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魔法世界の名探偵  作者: 敷座武雄
第三章 ファルギエール家の殺人
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第五話 婚約発表の夜

 食堂は屋敷の一階にあった。玄関ホールから見ると右手の手前側に位置している。

 この区画は奥が厨房、手前が食堂になっていて、大人数での食事が可能な広さが確保されていた。

 仁はこの食堂で初めてハーゲンドルフ商会の副社長であるルッツ・アンテスと顔を合わせた。


「すみません、ここに来てから書類の整理でずっと部屋にこもっていまして、挨拶が遅れました。ハーゲンドルフ商会の副社長を務めさせていただいております、ルッツ・アンテスと申します。『特別捜査局』の捜査官とお会いできて光栄です」

「『特別捜査局』のジン・オーツカです。『特別捜査局』といっても構成員二人の零細組織ですから、大したものではありません」

「いえいえ、『特別捜査局』の活躍は国中で評判になっていますよ」

「参りましたね……名前ばかり有名になってしまってる気がする」


 そう言いながら仁は食堂を見渡す。食堂にはこの屋敷の主だった人間が顔を揃えていた。

 まずはホスト役であるファルギエール家の人間。当主のヴァレールの両隣に息子のマシューと娘のキャロルが座っている。

 マシューの側にはハーゲンドルフ商会の人間が座っていた。マシューのすぐ隣に秘書のレジーヌ・ノエ、その隣にアーベル・ハーゲンドルフ、そしてツェーザル・ハーゲンドルフ、ルッツ・アンテスと並んでいる。

 キャロルの側に並んでいるのはキャロルの学友、ということになっている自分たちだ。何の因果かキャロルの隣はジョンである。その隣に桜、アリシア、仁の順番である。

 「テーブルマナーを知っている人間を間に挟む」という方針で席を決めたところこうなってしまったのだが、意外にもキャロルもジョンも文句を言わなかった。

 ハーゲンドルフ商会と仁達の間にはベラスコとセリナのバルデム兄妹が座った。

 兄のベラスコが仁の隣に座り、妹のセリナがその隣、ベラスコとルッツ・アンテスの間に座った。

 ヴァレールの後ろには執事のニック・アークが控え、メイドの二人、マーサとコレットが忙しくテーブルを回っている。

 どうやら料理はこちらの世界・・・・・・でいうコース料理のような物らしい。目の前にはナイフとフォークが複数置かれ、おそらく前菜と思われるサラダが各々の席に置かれていく。

 後はナイフとフォークの使い方だけ気を付ければなんとかなりそうだな、と思っていた仁は、マシューが喋りだすまで彼と秘書のレジーヌが立ち上がっていたことに気付かなかった。


「食事の前に皆さんにご報告したいことがあります」


 マシューがそう言ってレジーヌの左手を取る。その薬指には赤い宝石の嵌った指輪が光っている。


「本日、私マシュー・ファルギエールはこちらのハーゲンドルフ商会の社長秘書であるレジーヌ・ノエさんと婚約することになりました。この場を借りて皆さんにご報告させていただきます」


