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28.始まりの魔女

〝災禍の魔女〟とはこの世界に五人の存在が確認されている魔女達の総称である。


その筆頭が魔女オルタナ。彼女はこの世界に初めて魔法という概念を生み出した革命児である。故に『始まりの魔女』と呼ばれている。魔法の深淵に辿り着いた『深淵の魔女』とも呼ばれており、他の魔女とは別格。魔女として初めて歴史書に載る事になった事件の凶悪性から『最凶の魔女』と語り継がれている。


彼女達は時折現れては厄災を振りまき忽然と消える。残されるのは破壊され尽くした国と人々の絶望。人々の間で〝魔女に逆らってはいけない〟と掟が出来たのは言うまでもない。


その恐ろしさが先行するせいであまり知られていないのが〝魔女となった理由〟だ。これまでの彼女達の逸話は生き残った人々が生き残る為に語り継がれてきた伝承。彼女達〝災禍の魔女〟が何故魔女となったのかはあまり知られていない。


きっかけを知る者は全員彼女達によって葬られているからだ。


人々が知らない彼女達の歴史。

そこに共通して現れるのは〝聖女〟というこの世の奇跡の存在。奇跡の力を見せられた人々は聖女を敬い縋っていく。敬愛し、心酔していき、妄信するようになる。その妄信の果てに〝魔女〟と呼ばれる者達が生まれた。


彼女達は奇跡の存在であるはずの〝聖女〟によって皮肉にも生み出された存在なのだ。





*****





「おるたなさまっ! できた! できたよ!」

「慌てるな。転ぶぞ」



初めて自分の内にある魔力を具現化させることに成功させて興奮している幼い少女は、あまりの興奮にわき目もふらずに駆け寄ってくる。キラキラと輝く瞳は純粋でまだこの世界の汚さなんて知らない無垢そのもの。この瞳を見ると自分の汚さが際立つようで気が引けるが、そんな私を慕ってくれている事は素直に嬉しい。



「みてみてっ! わぁっ!?」

「サラ」



小石に躓き転んだサラは、それでも手のひらに集めた魔力を消してしまわないように手を地面に付けることなく死守した。だが結果を言えば魔力は転んだ瞬間に消え去り、サラは顔面から地面に飛び込むことになった。その状態が数秒続いた後。



「う、うわぁぁぁん!!」



子供特有の大きな声で泣き始め、手のひらの魔力が消えてしまっている事に気づけば更に大きな声で泣いてしまった。



「サラ?」

「どうしたんだよ」

「うわぁぁぁん!!」



サラを心配して各々に出していた課題を中断し、駆け寄ってくる子供達。この中で一番幼いのがサラという事もあって皆お兄さんお姉さんぶりたがり何かと世話を焼いている。そのサラが大泣きしているのだから皆心配して駆け寄るのだが。



「皆、課題に集中せよ。サラ、立ちなさい」

「っ!」



えぐえぐと泣き続けるサラを心配する子供達だが皆経験がある為、私の号令の後は素直に従い己の課題に再び取り組み始めた。サラの目は「なんで?」と言っているようだが決して手を差し伸べる事はしない。



「サラ。泣くのはいいが自分で立ち上がりなさい。誰かが助けてくれるなど思うな。助けてほしいなら訴えなさい」

「~~~っ!」



大きな瞳に涙を一杯に溜め、唇を噛み締めている。本当は助け起こしてほしい年頃なのだがそれはサラの為にはならない。次に転んだ時誰かが傍にいるとは限らないのだから。自分の事は自分で何とかしないといけない。


誰も助けてくれないと知ったサラは涙を貯めながらも自分でしっかり立ち上がり服についた土埃を払い始めた。小さな膝小僧にも可愛い顔にも怪我はなく単純にこけて驚いたのだろう。



