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魔法世界の名探偵  作者: 敷座武雄
第三章 ファルギエール家の殺人
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第八話 キャロルとジョンの冒険

 その日の午後、ジョンは一人きりで屋敷の裏手をぶらついていた。

 屋敷の表側は魔法警察の刑事がたくさんいて気が滅入るし、屋敷の中に留まるのは論外だった。


 キャロルがあんなに沈んだ顔を見せるのは初めてだった。

 彼女はいつも自信とプライドに溢れていて、誰よりも自分の家と家族のことを誇りに思っている、そんな女だった。

 彼女があんな風になっているのを見ていたくなくて、ジョンは屋敷の外に逃げ出したのだった。


(……って、これじゃまるで俺があのお嬢様の心配をしてるみたいじゃねえか!)


 ジョンは頭をぶんぶん振って自分の考えを追い払おうとする。

 そう、これは……あれだ、あの女があんなだとこっちも調子が狂っちまうから仕方なくぶらついてるだけだ。

 決して、そう決して彼女のあんな姿を見たくないとかそういう理由では――


(……って、キャロルじゃねえか? なにやってんだあいつ?)


 ふと、ジョンはキャロルが馬小屋の近くにいるのに気付いた。

 馬車を引くための馬が飼われている馬小屋には刑事が張っているが、彼女はその死角からじりじりと近づき、何を考えたのか突然、彼女の固有魔法「炎槍」を発動させた。


「あ、どうも! お疲れ様です!」


 反射的にジョンは二人の刑事に声を掛けた。刑事がこちらに注意を向ける。一方のキャロルは「炎槍」を消し、こちらを恨めし気に見つめている。

 そのままジョンは馬小屋の前を通り過ぎ、しばらく歩き続ける。

 すると馬小屋から離れた所で突然後ろから衝撃を食らい、ジョンは地面に転がった。


「っつ……何すんだよ、てめえ。ってか魔法警察相手に何するつもりだったんだ」


 彼に後ろからタックルを仕掛けたのはキャロルだった。

 その彼女は今、彼に馬乗りになって目をギラつかせている。


「あんたが……あんたが邪魔しなけりゃ、王都に向かうことができたのよ」

「はあ?」


 何言ってるんだこのお嬢様は? 追い詰められてできもしないことを妄想するようになったのか?

 ジョンはそう思ったがキャロルは本気だった。


「あたしはエイベルから乗馬も習ってるのよ。馬車なんかなくてもあの馬さえあれば王都まで行くことができるわ」

「ちょっと待てよ。乗馬って言っても鞍とか鐙とか必要だろうが。それはどうするつもりだったんだよ」

「だからあいつらを倒して、その時間を稼ぐつもりだったのよ。それをあんたが……!」


 そこまで言うとキャロルはジョンの首をぐいぐいと締め上げる。それをなんとか止め、ジョンは喘ぎ喘ぎ反論した。


「バ、バカ、少しは考えろ。そんなことしたら門に立ってる刑事に連絡が行っちまうだろうが。少なくとも馬を馬小屋から出すまでは相手に不審に思われないようにしないといけないだろ」

