7話 平凡聖女は骸骨公爵に薬草クッキーを食べさせる
その後は公爵領の見所などを聞かせてもらったりして過ごした。
口直しの後、メインのお肉料理が運ばれてきたが、公爵様は見るだけで首を振られて、ご自分の分を下げさせてしまう。
「お食事は、もうよろしいのですか?」
「あぁ、あまり重い物は見るだけ胸がいっぱいになってしまうから、メインはいつも断っている。ジゼル嬢は構わず食べてほしい」
「いつも……」
だからこそ、公爵様は不健康なほどに痩せておられるのだろう。
(極端な小食はお体にもよくないし……何か対策できないかしら)
考え込んだ私に、公爵様が付け加える。
「これでも今日は普段より食べられている方だ。普段はほぼスープだけで過ごしている。いつもより食べられているのはジゼル嬢と一緒の食事だからかもしれない」
「そういうことでしたら、これから毎日でもお食事をご一緒しましょう」
「楽しみが増えるな」
笑顔を見せる公爵様に、お世辞だとは思うが悪い気はしなかった。
それに冷静な部分では、今朝かけた魔術の方が関係しているかもしれないと、気になったことを尋ねてみる。
「公爵様は、好き嫌いは多いのですか?」
「こんなことをいうと軽蔑されそうだが、多い方かもしれない」
「軽蔑などいたしません。誰にでも苦手なものはありますから」
「そう言ってもらえると、気が楽になるな。ただ、今日の晩餐では苦手なものは出ていない。量を食べられないのは、単純にすぐに満腹になってしまうからだ。食べ過ぎれば、調子を崩してしまったり、発作が出やすくなるんだ」
「発作も出てしまうのですか……」
「ああ。小さい頃、好き嫌いが多いのなら、少しでも量を食べられるようにと、料理長が工夫して好物を多めに出してくれたことがある。だが、食べ過ぎてしまったのか、その後、いつもよりも重い発作に見舞われてな。大変な思いをして、それから無理をして食べようと思わなくなった」
遠い目をする公爵様を見つつ、私は考える。
(そんなに重い発作が出るのに、今日はいつもより食べられているって、どういうことかしら……?)
公爵様は私が同席しているからだなんて言ってくださったが、それだけとは思えない。
(もしかして朝に魔力循環を補助する魔術をかけたことと関係あるかしら?)
確証はない。
(でもそれなら、もっと対策が取れるかもしれないわ)
魔力循環の補助魔術は明日からも継続するとして、幼い頃に王女殿下の体調を考えて作ったレシピがある。
(アレならおやつ代わりにつまんでもらえればいいし、料理に混ぜて遣ってもらえるかも。もしご体質に合えば、症状がもっとよくなられるのではないかしら……)
懸念があるとすれば、公爵様のお口にあうかだが、それは作ってから考えれば良いだろう。
「公爵様、今の話を聞いて思いついたことがあるのですが――」
私は公爵様の許可を得るべく、口を開いた。
数日後。
私は公爵様の朝の健康管理を終えた後、厨房でひたすら薬草をすりつぶしていた。
この薬草は公爵様から許可を得て取り寄せたもので、魔力循環を促す効果を持っている。
料理人さん達がハラハラしながら私を見守ってくれているし、なんなら自分達がすると言ってくれたが、薬草をすりつぶしながら魔力を馴染ませることで効果を高めることができるので、この工程だけは私がする必要がある。
薬草の粉ができあがれば、後はこれを混ぜてクッキーを焼くつもりだ。
クッキーを作りは、料理人さん達と一緒に行い、緑色のクッキーがたくさんできあがった。
「粗熱が取れたみたいだし、早速、試食をしてみましょうか」
「このクッキーは、元気な人が食べても大丈夫なのですか?」
不安げに尋ねる料理長に、私は頷く。
「もちろんです。薬ではありませんし、効果は魔力の循環を整えてくれるだけのものですから、調子がよくなることはあっても、悪くなることはありません。王宮で、王女殿下にも召し上がっていただいたことがあります」
「それでしたら、安心ですね」
この薬草の粉を使ったレシピは、お体が弱かった王女殿下を少しでもご健康にするために調べた知識の一つだ。
(あの頃の知識が役に立ってよかったわ)
殿下はあまり薬草クッキーは好まれなかったが、他の料理にも応用が利いたので、薬草の粉はよく作っていた。
考えていると、薬草の粉を入れた瓶を眺めながら料理長が言う。
「この粉は、普通の料理にも使えそうですね」
「そうですね。取り過ぎても不要分は体から排出されるだけなので害はないと聞いています。しばらくは毎日作りに来たいと思っているので、残りはそちらで使われてください」
「こちらを使っていいのですか……!?」
「はい! 厨房を使わせてもらっているお礼です。色々、アレンジも効きますので、試されてみてください」
驚いている料理長さんにお礼を言い、侍女のミラさんと一緒にお茶の準備をして公爵様の元に向かった。
公爵様は執務中だったが、ちょうど休憩をするところだったそうで、執務室に置かれたソファに案内される。
お茶の準備をミラさんに任せ、私はクッキーの説明を行った。
「薬草を取り寄せる許可を出したが、それがこのクッキーになったのか。本当に、魔力循環を整える効果があるのか?」
「はい! 王女殿下にも召し上がっていただいたことがあるので、その時にきちんと調べています」
だから変なレシピではないと伝えつつ、突然薬草クッキーを食べてみてほしいなどと言われても、公爵様もお困りになるだろう。
「とはいえ、いきなり召し上がるのは抵抗がありますよね。毒味をいたします」
「毒味など不要だ。そもそもジゼル嬢なら毒を盛らずとも、私を害する機会は沢山あるはずだからな。だが、一人で食べるのは味気ない。折角だからジゼル嬢も一緒にお茶にしよう」
「えっ、私までいいのでしょうか……」
戸惑っている間に、ミラさんが私の前にもカップを出してくれる。
「私がいいと言っているのだ。問題ない。さぁ、いただこうか」
公爵様がクッキーを口に運ぶのを見て、私も一枚手に取った。
苦みのある薬草の味がクッキーにすることでマイルドになっており、風味は独特ではあるが食べやすい。
「もっと薬っぽい味を想像していたが、案外美味しいのだな」
「お気に召されたのなら、もう一枚いかがですか?」
目を見張る公爵様にもう一枚勧める。
「……いただこうか。しかし、食べやすいな。こんなに間食を食べてしまって、食事に影響がないといいのだが」
「いつもは間食も召し上がっていないのですか?」
「そうだな。飲み物ぐらいで、ほぼ口にしない」
「お食事に影響があるようでしたら、明日はもう少し作る量を減らしますね」
「明日も作ってくれるのか?」
「はい。継続的に召し上がることで、少しずつ効いてくるはずですから」
「そうか。だが、少し働き過ぎてはいないか? 毎朝の魔力循環だけでもかなり調子がいい。あまり無理しないでほしいのだが」
心配げにする公爵様に首を振る。
「このくらい大丈夫です。以前は王女殿下にも毎日色々作っておりましたから」
「先程、殿下にも召し上がっていただいたレシピだと言っていたな。他にもこういったレシピがあるのか?」
「はい。殿下のお体が強くなられた後は、美容に良い食材を使ってゼリーを作ったり、お肌を整える効果のあるお茶を作ったりと、色々作っていました」
「色々なものを作れるのだな」
「その経験が、こうして公爵様の役に立って、私も嬉しいです」
驚いたように目を開かれた後、公爵様は嬉しげな笑みを浮かべる。
私は公爵様が二枚目のクッキーも召し上がられたのを見届けて、執務室を後にした。