「よく頑張った。偉いぞ」

「~~~! えへへっ、サラ、えらい?」

「あぁ。自分で立ち上がれたな。サラは強い」

「んえへへぇ~! サラ、つよいよ!!」



さっきまで泣いていたというのに今では満面の笑顔を浮かべている。他の子供達も自分の課題に取り組みながらもサラが笑っている事に安心したようだ。


ここに集まっているのは十六歳までの少年少女が十人。魔法の才能はあるがそれを学ぶ環境ではなかった子供達を本人の了承を経て我が領域に招き入れた。魔法を定着させる為に今のように子供達に教育していたが定着してからは領域を閉ざして外界と遮断していたのだ。


それを復活させたのはかれこれ百年程前だったか。

ただの気まぐれだったが、閉じこもってただ時を過ごすよりも張りがあっていい。若さというのはそれだけで価値がある。エネルギッシュな子供達に囲まれる生活というのは自分も若返るようだ。



「おーい、昼飯の時間だぞ」



魔法実技の場として作った広場に響いたのはエリスの声。



「さぁ、食事にしよう。しっかり食べて大きくなれ」

「「「はーーーい!!」」」



嬉しそうに駆け出して行く子供達は元気が溢れ表情も明るい。

引き取った頃は皆ガリガリにやせ細り、魔法どころではない状態だったのが嘘のようだ。貧困に喘ぐ村から、富に溢れている街のスラムから集まった彼らは明日がどうなるのかも考える余裕などない日々を送っていた。魔法が発展しても国が発展しても何処かに取り残される人間は必ずいる。皆、分け隔てなく平等など詭弁。持てる者は始めから持ち、持たない者は持っていない事にすら気づかない。



「オルタナ様! 早く行きましょう!」

「早く早く! ご飯冷めちゃう!」

「ごっはん! ごっはん! きょう~の、ごっはんはっ!」

「「「な~にっかな~!!」」」



きゃはははっ!

食事が楽しみで仕方ない子供達は遅れて歩き出した私の背中を押し、早く食卓に着かせようとする。天気のいい日は木陰の下に長テーブルを出して皆でワイワイ食べるのだが、待ちきれなかった腹ペコ小僧はつまみ食いの真っ最中。



「こーら! ま~たお前は! もう少しなんだから我慢しろよ!」

「えへへっ! ごめんなさーい!」



成長期の子供の食欲なんてスライム並なんていうが、今日もエリスが用意してくれた山盛りの料理があっという間に消えていく。見ていて気持ちがいい喰いっぷりだ。


食事の後は腹休めを兼ねて一服し、午後の課題を各自行う。夕日が沈む前に今日の成果を確認。その出来栄えで明日の課題を決めて解散。全員で掃除を行った後は風呂に入ると夕ご飯。その後は自主練習に使ってもよし、読書に励むもよしの自由時間。そして消灯。規則正しい生活は子供の成長に大きな影響を与える為、睡眠時間はしっかり確保するようにしている。


再開して約百年。初めの子供達はもう皆その生を閉じている。彼らの人生に私は少しは役に立つことが出来ただろうか。十七歳になればこの領域から出して自分の力で生きて行かねばならないという条件の元、子供達を引き取り養育してきたがそれが本当に彼らの為になったのだろうか。彼らの人生の役に立てたのだろうか。

せめてその先の人生ではひもじい思いをせずに生きてほしい。


―――それがかつて愛した男の頼みでもあるから。





*****





時は流れる。


決して止まる事無く流れていく。


流れ、止まらぬ時間の中で人は生まれ、生き、そして人生を閉じる。


出会いと別れを繰り返し、愛を育み、新たな命が生まれる。


そうやってこれまで紡いできた生命の歴史。これからも続いて行くだろう人間の歴史。だがそこには人知れず消えていく命がある。歴史に名を残す訳でもないちっぽけな命。大きな歴史の流れから見れば何てことない、名もなき人々が紡ぐ名もなき命の連鎖。