「う……ぐ……た、確かに、そうね……」

「鞍とか鐙とかはそこら辺に隠しておいて、なんとか口実を作って馬を小屋から出せ」


 彼女にアドバイスを送りながらジョンは内心で頭を抱えた。

 なんで俺はこいつの王都行きのサポートをしようとしてるんだ。ここは諦めさせるところだろ。

 理性はそう叫んでいるのに口は止まらない。ついにはとんでもないことを言い始めた。


「大体、お前一人で王都まで行けるのかよ。俺が一緒に行ってやる」

「……いいの?」


 その声に彼女を見上げると、彼女が潤んだ瞳でこちらを真っ直ぐ見つめている。

 今までにない彼女の様子にドキリとするジョン。しかし次の瞬間、彼女はそのまま彼に抱きつき、さらにジョンの心臓が高鳴った。


「お、おま、なに……」

「お願い……一緒に来て。あたしを助けて……」


 今まで精一杯虚勢を張っていたのだろう、彼女は初めて自分の巣を曝け出し、ジョンに助けを求めた。

 気が付くとジョンは、彼女を抱きとめていた。


「分かった。一緒に王都に行ってやる」


 そうだ、自分は彼女のこんな姿なんか見たくない。彼女には自信満々で、そして父と兄のことになると止まらなくて、家に誇りを持っている、そんな姿が相応しい。

 そんな彼女を見るためなら、自分はなんだってやるつもりだ。

 ジョンは初めて、自分の気持ちを自覚したのだった。



「すみません。馬を出したいのですが……」


 10分後、キャロルは先ほどまで泣いていたのが嘘のような笑顔で魔法警察の刑事に話しかけていた。

 ジョンは馬小屋の裏手の少し離れた所で、馬具を二人分用意して待ち構えている。


「いけません、馬を使って敷地の外に逃げられては困ります」

「あら、馬車用の馬なのに、どうやってこれで敷地の外に逃げるんですか? 馬車のあるところにも刑事さん達がいるんでしょう?」

「む、それは……」

「それに、この子達もいつまでもここに閉じ込められていたら気が滅入ってしまいます。少し散歩をさせないといけません」

「……分かりました。30分以内に戻ってきてください。いいですね」

「ええ。ありがとうございます」


 キャロルは刑事たちに礼を言うと、馬小屋から二頭の馬を連れ出した。

 刑事達は知らないが、キャロルはエイベルと共に何度もこの馬に直接乗っている。どちらの馬もキャロルのことを覚えているのだろう、従順にキャロルの後をついて来た。

 間もなくキャロルはジョンが待ち構えていた所にたどり着く。


「なあ、俺乗馬とかほとんどしたことないんだけど、大丈夫かな?」


 「一緒に王都に行ってやる」なんて台詞を吐きながらそんなことを言う彼がおかしくて、キャロルは思わず笑ってしまう。


「大丈夫よ。この子達は気性が荒くないもの。なんだったらあたしの後ろに乗る?」

「な……! そんなことできるかよ! いいぜ、やってやろうじゃねえか!」


 そう言いながら彼は、彼女の指示通りに二頭の馬に馬具を取り付ける。

 その間に彼女は乗馬用の服装に着替えた。もちろんジョンには「こっちを見たら焼き殺す」と釘を刺してある。

 なんだかジョンのおかげで大分調子が出てきたな、と考えて、次の瞬間キャロルはハッとした。


(な、なによ! まるで私がジョンのおかげで立ち直れたみたいじゃない! そんなことないから! た、たまたまよ! たまたま相手がジョンだったってだけだから!)


