第十九話 真夜中の襲撃
深夜、一人の男が足早に廊下を歩いていた。
彼の予定通り、身代金の受け渡しは失敗した。
もはや王女を生かしておく意味はないし、これ以上生かしておくことは危険でしかない。早急に始末する必要があった。
幸い、王都も王城も、昼間の声明の影響で混乱している。王女を始末する絶好の機会だった。
事前の指示通り、死体をバラバラにしてしまえばここからでも運び出すことは難しくない。
そう考えながら部屋の鍵を開けようとした瞬間、彼の視界の端にキラリと何かが光った。
「っ!」
反射的に魔法防壁を展開する。その向こうで何かが砕けた音がした。
彼の顔が驚愕に強張る。なぜ自分がここにいるのが分かったのか、そして、なぜ自分を攻撃するのか。
(まさか、見破られたのか!)
ありえない、そう思いながらも彼は次々と飛来する相手の攻撃を防ぐ。
防御には絶対の自信があった。反撃で相手を殺すことができれば、どうにでもなる。
そう考えた次の瞬間、防壁によってできた死角からもう一人が飛び込んできた。
とっさに服に手を入れ、魔導武具を取り出しそうとする。
しかし、相手の動きの方が速かった。
鋭い呼気と共に刃が閃き、男は血しぶきと共に絶叫する。
魔法防壁が消え、遠方から飛来した氷の塊が直撃する。続いて至近距離からの蹴りが入り、男は呻きながら崩れ落ちた。
さらに扉が開き、もう一人が姿を現す。
三人を見上げた男は、諦めてぐったりと項垂れた。
「捜査官、怪我はありませんか?」
そばに駆け寄ってきてそう気遣うアリシアに、仁は「大丈夫」と短く返して、男を見下ろした。
彼女は仁を守るように立ち、いつでも男を攻撃できるように「氷弾」を展開している。
「本当に彼が殿下を誘拐したのかね?」
そう尋ねたのはシーダー卿だった。彼も魔導武具で完全武装している。
「証拠はありません。ですが、これが残った唯一の、そして筋が通った説明のつく解決だと思っています」
そう言いながら仁は落ちている魔法鍵を拾った。それをアリシアに渡す。
アリシアは無言で頷き、部屋の鍵を開ける。
ドアを開くと、部屋の隅に一人の少女が縛られ、猿轡を噛まされて座っているのが見えた。
金髪はくすんで乱れており、紫の瞳は疲労の色が濃い。
しかし、間違いなく第一王女キャサリン・アレクサンドリアだった。
仁とアリシアは室内に入り、猿轡を解き、縄を仁の剣で切って彼女を解放する。
拘束が解けた途端、王女はぐらりと倒れ込み、二人は慌てて彼女を支えた。
しばらく荒い息を吐いていた王女は、やがて蚊の鳴くような声を出した。
「……あなたたちは?」
「私は特別捜査局捜査官、ジン・オーツカ。こちらは補佐官のアリシア・コールです。キャサリン・アレクサンドリア殿下ですね?」
仁の確認に、腕の中の少女は小さく頷いた。
仁はキャサリンをアリシアに任せてその場を離れた。アリシアは彼女に何事か話しかけている。おそらく自分達が助けに来たことを簡単に説明しているのだろう。
そちらを一度ちらりと振り返ってから、仁はシーダー卿と共に犯人を見下ろし、冷たく言い放った。
「さて、詳しく話を聞かせてもらおうか。内務大臣ジョセフ・クライブ」