 ざわり、とその場の空気が揺れるのが仁にも分かった。

 思わず仁はその場を見渡した。

 レジーヌ・ノエが兄を誑かしている、と言っていたキャロルは兄の婚約者となった社長秘書を睨みつけている。彼女を挟んで反対側に座るアーベルもレジーヌを睨みつけている。

 なぜかセリナ・バルデムも彼女を睨んでいる。

 一方で素直に祝福しているのはヴァレール・ファルギエールとツェーザル・ハーゲンドルフ、そしてルッツ・アンテスの三人だった。

 仁をはじめとする四人はどうすればいいか分からず、取りあえず拍手をした。

 それをきっかけにぱらぱらと拍手が起こり、二人はそれに応えながら再び着席した。


 予想外の婚約発表があったものの、夕食自体は滞りなく進んだ。

 食事はオードブル、スープ、メインとなる肉料理、デザートとという構成で、仁の知るコース料理と大きな違いがなかったのは幸いだった。

 両者の婚約が余程嬉しかったのだろう、ツェーザル・ハーゲンドルフはよく喋り、二人の今後について色々と尋ねたりしている。

 対照的に息子のアーベルはほとんど喋ることなく、不機嫌さをむき出しにしていた。

 もしかしたら彼女を巡って争ってたのかもしれない、などと仁は下世話なことを考えたりした。

 不機嫌と言えばキャロルも不機嫌さを全開にしており、彼女の連れである自分たちはかなり居心地の悪い思いをすることになった。

 料理はおいしかったものの、場の空気はぎくしゃくしたまま夕食の時間は過ぎて行った。



 最後のデザートがあらかた片付け終わったころ、ツェーザル・ハーゲンドルフがヴァレール・ファルギエールに声を掛けた。


「なあヴァレール。すまんがまた書斎を貸してもらえないか? ちょっと作っておきたい書類があってな」

「またですか……分かりました。鍵を預けておきますので、施錠はきちっとしてくださいね」

「もちろんだとも。あと、先ほど見せてもらったマシュー君の新作の『炎のナイフ』。あれをもう一度見てみたいんだ。後で持ってきてくれないか?」

「……分かりました」


 ヴァレールは少し困ったような顔をしていたが、最後は頷いて書斎の鍵を渡した。

 その様子をキャロルは不機嫌そうな顔で見つめていた。父親が誰かに頭が上がらない、という状態が気に食わないのだろう。

 そんな中、一人立ち上がって食堂を出ようとした副社長のルッツ・アンテスにヴァレールが声を掛ける。


「どちらに行かれるのですか?」

「部屋に戻ります。まだ書類の整理が終わってないのでね。食後の歓談は遠慮させていただきます」


 そう言って彼は食堂から姿を消した。


「食後の歓談って何?」


 聞きなれない単語が出てきたので、仁は隣のアリシアに尋ねてみた。


「こういう料理の後には居間に移って1,2時間ほどお喋りをするのが慣例なんです。今午後8時ですから……9時か10時、長ければ11時ごろまで続くこともあります」

「どんなことを話すの?」

「それはその時と場合によって異なるとしか……あ、皆さんが動き始めましたよ。私たちも行きましょう」


 アリシアにそう言われて仁は慌てて立ち上がる。いつの間にかほとんどの人が向かいの居間へと向かっていた。仁とアリシアもその後を追って食堂を出た。



 居間で「食後の歓談」に興じることになったのはマシュー・ファルギエールとその婚約者となったレジーヌ・ノエ、ハーゲンドルフ商会社長の息子アーベル、それに仁、アリシア、桜、ジョン、キャロルの五人組とベラスコとセリナのバルデム兄妹の10人だった。これに食後の果実酒を提供するためにニック・アークが控えているため、その場には11人の人間がいることになった。

 ツェーザル・ハーゲンドルフはファルギエール家の書斎を占領して書類を作り、副社長のニック・アンテスは書類整理のために部屋に籠り、ホスト役のヴァレール・ファルギエールはツェーザルに「炎のナイフ」を持って行って何やら話をしているらしい。

 居間には三人掛けのソファが二つに二人掛けのソファが三つ、さらに今回のためにか、ほかの部屋から持ち込んだと思われる椅子がいくつかあった。

 いずれも座り心地は良いし、食後に執事のニックが持ってきた果実酒も爽やかな味わいだ。

 だが居間の空気は最悪に近い状態だった。


「一体どんな手を使って彼女をモノにしたんだ、マシュー? 後学のために教えてもらえないかな?」


 のっけから恨みと妬みが混ざったような粘ついた口調でマシューに突っかかっていったのはアーベルだった。

 どうやら魔道具発明家と社長の息子が美人の社長秘書を巡って争っていたという仁の下世話な想像は、嫌なことに当たっていたらしい。


「どんな手もこんな手もないですよ。僕は正々堂々と彼女に求婚しただけです。あなたみたいに回りくどい方法をとらなかっただけです」

「ほう。ちまちま魔道具を作るしか能のない奴が正々堂々とは、随分と言うようになったな」

「あなたの方こそ、その恵まれた魔力と珍しい固有魔法を正しく生かす道に進めば良いのに。いつまでも父親の後をついて回っても仕方ないでしょう?」

「俺は親父の後を継いでハーゲンドルフ商会の社長になるからな。お前みたいな雇われ職人とは生き方が違うんだよ」


 二人のやり取りの激しさに、仁はたまたま隣にいたベラスコにそっと尋ねた。


「あの二人、昔から仲が悪いんですか?」

「……そうだな。マシューと魔法学校の初級から上級まで一緒だったって話は前にしたよな? 実はアーベルも同じで初級から上級まで一緒だったんだが、その時から仲が悪かった。アーベルは『金属加工』っていう類稀な固有魔法と豊富な魔力で実技に強かったが、一方のマシューは魔法理論に強くて、当時から小さい魔道具を作っては教師を驚かせたりしていた」

