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ゴッドキル・ザ・メサイア ~カミゴロシの救世主~  作者: 蒼露 ミレン
第一章 『舌のない少女→誘拐じゃないから!!』
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1-5 『修行』

 翌朝。


 昨日はなかなか寝付けなかった。この近くにシカがいるらしく、その鳴き声が人の悲鳴のようで寝ようにも寝られなかった。

 シカの鳴き声は夜に聞くと怖い。


 旅に出てからというもの、パンしか口にしていなかったけど、相変わらず荷物の中にはパンしか入っていない。そろそろ飽きてきた乾パンを食べると、街まで行くことにした。


 今日はパズリィさん……師匠にバイト先を教えてもらうんだ。


 情報は怪しいけど、今パズリィさんは僕の師匠だ。

 逆らえる立場じゃないから、嫌でも従わざるを得ない。

 それに、そのバイト先が剣の修行に役立つなら、お金を稼ぎながら修業が出来る。一石二鳥じゃないか!


 業務内容が分からないからどうとも言えないけれど。


 信じるしかないけど。


 我が師匠、パズリィさんを。


 僕はテントをそのままにしておいて――この近くに人が来ることはないらしいので、盗まれることはない。でも野生の動物が何かしら持っていくかもしれないと忠告された――街へ向かう準備をした。


 持っていくものは、師匠に渡された木でできた模擬刀とお金の入ったぺったんこな袋くらいのものだ。食料はおいておいても大丈夫だろう。


 テントを出ると、空に薄く雲が漂っていた。


 今日の帰りくらいに雨が降るかもしれない――しかし、僕は傘を持っていない。また帰りに買えばいいか。そんなお金があればね。


 テントの入り口を閉めると、街へ伸びる一本道を歩き始めた。


 木々の生い茂る小道を進むと、一気に視界が開けて、白い建物が林立する場所へ着いた。喧騒が飛び交い、アリのようにせわしなく人が動く。

 田舎の村から出てきた僕にとっては、この人の数は衝撃だった。


 たどたどしい足取りで、僕は人の波に流されながら街を歩く。人にもみくしゃにされながらも、僕は挙動不審気味に辺りを見回していた。


 背の高い建物が多かったのだが、その一階部分はいろいろなものを売る店が並んでいた。野菜や果物、剣、鎧などなど、そういったものを店頭に並べて店員が声を張り上げている。


 その合間を縫うようにして、酒場なんかもあった。まだ朝なのに、もう飲んだくれている人が多くいた。酒場はいつも繁盛しているらしい。騒いだ客たちが店内で暴れだし、店員に追い出されたりなんかもしていた。よし。できるだけ関わらないでおこう。


 ちょっとした広場では吟遊詩人が詠い、踊り子が奏でられた音楽に合わせて踊る。そこに人が集まり、拍手が巻き起こっていた。中には踊り子に交じって踊り始める人もいる始末。


 どうやら、この街には陽気な人が多いらしい。


 彼らは、日頃から、人生を謳歌しよう! と笑っているようだった。他の人が笑えば、それは伝染して街中に広がる。みんな笑って、みんな楽しそうで、それを見ている人もまた、心を癒される……この街はある意味では助け合っているようなものなのかもしれない。


 言葉以上のものを感じさせられた。

 言葉ではなく、気持ちで人を温められるような街。


 オオカミに襲われたとはいえ、この街に行きついたことは幸いだった。まあ、あの踊りの輪に交わろうなんて思わないけど、傍から見るくらいならいいかな。


 視線を上に上げると、赤と白の提灯が提げられていた。どうやら近いうち祭りがあるらしい。今から準備をしようとしている人が、道路に荷物を運び出して通行人が邪魔そうにそれを見下ろしていた。


 祭りがあって、みんながこんなに陽気でいるのかもしれない。

 浮かれているとも言うけど。

 いや、浮かれているとしか思えないけれど。


 祭りの日程は知らないから、あとで師匠にでも訊いてみようかな。

 人の波は鬱陶しいから、その日はできれば外に出たくないしね。


 今でさえ苦労しながら歩いているのに、祭りの日にはどうなるか分からない。もしかすると人に潰されるかもしれない。なんて貧弱な体だろうか!


 できれば祭りの日までにはある程度の剣術は習得しておきたいな。というか、早くしないと夜眠れない。いつオオカミに襲われるか分からないし。昨日は大丈夫だったけど、それもいつまでも大丈夫! というわけではないだろうし。大丈夫ならあんなところにわざわざテントを立てたりなんかしない。


 やがて僕は師匠の住むマンションにたどり着いた。いや、マンションというよりは塔だ。巨大な塔に、騎士たちの宿舎があるんだ。


 街の外からでもすごく目立つほどに高くそびえる白い塔。何かのデザインなのか、その形は上に向かって右回りにねじれている。中の部屋は普通だったけど、外から見ると、その中に入るのがはばかられるほどの威圧感があった。


 塔の中に入ると、エレベーターで最上階まで向かった。師匠の部屋は、なんと最上階にあったのだ!