 雑念を振り払い、手早く準備を済ませると、ジョンも馬具を取り付け終えたところだった。

 馬に乗るのはほとんど初めてだと言うが、馬具はしっかり取り付けてある。

 キャロルはひらりと馬の背に跨り、ジョンは少し苦戦したが、それでもなんとか馬に乗れた。


「大丈夫? 歩ける?」

「……ああ、意外となんとかなるもんだな」

「じゃあ、行くわよ」

「って、どうやっていくんだよ」


 ジョンの疑問にキャロルは胸を張って答えた。


「ここまで来たら強行突破しかないわ。警備の薄い裏門を『炎槍』で壊して、そのまま街を迂回して王都に向かうわ」

「りょーかい」

「……反対しないの?」


 キャロルは意外に思ってジョンにそう尋ねた。

 だがジョンはニヤリと笑って答えた。


「ここまでやったらどうやったってバレるだろ。強行突破上等だ」


 その言葉にキャロルも自然と笑みが浮かんだ。



 裏門を警備している魔法警察の刑事二人は、退屈を持て余していた。

 こんなところまでやって来る人間などいないし、風景に変化もない。

 屋敷から遠いこともあってか、二人の刑事にはほとんどやる気がなかった。

 だからだろう、タカタッ、タカタッという馬の駆け足の音にも、彼らは直前まで気づかなかった。


「お、おい、なんだあれ!?」

「う、馬ぁ!」


 慌てふためく刑事二人は裏門から飛び退る。

 それを見てキャロルは「炎槍」を発動させる。


「はああああっ!」


 気合と共に炎の槍を投げつけ、一撃で裏門を吹っ飛ばした。


「行くわよ!」

「おう!」


 そう声を掛けあいながら二人は一気に壊れた裏門を駆け抜ける。

 後には呆然とした魔法警察の刑事二人が残された。



「キャロル・ファルギエールとジョン・デクスターが逃げ出した!? 馬に乗っていただと!? 警備は何をやっていた!?」


 屋敷で報告を受けたユルバン警部は激怒した。

 事件関係者を一ヶ所に留め、余計なことをさせずに一気に解決まで持ち込むつもりだったのが、二人の逃亡で計画が狂ってしまった。

 ただでさえ「特別捜査局」などという余計な人間がいるのだ。この事件の捜査の邪魔をされてはかなわない。

 しばらく部下に怒りをぶつけていた彼は、しかし突然、仁の方を向いた。


「貴様の差し金か?」

「まさか」


 仁は即答した。実際、自分がなんとか動けるようになるのは魔法警察の軟禁が解かれてからだと考えていたし、こんな形でジョンとキャロルが屋敷から脱出するとは思わなかった。


「僕が関わってたらもう少し上手くやりますよ。少なくとも裏口を強行突破したりしない。裏口の警備の注意を逸らすくらいのことはやります」

「むむむ……」


 唸る警部を仁は黙って見つめる。

 おそらく二人は王都に向かったのだろう。ならば自分はそれを上手くアシストしてやる必要がある。それは彼自身のためでもあったし、何より友人として二人を助けたいという思いでもあった。


「二人がどこに行ったか、それは分かるか?」

「分かりませんが、馬を使ったなら国境かクラージンのどちらかでしょう。他に選択肢はないと思いますが?」

「……た、確かにそうだな! よし、クラージンの魔法警察と国境警備隊に連絡しろ! 馬に乗った二人組を見かけたら逮捕するようにと! 罪状? 公務執行妨害でいい!」


 こっちの世界にも公務執行妨害ってあるんだ、と暢気に考えていた仁は、アリシアに腕を突かれて振り向いた。


「あの、あんなこと言って大丈夫なんですか? キャロルとジョンがクラージンで捕まってしまうのでは……?」

「さあね、そこは二人が上手くやることを祈るしかないな」

「上手くやる? 何をですか?」

「うーん、馬の乗り方、かな?」

「はあ?」


 仁の謎の言葉にアリシアは首を傾げた。



 その頃キャロルとジョンは、街から大分離れた場所で馬を休ませていた。


「意外と筋がいいじゃない。あんた、騎兵隊にでも入ったら?」

「俺は白兵戦希望なんだよ、騎兵隊なんかに入るつもりはないね」


 そんな風に軽口を叩き合いながらも、二人は今後の検討を進める。


「クラージンの馬車駅で馬を預けるわ。以前もやったことがあるから、スムーズに行くはずよ」

「ちょっと待った、それはまずい」

「え、なんで?」


 キャロルの提案をジョンが止める。最近このパターンが多いな、と思いながらジョンが説明をした。


「おそらくクラージンには魔法警察の手が回ってる。だってあの街の近くの大きな場所っていったら国境警備所かクラージンしかないからな。おそらくそこは魔法警察の手が回っているはずだ」

「くっ……じゃ、じゃあどうしろってのよ」

「クラージンを飛ばしてメルクまで行く。もちろんメルクにも手が回ってる可能性があるけど、クラージンよりは上手くいく可能性が高い。それにメルクまで手が回ってたらもう王都にも手が回ってると思った方がいい。そうなってたらどうやっても無駄だ」

「な、なるほど……じゃあクラージンを大回りして飛ばして、メルクまで行けばいいのね」

「ああ、それでメルクで捕まっちまったら諦めよう」

「そうね……」


 その後は二人ともしばらく無言だった。

 やがて休憩が終わり、出発しようとした時だった。


「……ありがとう」

「は?」

「だから! ありがとうって言ったの! あなたがいなかったら私、クラージンで捕まってたかもしれないし、そもそも屋敷の外に出れたかも怪しかったから、その、お礼を言わないといけないと思って……」

