1-9 『少女』
テントに着くなり、少女を横たえさせた。
呼吸が荒い。でも、額に手を当ててみると、熱はなさそうだった。熱があったときに対処する方法を、今の僕は持ち合わせていなかったので良かった。
雨が降る中、あんなところで放置されていた彼女の体をそのままにしておくわけにはいかない。
僕はこれは仕方のないことだ、と心で謝りつつ、少女の服を脱がした。濡れた服をそのままにしておくと、風邪を引くかもしれないからだ。
あんなところにいたから肌も汚れているのだと思っていたけれど、少女の肌は白く、きれいだった。とても雨の降る路地裏で、段ボールの中で眠っていたとは思えない。
……って、そんな感想言っている暇はないし、なんで僕はこんな小さな子をじろじろみているんだよ!
少女の肌を晒すと、持っているだけの毛布を掛けた。少女の服はよく絞って、テントの骨にかけて干す。外は雨だから、乾くのには時間がかかるだろう。少女が目を覚ますまでには乾いてほしいな……。
僕は少女に何度も謝りながら、大雑把に体を拭いてあげた。なんだかすごい背徳感……でも、今は気にないようにしよう。このまま濡れたままだと、服を脱がせた意味がない。
ある程度拭くと、僕の服を着せた。
でも、少女と僕の体格差がありすぎて、上着だけで体を隠してしまった。そういうところも妹と似ていて、僕は懐かしさを感じていた。
妹も、よく僕の服を着ていた。ぶかぶかなくせに、家の中ではよく着ていて、自分の服はないのか! って思ったこともある。外に出るときはちゃんと自分の服を着ていたけれど。
僕はそんな妹の姿と少女の姿を重ねつつ、この子をどうしようか迷った。
たぶん、この子は捨てられたのだろう。僕のいた村ではありえないことだけど、世界は広い。こういったこともあるのだろう。
本当に、嫌な世界になったものだ。
この子の親を探すわけにもいかないと思う。子どもを捨てるような親と一緒にいるのは、子どもにとっては悪影響にしかならないだろうから。
だとすれば、里親を探さないとなぁ……って、僕はなんでそんな先のことまで考えているんだよ。僕はこの子の保護者か!
それに、この子が捨てられたとは限らない。こう……込み入った事情があって、あそこにいたのかもしれないしね。
かくれんぼとか。
雨の日に?
ありえないだろ。
ああ、なんだか孤独すぎて自分で自分に突っ込んでいる。そうやって今目の前にあることから目をそらそうとしているような気がする……たぶん気のせいじゃない。
勝手に少女のことを予想するのは良くない。それも悪い方向へ考えるのはいけない。
妹と姿が重なったとしても、少女は少女で、僕の妹じゃないんだし。
でも……守りたい。
それは、もしかすると妹を守れなかった罪滅ぼしをするつもりなのかもしれないけれど、僕はそう思った。
神を殺しても、妹は帰ってこない。
なら、僕はこの少女を守って、妹を守るつもりでいよう。
勝手だなぁ。
そういうところも僕が僕を嫌いなところだ。
僕はため息を吐いて、自分の服も乾かすことにした。
上だけを脱いでよく絞ると、それで身体を拭いた。ある程度拭くと、もう一度絞ってテントの骨に掛けた。
今日はもう眠ろう。
毛布はすべて少女に遣っているので寒いけれど、一晩くらいなら我慢できる。雨でぬれたから今さらだし、たき火だって熾せないから仕方ないんだ。
僕は荷物の中から出した乾いたパンを半分まで食べると、少し水を飲んで目を閉じた。
この少女を拾ったことが、僕にとってプラスになるのかマイナスになるのか……その時は考えもしなかった。
ただ、この少女のことを守りたいと思ったのは事実で、少女が嫌じゃなければ、これから先も一緒にいたい。
目を覚ましてもいない少女のことを勝手に予想するのもどうかと思うけどね。
僕は少女が早く目覚めることを祈りつつ、眠りについた。
その日は、一晩中雨が降りしきっていた。
空が何か大切なものを失って泣いているかのような、冷たい雨だった。




