今日という日は⋯⋯
「ご馳走様。思ったより長居したな」
深く物事を考えないように無心でパフェを食べていると、脇阪くんが先に食事を終えたようだった。
「急いで食べなくて良いぞ、待ってるから」
そう言われても待たせるのも悪いと思って、手が少しだけ早まる。底に溜まっている少し溶けたアイスを食べ終えて手を合わせる。
「ご馳走様でした。どうだった?待った甲斐はあった?」
「そうだな、美味かった」
満足気な表情の彼を見るに、今回のお店は中々に好感触だったようだった。
「これからは、並んでても少しは待ってみても良いんじゃないかな?」
「どうだろうなぁ⋯⋯どうしても、面倒って気持ちが勝ちそうだ」
「一人でなら待つのは十分が限界だな」なんて彼が笑う。
「なら⋯⋯なんでもない」
勢いで余計な事を言いそうになって、口を紡ぐ。
「なんだよ?言いたい事あるならはっきり言いなさい」
「脇阪くん、お母さんみたいな事言うね」
「前田さんを産んだ覚えはありません!」
そう言って、話を誤魔化す。⋯⋯また私となら、なんて。言う必要がないと思ったから、言わないだけだ。
「食い終わったなら、一旦出るか」
脇阪くんも一旦話を切り上げて、カフェを出る準備をする。
「もうちょっと、ここでゆっくりしても⋯⋯」
私は、少し名残惜しく感じたんだろうか?引き留めるような言い方になってしまった。
「それはそうなんだけど、あの行列見るとな」
脇阪くんが伝票を手に取りながら苦笑する。後ろを振り返ると、未だに順番待ちの列が出来ている。確かにあまり長居するのも良くないのかもしれない。
「会計済ませた、行くか」
考え事をしていたら、脇阪くんが先にお会計を済ませてくれたらしい。
「あ、ごめん、お金」
財布を出そうとする私の手を脇阪くんが止める。
「ここは俺が来たいって言っただけだからな。奢ってやるよ」
「いや、お金の事はしっかりしないと⋯⋯」
「大丈夫だよ、親から貰ってる毎月の食費代から出してるから」
⋯⋯それはそれで大丈夫なんだろうか?まぁ脇阪くんの懐は痛くないって事なんだろうか。
「⋯⋯じゃあ、お言葉に甘えて」
あまりここで強く出そうとするのも良くないんだろう。けれど、私があまりお金を持って無いことも見透かされていそうで、そこだけは気まずかった。
「さてと、これで目的としては達成したな、どうする?帰るか?」
「そう、だね⋯⋯」
カフェを出て時間を見ると、まだ昼の一時程度だ。だけどやる事は終わったんだし、ここでお開きというのが正しいんだろう。
(じゃあありがとう、今日は楽しかった)
そう言葉にするだけ、それだけだ。脇阪くんはもしかしたら一人でどこか行くかもしれないけど、ここで一旦別れよう。そして帰ろう。また、誰もいない家に。
「⋯⋯えっと⋯⋯私、は」
そう心には決めているのに、上手く言葉に出来なかった。
今日は充実していたと、自分でも感じていたんだろう。だからこそ、口に出す事が出来ない。
でも、前にも踏み出せない。「今日はもう少しだけ遊ぼう」なんて、彼も望んでるとは限らないんたから。
「あー⋯⋯悪いな、決めさせようとして、男のする事じゃないな」
私の歯切れの悪さに痺れを切らしたのか、脇阪くんが口を開く。
「まだ、帰るには早いだろ。わざわざここまで来たんだし、もうちょっと付き合ってくれよ」
その言葉を聞いた時、私は凄く嬉しかったと思う。彼が、私とまだ居ても良いと、許容してくれたのだから。
「せっかくの、デートなんだからさ」
その後の言葉で、嬉しさなんてどこかに吹っ飛んでいってしまったけど。
「脇阪くん⋯⋯今なんて」
「違うのか?付き合ってなくても、流石にこれはデートだろ?」
聞き間違いじゃないみたいだ。⋯⋯今日のこの状況は、彼の中ではデート、だったんだ。
「どっか行きたい場所あるか?」
顔を反らしながら、脇阪くんがそう聞いてくる。案外、彼も緊張しているんだろう。どんな表情をしているのか少し気になるけど、お互いに、今は顔が見れない。
「そう、だね。丁度紅葉シーズンだし、ちょっと歩いてみようよ」
温かい屋内じゃなく、外を提案する。そうすれば、火照った顔も、少しは冷ますことが出来るだろうから。
「紅葉狩りか⋯⋯人気スポットは却下な?休日だし、人が多すぎて無理!」
「分かってるよ、疲れない感じなら、そのまま水族館でも行ってみようよ」
ありきたりなプランであろうと、男女で行くなら少しハードルが高い場所を提案してみる。
「ええ⋯⋯それは流石にどうなんだ?」
「駄目ではないでしょ?歩いて行ける距離だし、紅葉も見れるし」
さっきまでだったら、絶対に言えなかった。だけど今なら言える。彼から貰った言葉。
「せっかくの、デートなんだから」