「……熱でもあるのか?」

「なによ! 人が素直にお礼を言ったのにその態度! ほら、とっとと乗りなさい! 時間はないのよ!」


 憤慨するキャロルにジョンは状況も忘れて笑った。


「な、なにがおかしいのよ」

「いや、そうやって強気な方がお前らしいよ」

「っ! つ、強気でもなんでもないわよ! さあ、行くわよ!」

「おう!」


 そんなやり取りを交わして、二人は再び駆け出した。



 ユルバン警部は怒りが収まらなかった。

 クラージンの馬車駅にも国境警備所にも、馬に乗った少年と少女が現れたという情報が全くないのだ。


「国境警備所にもクラージンの馬車駅にも現れていない? そんなはずはないだろう! もうとっくに着いていておかしくない時間だ!」


 警部はしばらくうろうろと辺りを歩き回り、屋敷の人々を怯えさせていたが、やがて再び仁の所にやってきた。


「貴様、何かやったんじゃなかろうな?」

「どうやってですか……」


 仁が「ここにいながらにして情報操作とか無理だろう」と言外に匂わせて呆れたようにそう言うと、ユルバン警部もあっさりと自分がおかしなことを言ってると認めたようだった。


「そうだ、こいつに何かできたはずがない。なのになんで……なんで現れないんだ……?」


 やがて警部が立ち去ったのを見て、桜がアリシアに話しかけた。


「不思議だね、ジョンくんとキャロルちゃん、どこに消えたんだろう?」

「さあ? 捜査官は何か手を打ったようですが……」

「え、仁ちゃんが? 何もしてなくない?」

「ええ、何もしてないように見えるんですが……」


 仁はそんな二人の話を聞くともなく聞きながら、ジョンとキャロルに思いを馳せる。

 二人ともよくやった、と彼は心の中で賞賛を送った。



 メルクに着いたのは夜だった。運悪く、既に王都行きの最終高速馬車は出発した後だった。


「ここの馬車駅で馬を変えて、一気に王都に向かうわ」

「そんなことできるのか?」

「馬車駅には予備の馬がいるわ。それを使わせてもらうの。もちろんお金はそれ相応に払うわよ」


 そういうなりキャロルはメルクの馬車駅に飛び込んでいった。ジョンは慌てて後を追いながら、一抹の不安に駆られた。

 もしここに魔法警察が待ち構えていたら、これまでの苦労は全て水の泡だ。それだけでなく、自分達が魔法警察に犯罪者として捕まる可能性もある。

 しかし、メルクの馬車駅には魔法警察の影も形もなかった。まるでユルバン警部がメルクの魔法警察に連絡しなかった・・・・・・・かのようだ。


(いや、もしかしたら……)