「お互いライバルだったわけですか」

「ライバルならいいが、得意な方向が違ったせいか、どうもお互い相手の悪口が多くてな……特にアーベルは『大したことない魔力でよく魔法学校に入れたもんだ。親の七光だ』って当時からうるさかった」

「レジーヌさんを取り合う前から仲は悪かったんですね」

「なんだ、気づいてたのか。そうだな、ハーゲンドルフ商会の社長秘書ってこともあってアーベルの方が先にレジーヌ・ノエと知り合ったはずだ。それが魔道具職人としてハーゲンドルフ商会と関わるようになったマシューに先を越された。アーベルからすれば後から現れて獲物を掻っ攫われた気分なんだろうよ」

「はあ、そんなもんですか。ところで、セリナさんはなんでレジーヌさんをあんなに睨んでたんですか」


 仁が妹のセリナに質問を振ってみると、彼女はギョッとした顔でこちらを見つめた。


「え、に、睨んでなんかないよー?」

「婚約発表の時、物凄い睨んでましたが」

「あちゃあ、見られてたかー」

「いや、睨んでる人は他にもいたから別に構いませんけどね、なんでセリナさんがあんなにレジーヌさんを敵視してたのかなと気になって」


 仁のその言葉に、彼女はしばらく黙りこんでいたが、やがてこっそりと仁に囁いた。


「あの女が気に食わないのよ。どこが? って言われると困るんだけどー……なんていうか、女の勘?」

「はい?」

「いや、あたしだっておかしなこと言ってるのは分かってるよ。だけどさ、なーんか気に食わないのよ、あの女。そのー、うまく言えないんだけどさ?」


 何か無意識的に感じるものがあるのだろうか、と仁は考える。

 あるいは魅惑的な肢体を持つレジーヌへの反発のようなものかもしれない。


(まあアリシアほど魅力的だとは思わないけれど、確かに美人ではあるからなあ)


 無意識にアリシアのことを考えるあたり、仁自身も大概である。

 と、そんな仁の想像を破るような大声が居間に響いた。


「もう、やめやめ! こんな場所でそんなギスギスした話、止めましょうよ!」


 誰かと思えば桜である。果実酒のせいか頬は赤く染まり、ほろ酔い加減なのが分かる。

 仁は頭を抱えた。そう言えばこの従姉は酒にあまり強くない。そして酔っぱらうと例によって例のごとく突拍子もないことをやり始めるのである。


(まずい、姉さんにはジュースを渡すようにアークさんに言っておくべきだった)


 今更そんなことを考えてももう遅い。仁は従姉が何を言い出すかハラハラしながら見守ることになった。


「確かにそうですね。すみません、場の空気を悪くしてしまって」

「それで? 姉ちゃん、あんたは何か面白い話ができるのか?」


 素直に謝ったマシューに対して、桜同様に酔っているのだろう、アーベルは桜に突っかかっていく。

 そんな彼に対して、桜は自信満々でこう答えた。


「もちろん! 面白い話なら、仁ちゃんがしてくれます!」

「はあ!?」


 いきなりの無茶振りに思わず素っ頓狂な声を上げて立ち上がってしまったが、それがいけなかった。部屋中の注目が仁に集まる。


「……えーと、何の話をしろと?」

「仁ちゃんが解決したっていう密室殺人……「鍵の掛かった部屋での殺人事件」の話! この場にぴったりでしょ! どういう事件でどう解決したか、詳しく話してあげなさい!」

