第14話(最終話) 僕は地球誕生の秘密を知った
「あなたは
地球によって作られた
最初の人間なのです」
僕は
その言葉を
理解できなかった。
「待ってくれ」
暗闇の中で
僕は叫んだ。
「僕が地球を
作ったんじゃ
なかったのか?」
女性の声が
静かに答えた。
「あなたが
作った地球もあります」
「どういう意味だ」
「最初の地球を
作ったのは
あなたではありません」
僕は
息をのんだ。
「じゃあ
誰が作った?」
青い輪が
ゆっくり回転した。
その中心に
一つの映像が現れた。
そこには
巨大な研究施設があった。
透明な壁。
七本の光。
そして
無数の人影。
「これは……」
僕は
画面を見つめた。
「あなたが
故郷だと思っていた
世界です」
「思っていた?」
「はい」
映像の中で
人々が働いていた。
僕と同じ顔の男も
そこにいた。
「この人たちは
どこから来たんだ?」
女性は答えた。
「別の地球です」
僕は
言葉を失った。
「別の地球?」
「はい」
「その地球も
誰かが作ったのか?」
「そうです」
画面が切り替わった。
青い地球。
その中心に
七本の線。
さらに
その外側に
もう一つの地球。
そして
その外側にも。
地球が
何重にも重なっていた。
「これは
何なんだ……」
女性が答えた。
「生命を
継承する仕組みです」
「継承?」
「一つの地球が
終わりを迎えるとき
次の地球を
生み出すのです」
僕は
画面を見つめた。
「誰が?」
「その地球で
誕生した知性です」
僕は
息を止めた。
「つまり……」
「地球は
次の地球を
作れる存在を
育てるために
生まれました」
青い輪の中で
無数の地球が
連なっていく。
「最初の地球が
どこから来たのかは
誰にも分かりません」
女性は続けた。
「ですが
地球が一つ終わるたび
次の地球が
生まれてきました」
僕は
ようやく
理解し始めた。
「僕たちは
その途中に
いるのか」
「そうです」
「じゃあ
僕も……」
「あなたも
次の地球を
生み出すために
誕生しました」
僕は
さくらを見た。
彼女は
僕の手を握っていた。
「お兄ちゃん」
「何だ?」
「じゃあ
私も
そのために
生まれたの?」
僕は
答えられなかった。
だが
女性の声が響いた。
「いいえ」
僕たちは
同時に顔を上げた。
「あなたは
予定にない存在です」
さくらの手が
震えた。
「予定にない?」
「はい」
「あなたの存在は
本来の継承計画に
含まれていません」
僕は
さくらを抱き寄せた。
「それが
何だっていうんだ」
女性は続けた。
「あなたが
娘を失ったことで
計画は変更されました」
映像が切り替わった。
白い病室。
小さな少女。
そして
泣いている僕。
「あなたは
娘を取り戻すために
無数の地球を
生成しました」
「知ってる」
僕は答えた。
「でも
今のさくらは
生きている」
「はい」
「だったら
それでいいだろ」
女性は
少し沈黙した。
「その結果
地球の継承機構が
停止しています」
青い輪が
赤く染まった。
『全分岐世界
崩壊まで
残り七分』
僕は
拳を握った。
「どうすればいい」
女性は答えた。
「接続を
解除してください」
「さくらを
消すのか?」
「それが
最も確実な方法です」
僕は
首を振った。
「嫌だ」
「では
すべての地球が
失われます」
僕は
暗闇を見つめた。
江戸の町。
恐竜の森。
巨大な昆虫。
生まれたばかりの地球。
すべての世界で
僕は選択を迫られた。
誰か一人を
救うのか。
それとも
多くの命を
守るのか。
だが
僕は
もう一つの答えを
探し続けてきた。
「なあ」
僕は尋ねた。
「どうして
七本の線で
地球をつないでいる?」
女性は答えた。
「生命情報を
共有するためです」
「それだけか?」
「いいえ」
「ほかには?」
「地球同士の
エネルギーを
融通するためです」
僕は
目を閉じた。
さくらは
無数の地球から
エネルギーを受け取り
生きている。
だから
世界が不安定になる。
だったら。
「一つ聞く」
僕は言った。
「地球同士を
つながなければ
どうなる?」
「各世界は
独立します」
「さくらは?」
「生命維持が
不可能になります」
僕は
さらに尋ねた。
「さくら自身が
一つの世界に
なったら?」
長い沈黙があった。
青い輪が
一瞬止まった。
「質問の意味を
確認しています」
僕は続けた。
「地球を
新しく作るんじゃない」
「今ある
さくらの存在を
一つの独立した
世界として
成立させるんだ」
女性は
答えなかった。
「さくらは
無数の地球に
分散している」
「だったら
その情報を
一つに集めればいい」
青い輪が
激しく回転し始めた。
『計算中』
『計算中』
『計算中』
そして
新しい文字が現れた。
『理論上
実行可能』
僕は
息をのんだ。
「本当か!」
『ただし
必要なエネルギーが
不足しています』
「どれくらい?」
『第一観測者の
中枢接続を
すべて使用する
必要があります』
僕は
意味を理解した。
「つまり
僕が装置から
切り離されるのか」
『はい』
「そうなったら
僕はどうなる?」
『現在の意識は
維持できません』
さくらが
僕の手を握った。
「お兄ちゃん……」
僕は
彼女を見た。
「大丈夫だ」
だが
彼女は首を振った。
「また
いなくなるの?」
僕は
何も言えなかった。
そのとき
暗闇の奥から