 ジョンはふと、ここにいない推理力抜群の年上の友人のことを思い出した。

 彼ならば、こちらの行動を読み切り、それを助けるようにあの警部の思考を誘導するくらいのことはやってのけるだろう。

 ジョンは心の中で仁に感謝した。おそらくここに魔法警察がいないのは、彼のおかげなのだ。

 そんなことを考えていると、交渉を終えたらしいキャロルが戻ってきた。


「なんとか二頭借りられたわ。かなり高くついたけどね」

「ファルギエールの名前、出さなかっただろうな」

「さすがにそんなヘマはしないわよ。でも、胡散臭い目で見られたのは確かね」

「まあ、ここまで上手くいったなら王都の警備も薄いはずだ」

「そうね。夜間灯とかの準備に少し時間がかかるって言うから、その間に食事だけ取って、一気に行くわよ」

「ああ、分かった」


 数十分後、二頭の馬が夜のメルクから走り出した。

 メルクの魔法警察は、最後まで現れなかった。



 王都に到着したのは、最終高速馬車の到着の少し後だった。それだけ馬を飛ばしてきたということでもあり、それだけ二人は疲れ切っていた。

 しかしまだ何も成し遂げていない。これからが本番なのだ。


「貴族街の警察省に。この時間ならまだシーダー卿はいるはずよ」


 馬車に乗ったキャロルはそう指示を出した。

 馬車はじれったくなるほどのろのろと進み、やがて貴族街の壁の前でしばらく止まった。

 キャロルとジョンは魔法学校の学生証を衛兵に示し、ようやく貴族街に入ることができた。

 ガラガラと音を立てて馬車は貴族街を進む。

 既に街は夜の闇に覆われ、いくつもの家に明かりが灯っている。

 そんな中、二人の乗った馬車はようやく警察省の近くに到着した。

 その時、キャロルとジョンの目に、帰りの馬車に乗ろうとするシーダー卿の姿が映った。

 キャロルはとっさに叫んだ。


「シーダー卿! 待って! 待ってください!」


 驚いたようにこちらを振り向くシーダー卿に向かって、キャロルは走る馬車から飛び降り、そのまま転がるようにシーダー卿の元へと走っていった。


「君は誰だ? それにこれは一体、何の騒ぎだね?」


 そうだ、シーダー卿は私のことを知らない。アリシアの話に何度か出てきてすっかり知った気になっていたけれど、私はこの人に会うのは初めてなんだ。

 そう思ったキャロルは、せめて淑女らしく見えるようにと腰を折った。


「初めまして。わたくし、キャロル・ファルギエールと申します。西部山岳州領主、ヴァレール・ファルギエールの娘でございます」

「ほう、ヴァレール氏の娘さんか。随分な格好をしているが、一体私に何の用だね?」


 そう言われてキャロルは自分の格好を顧みる。

 乗馬用のズボンに上着、しかもどちらも長距離の移動で埃まみれになっている。

 でもそんなことは関係ない。私はお父様の無実を証明してもらうためなら、どんな無様な格好だろうと厭わない。

 キャロルは必死に言葉を続けた。


「実は本日、我が家で殺人事件が起きました。当家には『特別捜査局』の二人も客人として招かれていたのですが、西部山岳州の魔法警察は彼らを無視し、父を殺人犯として逮捕しようとしているのです」

「しかし、十分な証拠があって『特別捜査局』の協力なしで解決できるというのであれば、それで良いだろう」

「父は殺人など犯すような人ではありません! 『特別捜査局』の二人の力があれば、それが証明できるはずです! なのに魔法警察のユルバン警部は『特別捜査局』と協力せず、自力での解決に固執しているのです!」

「……そう言われても私には判断がつかない。殺人を犯しえない人間などこの世にいないのだよ。君の父上だって、何かの理由があれば殺人を犯すかもしれない」

「でも、この事件の犯人ではないはずです! お願いします! 我が家に魔法通信を一本入れてくださるだけでいいんです! それだけしていただければ、後はきっと、ジンとアリシアが、きっと……」


 キャロルはそこまで言うとズルズルとその場に崩れ落ちた。

 自分でも支離滅裂なことを言っていると分かっていた。忙しい警察省大臣にとっては、魔法通信一本だって余計な仕事は省きたいに違いない。それでもあの二人なら、父の無実を証明してくれる。そのためにはこの人に頼み込まなければならない。

 シーダー卿との対話で、自分の都合の良さを突きつけられながらも、キャロルはなおそれに縋り付こうとした。

 その時、後ろに立つ影が頭を下げた。


「俺からもお願いします。ジョン・デクスター、アリシア・コールとこちらのキャロルとは同級生です。ジンとも、友人として付き合っています」


 ジョンが頭を下げて、シーダー卿に頼み込んでいる。自分も、その場で頭を下げた。


「お願いします……シーダー卿……」


 どれくらいそうしていただろうか、突然身体が浮き上がるような感覚に襲われ、次の瞬間、シーダー卿の顔が目の前にあった。


「分かった、今日はもう遅い。私の家に泊まりなさい。明日朝一番で私の馬車で西部山岳州に向かおう」


 一瞬、キャロルはシーダー卿の言っている意味が分からなかった。

 ジョンが後ろで「いいんですか! そんな、直接来ていただくなんて!」と叫ぶのを聞いて、ようやく頭が回り始める。


「シーダー卿! そこまでしていただく必要は……!」

「なに、明日はマッサロー卿との会食くらいしかないし、明後日からしばらくは私も年末休暇だ。それにたまには、『特別捜査局』の二人がどういう風に捜査しているのか、それを直接見てみたいと思ってね」

「あ、ありがとうございます。本当に、ありがとう、ございます……!」


 キャロルはシーダー卿に抱きしめられるように支えられながら、彼の馬車に乗せられるまで、感謝の言葉を繰り返していた。


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