやつ?」
「いや、あれはヤンデレに近いだろ」
「何が違うんだ?」
不思議そうに首を傾げる高幡。俺もよくわからず、発言元である菅笠を見る。
「メンヘラはさ、精神があまりよろしくなかったり、あとは誰かからの愛情が欲しくてわざと過激なこと言ったりするんだけど、ヤンデレは相手への愛情が有り余り過ぎて結果的に過激になっていく、とかの違いかな。メンヘラはどちらかといえば自己中心的だけど、未弥ちゃんはなぁ……なんなら自分のこともどうでもいいとこありそう」
「詳し過ぎ気持ち悪」
「……」
「お、お前いつもの饒舌なのはどこ行ったよ、真顔で一言で切るなよ!高幡も黙って目をそらすな!」
叫ぶ菅笠をフォローする優しさは残念ながら俺にはなかった。とはいえ、菅笠にしては珍しく、未弥に対する評は適切に思えた。未弥の言葉は気を引きたくての発言というより、心の底からそう思っているらしかったし、愛情を求めているというならそれこそ俺を選ぶのはおかしい。
まぁ、どっちがマシかといえば、どっちもどっちなのだが。
本気で思っているならそれはそれで十分たちが悪い。
俺はまたあくびをして、机の上で惰眠モードに入ることにした。
短編のつもりが少し長くなったので分割




