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6番目の妃候補に捧ぐ最期の口づけ  作者: sen
プロローグ

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最期の日

 侍従長イザヤの刑は、人目を忍んで執行されることが決まった。

 齢(よわい)三十二の若さで、レブラーン帝国宮殿の侍従長となったのは史上最年少――。その彼が、誰も知らぬところで、ひっそりと首を刎ねられようとしている。


「イザヤ侍従長。勅命を賜れ」


 近衛兵長が朱色の筒から勅書を出した。

 彼の金の鎧は行事用だが、おもに祝事などの式典で着用されるものだ。幾度かの使用によってついた細かい傷は認められるものの、朝焼けに照らされて光沢を放つそれは、常日頃からこまめに磨き上げられていたものだとわかる。それを、このような日にわざわざ着用するとは、彼がいかにこの日を待ち望んでいたかという事がうかがえた。


 イザヤは近衛兵長に一礼してから靴を脱いだ。

 さらりと流れ落ちてくるはずだったブロンドの髪は、斬首を妨げぬようにと短く切られてしまったため、風が首に当たると慣れないこそばゆさを感じる。

 久々に見た城壁の外は、広大な草原がどこまでも続いていた。空は飽くまで青い。

 イザヤは土の上に敷かれた毛氈(カーペット)に、そっと足を乗せて跪いた。

 早朝の清々しい空気が、すっと体に染み込んでくるようであった。


「大罪人イザヤ侍従長。最期に言い遺すことはおありかな」


 近衛兵長が冷たく言った。口の端が微笑んでいる。

 

「何も……」


 イザヤは、ふっと鼻で笑った。

 こうなることはわかっていた。こうなる運命を避けることも出来た筈だ。しかし、己がそれを望んだのだ。今さら命乞いをするつもりはない。


「何を笑っている!? おい、押さえろ!!」

「は!!」


 近衛兵長が命じると、たちまち控えていた兵士がイザヤの頭を押さえつけた。

 斬首刀は、刀身が反った幅広の剣である。


 私は幸せだった――。


 イザヤは静かに目を閉じた。



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