第3話 バーニグン〜バーニグン〜♪
セレンが助けた旅人の名前は、リアリーナと言い。モンスターの生態研究を行う、若き研究者であった。
そんな、リアリーナの目の前でとんでもない光景が広がっていた。
「ねえ……ちょっと。魔女さん」
【ギャシャアア!!】【ルアアアア!!】【キャシュアア!!】
自分の目の前で、世界でも最強種の一角に数えられる火竜が、阿鼻叫喚の叫び声を上げながら丸焦げになって絶命していくのである。
「バーニグン〜♪ バーニグン〜♪ ボボボ……」
「ちょっと!」
「ボーボボ……」
「この……こっちの話を聞けえぇ! つうか。なにも考えないで生態系を壊すな! お馬鹿ーーー!」
「ぺぎあぁ?! 私の脳天があぁぁ!」
ドラゴンの駆除に夢中になっていたセレンの頭に、リアリーナの鉄槌が下された。
リアリーナの今回の旅の目的は、スパイラルドラゴンの生態調査に来ている為、調査も終わっていない状態で、セレンに《《増えすぎた》》火竜種を狩られるのは不味いのである。
「ま、魔法に集中してる所に手刀を食らわせるなんて酷いじゃないですか。旅人さん」
「私の名前は、リアリーナ・アロマだ。お馬鹿さん」
「セレン・ティファレントです……それと私は、お馬鹿ではありません。"竜星の魔女"です。それと頭がアナタに叩かれたせいで痛いです。責任取って下さい。スイーツで」
セレンは両手を頭に乗せて、涙目で痛そうにしているが。
そんなわけがない。彼女は常に防御魔法を展開し、自身の保身に全力を注いでいるのだから。
「その割りには痛そうにしている様には見えないけど?……まぁ、いいや。アンタがあの…」
「お! おぉ! なんですか。その新鮮な反応は?! そう。そうです。私があの世界最強のセレン・ティファレントで……」
「"竜星"の称号を得たのに、世界の為に働かない穀潰し」
「ごく……つぶし? 私がですか?」
「うん。有名じゃん」
「有……名ですと?」
竜星の魔女セレン・ティファレントは、リアナ魔法教会に所属する魔法使いである。
そして、リアナ魔法教会に所属する魔法使いは、ある一定期間内に、ユニークモンスターの討伐や迷宮探索等で一定の成果を上げなくてはならない義務がある。あるが……セレンはそれをサボっている。
「有名。有名だよ。あの《《大会》》じゃあ、優勝して世界一とか言われる様になったのを良い事に。竜星の魔女としての義務も果たさないときてるじゃないか」
「そ、それは学業……学業が忙しいからですよ。私はこれでも16才の女の子。学生なんです!」
「知ってるよ。ティファレントのご令嬢でしょう? 本邸を吹き飛ばして家から追い出されたって、事件になってたもの」
それはつい最近の事件だった。イリアス魔法学園で覚えた数々の大魔法を、使用したくて仕方ないなセレンは使ってしまったのである。
エクスプロージョンをティファレント家の大屋敷で。そして、屋敷は跡形もなく吹き飛び。セレン本人はイリアス魔法学園を卒業するまでは、ティファレント家が所有する別邸意外の場所の立ち入りを禁止されたのだった。
「ぐぅ?! 何故、それを旅人のアナタが知っているんですか?」
「吟遊詩人が街中で歌ってるのを聴いた」
「私の侵した所業、民話レベルなんですか?」
「そうそう。民話民話。民話レベル、アハハ! 君、面白い女の子だね。聞いてた話と全然違うよ」
「聞いていた話?」
「……なんでもない」
ここで、脳内お花畑のセレンは考える。あれ? なんかこの人怪しい人?っと。
そもそも。なんで、こんな危険な場所に《《女の子》》が、1人でスパイラルドラゴンに追われていたのかと疑問に持ち始めた。
「あの〜! つかぬ事をお聞きしますが」
「ん? 何?」
「アナタはいったい…」
怪しい目付きでリアリーナに問いただそうとした瞬間だった。それは突然現れた。エスポワル山脈の主『エンシェント・スパイラル』が。
【ルオオオオオオ!!】
「……あれは何ですか? なんで、あんな大きな力がいきなり現れるなんて」