 師匠の騎士としての身分がそれほど高いのかと思ったけど、本人曰く、本来そこに住むべき騎士長が高所恐怖症だから、くじ引きで彼女が住むことになったらしい。

 なんて情けない理由……大丈夫か、この街。


 だからといって、師匠の剣の腕が悪いわけでは決してない。彼女もそれなりの剣術の使い手だから、くじ引きで選ばれたはずだ。強い人間は、それなりに強い運を持っている……と、僕は勝手に思っている。


 だから、パズリィに剣を教えてもらえるのは幸いだった。あの部屋もかなり広いし、なにしろ、騎士のトップが暮らすはずだった部屋だ。自分専用の剣の修練場だってあるかもしれない。


 どうやら、僕もそこそこの強運を持っているらしい。だ、だからといって僕が強いわけじゃないんだけどね! にやにや。


 最上階まで着くと、まっすぐ進んだ先に師匠の部屋があった。


 扉をノックすると、はぁいという間延びした声が聞こえ、扉が少し開かれた。そこからぬっと出てきた師匠は……なんでバスローブ!?


「あぁ! タグ来たんだぁ」


「そ、その前にその恰好をどうにかしてくださいよっ!」


「えぇ? 面倒だぁからいいよぉ」


 良くない良くない良くない! 面倒だからっていう理由で済ませちゃダメでしょ!?


 この人……昨日も思ったけどやっぱり変だ。何というか、無頓着? 節操がないとも言うかな。面倒くさがりともいう。どれでもいいけど、だらしない。あ、これだ。


 いいからちゃんとした服着てください! いや、一応バスローブもちゃんとした服かもしれないけど、その恰好で一緒にいるの嫌だから! 幼顔とはいえ、あなた結構スタイルいいから!


 僕は必死に説得して、何とか服を着てもらうことに成功した。その間、僕は廊下で待つことにした。


 そして、次に扉を開いて出てきた師匠は鎧を着ていた。え……普通の服、持ってないの?


 しかし、これ以上文句は言えない。気になる恰好なのは確かだけど、できるだけ気にしないように、僕は部屋に入った。


 部屋に入ってさらにびっくり! 


 わおっ!


 なんで一日でこんなに散らかっているんだぁぁぁッッ!!


「あー、ちぃらかっちゃてるけぇど……気にしなぁいでねぇ」


 無理です。


 いや、無理っすわー。


 だって、片付けたの昨日だもん。あんなにきれいにしたのに、なんでここまで散らかるの!? 泥棒でも入った!? きれいにしすぎて、泥棒でも入ったの!?


 だとすれば、今の阿鼻叫喚としたこの光景が一番の防犯なのかもしれない。泥棒すらも盗むことを忘れるこの散らかりよう……よし。時間が空いたときに少しでも片付けよう。何が盗まれたとしても、どうせ師匠の部屋だもん。僕には直接は関係ない。


 僕はそう決心して、師匠に連れられるままにリビングのテーブルに座らされた。もちろん、机には置き場がないほどにいろいろなものが置かれていた。全部開封済みのレトルト食品なのだからさらに驚く。この量を一日もたたず食べたのか……。


 男でもこの量は無理だろう。何せ、机に何段とレトルトのカレーが積み上げられているのだ。しかもカレーの塔は机の上だけでなく、部屋中にあった。稼いでるなぁ……。


 騎士はやはりお金持ちらしい。その使い方が荒すぎるような気もするけど。いや、絶対に気のせいじゃない。


「さー、座って座ってぇ! いぃまお茶淹れてあげぇるからねぇ」


「い、いや。早く剣の修行を……」


「焦らなぁい、焦らなぁい。そぉんなに焦らなくてもぉ、教えてあげぇるからねぇ!」


 この人の性格からして、あまり信用できないけど、信用しよう。そうじゃないと、これからもこの人とはやっていけない気がする!


 僕は言いたいことを我慢して、師匠に促されるままに座ることにした。


 数分後、お茶を淹れてきた師匠は昨日と同じように僕の正面に座ると、薄く微笑みながらのんびりとお茶を飲んでいた。


 僕もひとまずはお茶を飲むことにする。うん。やっぱり昨日飲んだ時と同じようにおいしい。


 こうしてゆっくりしていると不思議なもので、時間の経過がゆっくりに感じた。しかし、ふと時計を見ると、師匠との衝撃の再会(?)からすでに一時間が経とうとしていた。


 たまらず、僕は師匠に意見した。


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