「おお、そりゃあ確かに気になる。あの『魔法錠破り』事件が『黒薔薇騎士団』の新しい呪術でも何でもなかったとは聞いているが、詳しい話は聞いたことがなかったんだ」


 運が悪いことに、仁の活躍を軍で知っているらしいベラスコ・バルデムが乗ってきた。


「あ、それわたしも聞きたいわ。結局アリシアから詳しい話を聞いたことがないのよね」

「そういや、ジンの最初の事件の話って詳しく聞いたことがなかったな」

「あたしもあたしもー。魔法錠が破られたって王都の貴族たちが凄い怯えてたって事件でしょ? どんなカラクリだったのか、是非とも知りたいなー」


 キャロルとジョン、さらにセリナ・バルデムまでが賛成に回る。


「確かに僕らの言い合いよりははるかに面白そうだ。ぜひ話してくれませんか」


 マシューまで乗ってくるにあたって、仁は完全に逃げ道を塞がれる格好になった。


「すみません、食後の歓談だというのに皆さんを放っておいてしまって」


 その時ちょうど、ヴァレール・ファルギエールが居間にやってきた。

 仁は何とか彼に助けを求めようとしたが、それよりもキャロルの方が速かった。


「お父様、ちょうどいい時に来られたわ。これからジンが、王都を震撼させたあの『魔法錠破りの殺人』の捜査の話をしてくれるんですって!」

「ほう、それは確かに面白そうだ。ジン君の活躍は王国中に聞こえているからね。その最初の事件となれば、ぜひ聞いてみたい」


 するなんて一言も言ってないのにあっという間に既成事実が作り上げられた。しかもホスト役のヴァレールまで賛成する有様だ。


「私はそういう話はちょっと苦手で……少し席を外してもいいですか?」


 そう言って居間から出て行ったのはレジーヌ・ノエただ一人。他の人間は大なり小なり興味があるようで、あのアーベル・ハーゲンドルフすら、ソファから身を乗り出して仁を見つめている。


「ジンさん……あの、諦めた方が良いかと」


 アリシアにまでそう言われて、仁は完全に諦めた。


「分かりました。食後の歓談としては少し過激な話になりますが、それで良ければ話しましょう。この事件は8月の中ごろに起きた殺人事件でした。そもそもの始まりはハワード・ハミルトンという魔法研究所に勤める魔法使いです。彼は『固定化』という珍しい固有魔法の持ち主でしたが、『黒薔薇騎士団に命を狙われている』と言い始め、普通警察の護衛を受けることになったのです」


 そこで仁は手元にあった果実酒を一気にあおった。酒でもなければやってられない気分である。


「ところがある日、彼の泊まってるホテルの部屋から『熱い! 助けてくれ!』という悲鳴が聞こえました。普通警察の護衛二人は両隣りの部屋にいて、彼の声で慌ててドアの前に来ましたが、ドアには魔法錠がかかっていました。仕方なく刑事はホテルの支配人を呼び、合い鍵でドアを開けてもらったのですが……部屋の中には部屋の鍵を握った焼死体のみで、魔法鍵なしでは誰も出ることができないはずなのに、部屋の中には他に誰も見つからなかったのです」


 時刻は間もなく、午後9時になろうとしていた。



 途中に質問を挟んだり、セリナとの「ちょっと考えさせてー! あたしにも解けるはずなんでしょー!」というやり取りを経たりして、仁が事件の話を終えたのは10時を過ぎたころだった。

 その間に執事のニック・アークは果実酒のお代わりを作るために何度か席を外し、キャロルも手伝いのために部屋から出ることがあったが、他は皆、仁の語る事件の展開に聞き入っていた。

 話の途中でレジーヌ・ノエも戻ってきたが、彼女は血生臭い話は好みではないと言っていた通り、少し離れたところで皆のやりとりを見ているだけだった。

 ようやく仁が一息ついたところで、完全に酔った桜がまたとんでもないことを言い出した。


「さて、では次の事件! 犯人は分かり切っているのに、犯行当日、犯人は事件現場から遠く離れた王都で一日を過ごしていました。仁ちゃんはこの謎をどのように解き明かしたのでしょうか!」