「見守ろう。ようやく、そう思えるようになったから」



そう思えるようになるまでどれだけ時間がかかっているんだか。まったく……情けないね。これじゃあジェラルドに呆れられてしまうよ。そう思えるようになったのも彼のおかげだというのに。


この世界の支配者である事実は変えない。だけど過干渉は行わない。人の世界は人がどうにかするべき事だから。人でない私達が過剰に関わるのは彼らにとっても負担だろう。まぁ、不快な事があれば容赦しないが。


基本的に私達が手を出すのは異世界人に限る。この世界の異物を排除する事こそ、私達〝魔女〟の存在意義。神の代行者として、彼らの行いが度を過ぎた場合鉄槌を下す。それが我々〝災禍の魔女〟の役目。



「君と共に。これから先もずっと傍にいる」



共に永遠の時を歩んでくれるパートナーであるエリス。本当は魔界を統べる真の王である事はとっくの昔に気づいていたが悪いね。離してやれないよ。だから付き合ってね。



「平穏な世界に入り込んだ異物。大人しくしていれば良かったものを……」



そして再び現れた〝聖女〟に国が湧く。救いを求め金を積み、おべっかを言ってご機嫌取り。あぁ、また繰り返されるのか。折角平穏に暮らすことが出来ていたのに。



「今回も同じだ。〝聖女〟は確かに神聖力を持っていたが、今はその力は衰え間もなく消える。なのに己が〝聖女〟であると信じて疑わない愚かな異世界人め」



新たに生まれた〝聖女〟はこれまでと同様、国の中枢にいる若く顔のいい男達を侍らせ彼らの婚約者を陥れた。無実の罪を着せ、その座を奪った薄汚い異世界人の女。そしてそのクズな異世界人と同等に憤りを感じるのが婚約者を捨てた男達に対してだ。



「何度同じことを繰り返せば気が済むのやら。学習しないのか?」

「〝恋は盲目〟とはいうけど、今回も聖女の〝魅了〟が使われている。フフッ、折角オルタナが警告して魅了に対抗する術を授けたというのに。……無駄にしたか。人間風情が」



魔王の殺気が空気を震わす。それは領域を飛び出し、彼らの国にも轟く。その殺気に恐れをなし慌てふためく〝聖女〟達。率先して人々の前に立ちべきだろうに、お前が守られてどうする。



「愚かな小娘め。そして愚か者共め。……再び教えてやらねばならんなぁ?」



普段は抑えられている魔力を解放させる。濃密な魔力は目視出来るほど重厚で、私を中心にして闇が広がり始める。それは領域を出て大陸全土に広がっていく。ヴァン大陸全体に私の魔力が広がったとしても私の魔力が枯渇する事は無い。


思い知れ! 我が力を! 我が怨みを! 我が憎しみを! 


〝聖女〟達の国でもようやく気付いたようだが、最早お前達に待っているのは〝後悔〟と〝絶望〟のみ!



「愚かなる人間共よ!! 私がただ大人しくしていたと思ったか? 貴様らが忘れ、同じことを繰り返すのならば私はいつでも貴様らに鉄槌を下そうではないか! 神の代行者たるこの魔女、オルタナが! 貴様らの崇める〝聖女〟とやらの本性、露わにしてやろう!!」



畏れろ、喚け、泣き叫べ!!

そして今度こそ人類史に刻み付けるがいい!



「〝始まりの魔女〟オルタナ。三百年の時を経て、貴様ら人間に再び恐怖を与えてやろう!!」




<終>

これにて完結。

学ばないのかという疑問については「人は忘れ歴史は繰り返す」という事で。

最後まで読んで下さった方、ブックマーク・いいねをして下さった方、ありがとうございました。


検索避けをしているこの作品ですが少ししたら一般公開しようかと思います。ひっそり連載している間から読みに来てくださっていた皆様には申し訳なく思いますが、ご了承ください。

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