声が聞こえた。
「待て」
振り向くと
一人の男が
立っていた。
右腕のない
もう一人の僕だった。
「お前……」
男は
静かに近づいてきた。
「やっと
答えを見つけたな」
僕は
男を見つめた。
「お前も
消えるのか?」
男は
うなずいた。
「僕たちは
同じ原本から
作られた存在だ」
「でも
お前は……」
「十三回
失敗した」
男は笑った。
「十四回目で
ようやく
ここまで来た」
僕は
息をのんだ。
「十四回目……」
「そうだ」
男は
さくらを見た。
「今回は
あの子が
自分の意思で
生きたいと願った」
「それが
違いだったのか?」
男はうなずいた。
「今までの僕たちは
娘を救うことばかり
考えていた」
「でも今回は
さくら自身が
どう生きたいかを
聞いたんだ」
僕は
さくらを見た。
彼女は
涙を流していた。
「お兄ちゃん」
「何だ?」
「私
生きたい」
僕は
うなずいた。
「うん」
「でも
お兄ちゃんにも
生きてほしい」
その言葉に
胸が熱くなった。
僕は
もう一人の自分を見た。
「お前なら
どうする?」
男は
少し考えた。
そして
笑った。
「僕なら
もう一度
別の方法を探す」
僕は
思わず笑った。
「同じだな」
そのとき
スマートフォンが
震えた。
『全分岐世界
崩壊まで
残り三分』
時間がない。
僕は
青い輪を見た。
「原本は
塔に残っているんだろ」
『はい』
「だったら
僕の意識だけを
切り離せばいい」
女性が答えた。
「それでは
必要なエネルギーが
不足します」
僕は
右腕のない男を見た。
男も
僕を見ていた。
そして
同時に気づいた。
「複製体が
二人いる」
男が
静かに笑った。
「二人分の
中枢接続を
使えるか?」
青い輪が
再び回転した。
『計算中』
『必要条件を
確認しました』
『実行可能』
僕は
息をのんだ。
「ただし」
女性が続けた。
「二人の意識は
統合されます」
「統合?」
「原本へ戻るのです」
僕は
男を見た。
男は
静かにうなずいた。
「それでいい」
「でも
僕たちは
消えるんじゃないのか?」
「消えるんじゃない」
男は答えた。
「思い出になるんだ」
僕は
さくらを見た。
彼女は
小さく首を振った。
「嫌だよ……」
僕は
彼女の前に
しゃがみ込んだ。
「さくら」
「うん」
「君は
誰かの記憶じゃない」
彼女の目から
涙がこぼれた。
「君が笑ったことも
泣いたことも
怖がったことも
全部
君自身のものだ」
僕は
彼女の手を握った。
「だから
これからも
自分の人生を
生きてほしい」
さくらは
僕に抱きついた。
「お兄ちゃん……」
僕は
強く抱きしめた。
そのとき
青い輪が
まぶしく光った。
『統合処理を開始』
僕の体が
少しずつ
透明になっていく。
隣の男も
同じだった。
僕は
最後に
さくらの顔を見た。
「また会おう」
彼女は
涙を拭った。
「約束だよ」
僕は
うなずいた。
そして
すべてが
光に包まれた。
*
目を覚ますと
僕は
白い部屋にいた。
窓の外には
青い空が広がっている。
遠くから
鳥の声が聞こえた。
僕は
ゆっくり起き上がった。
手を見る。
五本の指がある。
右腕も
左腕もある。
「ここは……」
そのとき
扉が開いた。
一人の少女が
入ってきた。
「お父さん!」
僕は
息をのんだ。
さくらだった。
彼女は
僕に駆け寄り
抱きついた。
「おかえり!」
僕は
彼女を抱きしめた。
「ただいま」
その言葉が
自然に出た。
僕は
周囲を見回した。
普通の部屋。
普通の窓。
普通の空。
スマートフォンが
机の上に置かれていた。
画面には
文字が表示されていた。
『全分岐世界
接続解除完了』
『各世界の
独立を確認』
『原初生命装置
正常稼働』
僕は
静かに息を吐いた。
「終わったんだな」
さくらが
僕を見上げた。
「うん」
「ここは
どこの地球?」
彼女は
窓の外を指さした。
「私たちの地球だよ」
僕は
青い空を見つめた。
地球は
誰かのためだけに
作られたものではない。
誰かが
次の命へ
可能性を渡すために
生まれてきた。
そして
どんな世界で
生まれた命にも
生きる意味がある。
僕は
ようやく
そのことを理解した。
さくらが
僕の手を引いた。
「お父さん」
「何だ?」
「外に行こう!」
僕は
笑ってうなずいた。
「そうだな」
僕たちは
扉を開けた。
その先には
新しい世界が
広がっていた。
*
その夜。
さくらが眠ったあと
僕は
スマートフォンを開いた。
画面には
見覚えのない
通知が届いていた。
『第七次元
観測記録更新』
『地球生成計画
第一段階完了』
僕は
眉をひそめた。
「第一段階?」
画面に
新しい文字が現れた。
『第二段階
開始準備中』
『次の生成対象』
僕は
息を止めた。
そこには
信じられない
言葉が表示されていた。
『宇宙』
そして
最後に
一文が現れた。
『次に目を覚ますとき
あなたは
宇宙が誕生する前に
います』
僕は
静かに画面を閉じた。
窓の外には
無数の星が
輝いていた。
その星々が
本当に存在しているのか。
それとも
誰かが作った
次の世界なのか。
今の僕には
まだ分からない。
ただ一つ
確かなことがある。
僕たちの旅は
まだ終わっていない。
そして
次に目を覚ましたとき
僕はきっと
また新しい
世界の秘密を
知ることになる。
(完)