「ええ、まだやるのかよ!」


 思わず仁は叫んだ。もう勘弁してほしい。


「『空飛ぶ殺人者』の話か? あれもなんだかとんでもない事件だったらしいな」

「聞きたい聞きたーい! 今度こそジン君の解説より先に解いてやるんだから!」


 バルデム兄妹はノリノリで続きを要求した。


「大丈夫よ、今度の話は私達が補足してあげるから」

「そうそう、俺達も捜査に参加したしな」


 そういうキャロルとジョンは、しかし話を止めてくれる気はまったくないらしい。


「すまないね、お客さんである君に負担をかけてしまって」


 ヴァレールはそう言って謝るが、本人も詳しい話を聞きたがっているのが伺える。

 ところが、そこですっとアーベル・ハーゲンドルフが立ち上がった。


「俺はそろそろ部屋に戻らせてもらうぞ。ほら、レジーヌ、一緒に部屋に戻ろう」

「ええ……すみません皆さん、お先に失礼させていただきます」


 そう言って二人は居間から出て行った。アーベルは見せつけるようにレジーヌの肩を抱いたが、マシューは特に気にする様子もなく仁の話を聞きたがった。


「妹からの手紙では大雑把な話しか聞いていないんです。一体どんな事件だったんですか?」


 仁はため息をついた。どうやらこの場に味方はいないようだ。


「あの、ジンさん……私もできるだけ補佐しますので、頑張りましょう」


 アリシアの優しさが身に染みた。

 時刻は10時を15分ほど過ぎたころだった。



 今度の話は思ったより短く終わり、11時になるころには事件の話を終えることができた。

 途中マシューとベラスコ・バルデムが一度ずつトイレに行くと言って席を外し、その度に事件の話が中座したので、時間的には40分弱で話し終えたことになる。


「むー、また解けなかった……ジン君の頭の中ってどうなってるの?」


 セリナは余程悔しいらしく、しきりに唸っている。


「まあ、それだけの頭の良さがなけりゃ、一般人でシーダー卿直属の『特別捜査局』捜査官は務まらないってことだろ」


 兄のベラスコはしきりに感心しながら妹の疑問にそう答えた。


「ジン君、楽しい話をありがとう。君のおかげで良い食後の歓談を過ごすことができたよ」


 ヴァレールは仁にそう話しかけた後、その場にいる全員に話しかけた。


「皆さん、ジン君の話で大分盛り上がりましたがもう11時です。そろそろお開きといたしましょう。それからニック、もう今日は開けないだろうから、魔道具展示室の鍵を閉めておいてくれ」

「了解しました、旦那様」


 一礼してニックが部屋を出るのを合図に、皆は三々五々立ち上がり、部屋を出て行った。

 客室は全て二階にあるので、二階から三階への階段でヴァレールとマシュー、そしてキャロルとは別れることになった。


「おやすみなさい、皆さん。ジン君、楽しい話をありがとう」

「おやすみなさい、また明日」

「おやすみ。明日の朝、寝坊するんじゃないわよ」


 三人はそれぞれに仁達にそう声を掛けると階段を上がっていった。


「それじゃおやすみ、また明日な」

「おやすみー」


 バルデム兄妹はそう言って仁達とは反対の方向に向かった。彼らの客室は使用人部屋の真上にあるらしい。ちなみに仁達の部屋は居間と食堂の真上で、仁とジョン、アリシアと桜で一部屋ずつである。

 ハーゲンドルフ商会の四人は一人一部屋で、仁達と同じ方に部屋があるようだった。


「うああ、疲れたあ」

「うん、お疲れ、よく頑張ったよお前」


 部屋に入るなりベッドに転がった仁を、ジョンは笑いながら労わる。

 仁はそんな彼を恨めし気に見上げる。


「そう思ったなら止めてくれ。せめて密室殺人が終わったところで」

「まあ、そうは言うけどな、あそこで終えてまたマシューさんとアーベルがぐだぐだやり合うのを見ることになったら気分が悪いしな。お前が話してる間はレジーヌさんもあまり話に入ってこなかったからちょうどいいと思ったんだよ」

「くそ、こき使いやがって……」


 そう言いながら仁はベッドでごろごろと転がる。そんな仁にジョンが尋ねた。


「俺が先に風呂に入るけど、いいか?」

「ああ、俺は少し頭冷やしてからにするよ」


 ジョンの問いに伸びをしながら仁はそう答える。


「んじゃ、お先に」


 そう言ってジョンは風呂に向かった。

 ジョン、仁の順番に風呂に入った後、しばらく雑談に興じていた彼らだが、その内、明日の朝のことを考えて二人ともベッドに潜り込んだ。


 ファルギエール家での最初の夜は、こうして更けていった。


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