第1話 ふたたび、異世界へ
『聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!』の続編、第二章【白銀の迷宮編】になります。第一章に比べてゆっくり更新になりますが、このさき始まる旅にもお付き合いいただけると嬉しいです。二人の恋もはたして進展していくのか、そちらも一緒に楽しんでもらえたらと思います(*^^*)
ピチ、ピチチ、、、ピチ、チチチ、、、、
どこかで可愛らしい小鳥の鳴き声がする。きっと、ひばりが空を飛んでいるんだ。
美月はうっすらと目を開ける。途端、瞼の隙間から差し込む眩しい光。白く眩しいけれど、あたたかくてやさしい。
右手で日差しを遮る。
「ん……」
視界に飛び込んできたのは、隅々までいっぱいに広がった青い空。どこまでも高く透き通るように青く澄んでいる。その広い空の中を、ふわりふわりと白い雲がふたつ。
ふわん、ふわん、ふわん……
わぁ~、ふわふわの羊っぽいっ。かわいい!ふふっ……
花園美月、二十歳。現在、フリーターで一人暮らし。アニメ、漫画、乙女ゲーム好き。最推しキャラは、大好きな乙女ゲームアプリに出てくる金髪碧眼の騎士様だ。
趣味は読書で、ネット小説にも日々お世話になっており、自らも書いて楽しんでいる。人見知りで、自分のキラキラネームがコンプレックス。日頃当たり障りのない普通の二十代女性を装ってはいるものの、時々オタクで腐女子の顔が見え隠れする。……彼女は、隠れオタクだ。
のどかで、気持ちいぃ~……
小学生の頃、運動会の練習思い出すよね。運動場の土の上にこうして寝転がって、青い空を見上げていたっけ。あれは、高学年の組体操の練習だったなぁ……。
そんなことを思いながら、ぼんやりと長閑な青い空を、私は見上げていた。
ふと、首を傾げる。
……ん?
……あれ?
えっと……、ま、待って!?
このくだり……
以前にも、あったよねっ!?
そして、ようやく気がついたのだけど、自分の二本の腕とは別に、自分のお腹に回された、もう一本の腕がある。
腕が三本あるっ!?って、そんなわけ、ないし……
恐る恐る触ってみる。がっしりとした筋肉質の男の腕。
当たり前だけど、これって、私のじゃない!!
……ま、まさかっ!
過去にも、まったく同じシチュエーションありましたよねっ!?
……そう、前回もこの世界に来たとき。
私は青ざめて、喉がヒュッとなる。
ようやく今、私の上のある空は、私の住んでいた世界の空ではなく、もう一つの異世界『イグドラシル』の空だということに思いあたった。
「やっとお目覚めかな?」
吐息とともに耳元に響く甘い低音ボイス。
この声はっ!!
レイファス・アエラス・ランドルフ。アルカンシエル国の近衛騎士団長で次期国王の片腕と言われており、十九歳にして大貴族ランドルフ家の当主。冬の湖のようにクールで静かなコバルトブルーの瞳にさらさらの銀髪。ものすごいイケメン男子だ。
完全に目が覚めましたぁ!!!
そうだ!!私が『ふくろう古書店』に居たら、今回もまた穴に落ちて、こちらの世界へ再び召喚されたんだ!
また私は顔面偏差値高スペックな彼を、私の下敷きに敷いてしまったのですねっ!?
一度ならず二度までも、すみませんっ!
理解した瞬間、背中に感じる筋肉質な胸筋。
ボッと顔から火が出るような気がした。
「きゃあぁぁぁぁ!ごめんなさいっ!すみませんっ!今、退きますからっ!!いたっ!!!」
私は起き上がろうとして、強く彼に引き戻された。
起き上がろうとして、髪の毛が彼の隊服のボタンに引っかかり、強く引っ張られたのだ。
正確には、彼ではなく、彼の服のボタンに、です。
「わあぁぁぁぁ!ご、ごめんなさいっ!どうしようっ!」
「ああ、動かないで。髪の毛が……」
「お、重たいよね!やだ、解けない!」
「いや、だから、動かな……」
「わあぁぁぁぁ!もう切っちゃってぇ~!大丈夫だからぁ、ひえぇ~!」
背中とお尻に彼の鍛えられた身体がピッタリと重なって、完全に後ろから抱きしめられるような格好で全身に彼を感じて、あまりの恥ずかしさに私は大パニックを起こし、彼の身体の上でジタバタしてしまった。
「だから、動くなって!!!」
瞬間、彼がものすごい力で私をぎゅうっと抱きしめた。後ろから羽交い締めにされて、私は身動き一つ出来ない。
どどどどど、どういう状態っ!?
「あまり動くと擦れるから……」
小さな恥ずかしそうな声。
え?擦れ…………
あ……
お尻の下にあたるこの硬い感触。
耳元に熱い吐息混じりに小さく言われて、私はすべてを理解した。
つまり、いま、私のお尻の下に、レイの大切な、彼自身が、あるってことで……
ひえぇぇぇぇ~!!!
完全に私の顔は、瞬間沸騰した。
「…………はい」
あまりの恥ずかしさに消え入りそうな小さな声で了解する。
……ああ、
消し炭になりたい……
お尻よ、意識するんじゃない……
彼は、はぁ~、と熱い吐息を漏らすと、私の身体を少しずらして、左脚を立てた。
おかげで彼の脚と腕と体全身で背後から抱え込まれるような形になった。
私はなるべく刺激しないように、借りてきた猫以上に、呼吸すら意識して、身動き一つしないことに専念した。彼にすべてを委ね預けるけれど、されるがままっていうのも、ドキドキしてたまらない。このバクバクしてる胸の音、彼にバレないかな。下腹がムズムズする。
……み、耳が死ぬほど熱い。
レイは、私を強く抱きしめたまま髪に顔を埋める。
シャンプーの匂い、まだ残ってるかな。
絶対いま、私の耳は真っ赤だよね。
うなじに彼の熱と吐息を感じて、唾を飲み込むのもままならない。
……だ、だめぇぇぇ。
どのくらいそうしていたのだろう。頭を少しずらすようにされると、
「俺がいいと言うまで、動かないで」
そう彼に言われので、私は小さくコクリと頷いた。
―ブチッ
何か引き千切る音がして、身体を起こされた。
「あ、ボタン……」
「ああ、このほうが早いし、髪を切らないで済む」
彼の長い指が制服の金色ボタンを一つ掴み、そのボタンがついていたであろう場所は捲れて、何気に色っぽく見せていた。レイは何でもなかったかのように、ポケットにボタンをしまうとサッと立ち上がる。
彼は、うまく鎮火されたのかな……
私はまだ身体の中が火照ってくすぶってるのに……
なんでだろう、ちょっと寂しいって思ってる自分がいる。
「時間がない。行こう」
彼の差し出した手に、私は手を添えると立ち上がる。
そうして、私の二度目の異世界の物語が幕を開けた。




