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13.掌の上転がすストーリー

怪しげな室内に座り込む老婆。

その手に握られているのは天秤だろうか。

グレコは横で死んでいるコルワの腹を蹴り、叩き起こす。


「はっ!ちょっと!僕今日死にすぎじゃない!?」

「おやおやこれは驚いたねぇ、化け物が訪ねて来たのは初めてだよ。」


何事もなかったように立ち上がったコルワを見て、老婆の細い目が丸くなった。

驚いたとは言っても流石は老人だ。

特にそこから慌てるということもなく、俺達の目をしっかりと目を見据えて話してくる。


「化け物とヤクザが何しに来たんだい一体。あたしゃただのババアだよ。」

「あんたのスキルに用があって来たんだ。今度力を貸して欲しい。」


グレコは淡々と要件だけを伝える。

この老婆に頼みたいことは一つだけ。

ベリオットを闘技場に叩き込んだ後、奴を倒す時。

その時にこの老婆のスキルがこれ以上ないほど役に立つ。


「ダードは本当に面倒事を呼ぶ男だねぇ。それで?一体何に使うのさあたしのスキルを。」

「勇者の仲間、ベリオット・カイズナーを殺す。」


グレコの回答を聞き、老婆の動きが止まる。

魔女とかいうあだ名がついていても結局この老婆も奈落の人間だ。

勇者達への憎悪は抱いている。


「あたしゃ勇者達にそこまで詳しくないんだが……。本当に勇者の仲間なのかい?」

「あぁ、俺がいうんだから間違いない。俺もその勇者の仲間の一人だからな。」


ニヤニヤと笑いながら、グレコが己の身分を明かす。

憎まれていると言えど勇者達も一介の冒険者だ。

顔を見ただけで素性がバレるほどに有名人ではない。

単に奈落の住人全体から憎しみを向けられているだけだ。


「あーあー何で言っちゃうのさグレコ。バルトラの人達すら信頼を勝ち取るまで時間かかったのにさぁ。」

「黙れ、巫女コルワ。お前同じ身分だろうが。」

「げっ!僕を巻き込まないでよ!ぶべっ!」


コルワが不満を口にした途端、彼ないし彼女の首が再び吹き飛んだ。

殺害の犯人はもちろん老婆。

ボウガンのようなものを向けていた老婆はそれをゆっくりと下ろし、話し始める。


「あたしが勇者を嫌っていることぐらいダードから聞いているだろう?あんたらが自殺志願者って言うなら何度でも殺してやるが。」

「もちろんあんたの事情は聞いてる。息子夫婦と孫を殺されて俺達を逆恨みしてるんだろ?知ってるからこそ取引を持ちかけに来たんだ。その不死身の化け物をくれてやるから好きなだけ殺せ。代わりに俺に協力してくれ。」

「え、はぁ!?何を言ってるのさグレコ!」


グレコのあまりに突飛な発言に対し、血だらけのコルワがキレ始める。

しかしグレコにとってそんなことは知ったことではない。

老婆の利用価値とコルワの利用価値を天秤にかけた時、今は確実に後者の方が大きい。

不死身の変態など戦闘の時以外はクソの役にも立たないノイズだ。


「いいだろう、あたしの名はルネ。精々この女はサンドバッグにさせて貰うよ。あたしの力が必要になった時はいくらでも連絡しな。」

「あぁ、もう数日のうちに出番が来るはずだからそれまで好きに使ってくれ。あとそいつは女じゃなくて男だぞ。」

「へぇそりゃ気づかなかったね。丁度いい、男の方が気軽に殺せて気持ちがいい。」


ダードから聞いていた話の通りだ。

ルネとかいうこの老婆は勇者パーティに対する憎悪が人一倍深い。

家族を魔物に奪われた無力な一般人が憎む先など、勇者というわかりやすい標題しかないのである。

そこに人間サンドバッグたるコルワを差し出してやれば大体の頼みは聞き入れてくれるはず。

グレコのそうした思惑は成功し、ルネを味方にすることが出来た。

仕込みは完璧。

後はやるだけだ。


「待って待って!何をそんな簡単に僕を差し出してるのさ!僕を利用するのはいいけどこれは流石に酷いって!精一杯働くから!許して!」

「そう言われてもお前の使い時はもうないからな。ベリオットを借金漬けにする作戦も既に指示してあるし、あいつを倒す策もここで整った。ベリオットが死ぬところを見たいならルネに頼み込むんだな。」