「さぁ。分からないけど。……怒ってるね。同胞を沢山焼き殺されたから。凄く怒ってる」
「怒って……る?」
『エンシェント・スパイラル』は、長く生きたスパイラルドラゴンが突然変異する事で生まれる伝説級個体である。
その力は、西の地にある軍事国家。マスタング帝国の魔法第一師団を簡単に壊滅させる力を持つ。
【ルアアアア!!】
「あれ? 私。吠えられてます?」
「いや、あれだけ同胞を燃やしてるんだから。当然でしょう。それに……なんで、あの白い蛇は、焼けたスパイラルドラゴンの死骸を回収してるんだか」
「シュ〜ゥゥ♪」
白蛇竜種は、焼けた竜種の肉が好物の為、一心不乱にスパイラルドラゴンの丸焦げた死骸を食していた。
「ラクスですか? スパイラルドラゴンの丸焼きが好きなのでしょうね。大変幸せそうな顔をしています……私も後で食してみましょう」
「止めなさい、そんなハングリー精神は。それよりも。今は、あのエンシェント・スパイラルわどうにかしないと私達が食べられるわよ」
私達?……ここでセレンは、ふと疑問が浮かんだ。何故、そんな無駄な心配をしなくてはならないのかと。
それと、この旅人は何故、こんな格好。わざわざ男装をして、わざわざエスポワル山脈の山頂付近で、スパイラルドラゴンから逃げるフリをして、助けられたお礼を私にしないのか等々。
1度気にし始めると。セレンの目には、リアリーナと言う人物がとてもとても怪しい存在にしか見えない存在になってしまう。
「リアリーナさん。アナタはもしかして…」
「エンシェント・スパイラルが来るよ」
「へ? あわわ!! ほ、本当です。あの巨体が私、目掛けて突撃してきます! アスク!!」
「シュ〜ルル♪」
アスクは幸せそうにスパイラルドラゴンの焦げ肉を食べていた。
「……主よりも食を優先しますか。アスク」
【ルオオオオオオ!!】
通常サイズのラクスよりも、遥かに大きいエンシェント・スパイラルがセレンに襲いかかる。
蒼い鱗に覆われ。鋭い牙と爪が。
「あわわ!! このままじゃあ、食べられるちゃいます! リアリーナさん逃げ……あれ? 居ない?」
【ルオオ!!】
「目の前に?! ひいぃ!……バーニングランス」
エンシェント・スパイラルの顎に、セレンが放った鋭利な炎の槍が突き刺さる。
【ルオォォ?!】
「……『火魔神』」
そして、炎の槍は変化する。全てを焼き殴る火精霊。『火魔神』へと。
《エスポワル山脈山頂》
一瞬でセレンが居た場所から移動したリアリーナは、セレンとエンシェント・スパイラルの戦いを望遠鏡を通して見守っていた。
「何よあれ。最早、デタラメ過ぎるでしょう。通常魔法の術式を途中で切り換えて、火精霊を喚び出すなんて……しかも。さっきまでボーッとしてた筈が、一瞬で戦闘に集中したし。成る程。イリアス魔法学園があの娘を推薦してきただけの事はあるわけね」
セレンを品定めするかの様に戦闘を眺めるリアリーナの頭上に大きな影が現れた。大きな機械音と共に。
火竜種ではない。人工浮遊船。リアナ魔法教会が所有する魔法船である。
「リアナ様〜! お迎えに上がりました〜! 竜星の魔女の査定はいかがでしたか〜? 竜星の魔女の称号は剥奪ですかな?」
人工浮遊船の扉が開き。現れたのは、スーツを着た若い青年。
「ルド……保留ね。まだ待つは……規定日ギリギリで、エンシェント・スパイラルを倒したもの」
《生物環境家兼リアナ魔法教会現所長。リアナ・ナロエレア》
「保留ですか? 働かない問題児だったのでは?」
「発展途上の問題児ね。これからの成長が楽しみだわ。また会いましょう。竜星の魔女さん、さようなら」
リアリーナはそう告げると、人工浮遊船へと乗り込み去って行く。
伝説級のエンシェント・スパイラルを、無傷で倒した竜星の魔女に別れを告げて。
◇
「リアリーナさ〜ん! どこですか〜! あわわ!! 『火魔神』の高温加熱のせいで火竜の卵が全部茹で卵になっちゃいました〜! どうしましょう〜! あわわ!!」
「シュルル〜!!」




