開戦前夜3
「でも殿方というのは」
両開きの大扉を兵士が開き、食堂の中に入る。アリサに続いてミアも入ろうとして、兵士に止められた。
ここはロキの来客用の食堂で、入室できる人間は招待されたものだけだった。ミアもようやく気付いたようで、お辞儀をして部屋の前で待機した。
「相変わらずミアは賑やかだね。退屈からはほど遠いだろう」
食前酒を飲みながら、ロキはグラスを傾けてアリサを迎える。
「そうですね。少々早とちりのところもありますが、良くしてくれています。おはようございます、叔父様」
軽く一礼する。
「さぁ、席について君の今を話してくれ」
長方形の食卓は近過ぎず遠過ぎず、ほどよく距離がある。大きな声を出さなくても声は届くし、列べられた食器が当たるようなことはない。
食卓に招かれるのは月に1~2度程度。忙しい時でも必ずロキは時間をとってくれる。そういう細やかなところに好感を覚えていた。
とりとめもない話をしながら、食事は進む。少し暖かくなったこと、今日は霧が濃いこと、朝食がおいしいこと。
まったく遠慮がないというわけではないが、存在を親く感じられるのは、嬉しいことだった。
アリサはふと周囲を見渡した。窓側は全面ガラスで、街を一望できる。そこから注ぎ込まれた朝日は壁にかけられた大きな絵を照らしていた。
「この絵、初めて見ました」
深緑を描いた絵は巨大で、眺めていると森の中にいるような気になる。迫力に圧倒されそうになり、アリサは視線を戻す。
「作者はフィオナという女性だ。他にも広間に飾ってあるが、一番気に入っている作品でね」
フィオナは有名な作家だ。若くして人気を得たが、活動期間は短く、挫折し筆を折ったとも亡くなったとも言われている。
「作品を描かなくなって、10年以上だ。もう新作はないだろう。期待はしているのだがね。今は彼女が描いた古い絵を集める、ただの収集家になってしまったよ」
「叔父様も若い頃に絵を描いていたと伺います。だから共感されるところがあるのでしょう」
「私の絵など、彼女と比べたら児戯のようなものだ。とても人前に出せるようなものではない」
ロキは苦笑しながらそう答えた。
朝食も終わりに差し掛かり、果物と紅茶を楽しんでいる時、アリサは言った。
「叔父様、ひとつお願いがございます。アリサも14才になりました。街では早いものは結婚する年と聞きます。もう充分大人になったと自覚いたしております。ですから、見聞を広めたく外出の許可を頂きたいのですが」
城の外に出るときはいつもの輿に乗り、自分で歩いたことはなかった。
危険という理由で馬さえも禁じられ、いつも窮屈な思いをしている。
「急‥‥‥というほどのこともないか。何度も失敗しているしね。ただ祭りはまだずいぶん先だよ」
祭りの時に城から見る街は、特に華やかだった。盛大な篝火、賑やかな楽士の演奏、そして最後を締め括る花火に誘われて、アリサは何度も外に出ようとした。
その度に連れ戻され、何度も泣いた。
ロキはそのことを揶揄している。赤くなったアリサは恥ずかしそうに
「からかわないでください」
と、抗議しうつ向いた。
「ならば何かしたいことがあるのかな?それとも不自由な思いでもしているのかね? 外の世界はいずれ見るときがくる。その必要もあるしね、だけどまだ許可は出来ない」




