開戦前夜4
食事は終わり、お辞儀をして退室する。出口をくぐると、兵士によって扉が閉められた。
なぜか涙目のミアが出迎えて、アリサは驚いた。
「何かあったの? 部屋に入ろうとしたのを怒られたの?」
アリサは兵士を睨んだ。
「ち、違います。我々は何もしておりません。アリサ様がお部屋に入ってしばらく後、急に泣き始めまして、我らもどうしたらよいのか、ほとほと困っていたのです」
手と首を必死に振って無実を訴えるところを見ると、本当のようだ。
兵士に誤解を謝り
『取り合えず部屋に戻ろう』
そう思って手を取ると、ますますミアは涙をこぼした。一目をはばからず大きな声で泣き、アリサに引っ張られて廊下を連れていかれる姿は、駄々をこねる子供と母親のようだった。
「ちょっとミア! ちゃんと歩いて」
号泣するメイドと姫、異様な光景にすれ違う人々は何度も振り返った。
部屋についてベッドに腰掛けさせ、隣に座って何があったのかミアに問うと
「アリサ様がご結婚なさりたいと」
どうやらロキとの会話を盗み聞きしていたらしい。突然酷い頭痛に襲われたアリサは、こめかみを押さえた。
先程の部屋は客間も兼ねている。要人も訪ねることがあるので、扉は厚く防音はしっかりしている。声を聞き取っていたミアの耳の良さに呆れつつ
『まぁ、ミアなら』
という気もしていた。こめかみを押さえながら、念のため聞いてみる。
「他に何か聞こえた?」
もし話が部屋の外まで聞こえていたなら、これからは気を付けなければならない。
「14才、大人になった、結婚と」
そう言ってまたミアはうつ向いてしまった。
『なんでそこしか聞いてないの』
本人にとって都合がいいのか悪いのか良くわからない情報でも、興味があることだけははっきりと聞き取る耳。
今は悲しんでいるのだから、マイナスだろうが、その稀な聴力を主に盗み聞きにしか活用できてないミアをみて、
『武器はあるべきところになければ意味がない』
という故事をアリサは思い出していた。同時に
『これじゃ、部屋で独り言もおちおち言えないじゃない。扉も壁も厚くしてもらわないと』
とも思った。そして、何点か思い浮かぶことがあった。それも恥ずかしいことばかりだ。
「ひょっとしてミア‥‥‥私の部屋でも聞き耳たててことあるでしょ!」
泣いていたミアの肩がビクリと跳ね、行動を肯定していた。
「アリサ様の詩など聞いたことございません。もちろん読んだことも」
問うてないことまで暴露し慌てるミアをアリサはベッドに押し倒した。