グレコがカッコつけながらルネ宅を出ようとした時、コルワが足にすがりついてくる。

コルワの【不死】は痛みも何も感じずに蘇ることができるが、とんでもない不快感だけは残ると聞いている。

そんな奴を人間サンドバッグにするとなれば、普通は良心が痛むのだろうがグレコはそんなもの持ち合わせていない。

まして最近はコルワに煽られてばかり。

たまにはお灸を据えてやろう。

グレコは足元の変態を蹴り飛ばし、ベリオットがいるであろう賭場へと帰っていく。




「ったく!ちっともでねぇなここの台は!」


ベリオットがスロットの台を激しく叩く。

賭場に来てから数時間。

日も暮れようかという頃になっても未だ利益はマイナス。

基本的に儲からないのがスロットの常識だ。


「はぁ駄目だなギャンブルをやってると口が悪くなる……。いかんいかん。」


仮にも自分は勇者一行。

幸いなことに周囲に素性はバレていないようだが、下手に目立ってはいけない。

なんせ奈落とはいえここはサイラスの領内だ、

サイラスからの支援を受けている身でこんなとこに来ていては、国を追い出されかねない。

ベリオットはそう思考し顔を伏せる。


「おぉ!?何だ何だおっちゃん。その台はどうせ当たらねぇぞ!」

「そうだそうだ!にいちゃんのいう通りお勧めしねぇぞ!」

「んだんだぁ!」


唐突に声をかけてくる三人組。

ギャンブラーとして賭場に通っていると定期的にこういう輩に遭遇する。

少しボケた老人の場合はシンプルな善意の場合が多いが、この手の若者は逆だ。

自分が今座っているこの場所を奪おうとしているに違いない。


「助言はありがたいが結構だ。俺は俺の信じた道を進むと決めてるからなぁ。」


伸ばした髭を触り、若者達を追い払う。

何事においても自分の勘を信じること。

これさえ守っておけばギャンブラーなどやっていける。




「はっはっはぁ!やっぱりそうじゃねぇか!大当たり大当たり!最高の気分だ!」


さらにそこから半刻ほど。

ベリオットの予想通り、彼が座っていた席は途端に当たり始めた。

晩御飯を買う程度のタイノしか持っていなかったはずが、今や安い馬を買えるほどになっている。

ギャンブルは引き際が肝心。

勝っているうちに城に帰り、負傷しているランベリーに美味いものでも買って行ってやろう。

そう思ってベリオットが立ち上がると、今度は老人が声をかけてくる。


「お客様、どうやら今日はお楽しみいただけたようで。お客様のような運の強い方をお誘いしている場所があるのですが、次にいらっしゃったときにでもいかがですかな?」


こういう提案も賭場では良くあることだ。

賭場で金を稼いだということは賭場に運営に目をつけられることと同じ。

稼がれてしまった金を回収するために、賭け金の高いギャンブルへと誘っていく。

上等だ。

これに関しては乗るしかない提案である。

ヒリヒリするような勝負を求めて自分達はギャンブルをしているのだ。

己のポリシーに突き動かされ、ベリオットは老人の手を取る。


「是非よろしく頼むよご老人。しばらくはここに通えるはずだからな。楽しませて貰おう。」


どうせランベリーが回復したらここには来れなくなるのだ。

一人のギャンブラーとして稼げるだけ稼がせて貰おうじゃないか。

自信満々の表情を浮かべ、ベリオットは帰路についていく。


全てはグレコの掌の上だということに気づきもせず。

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