表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/38

閑話1 9年前

 ラグビーボールの様な形をしたマグノム陸軍空戦艦、”ジョン4世”は今夜も一切の問題なく航行していた。

 岩山をかき分ける様にしながら、空中を前進している。


 ”ジョン4世”は、王の名を冠しているだけあって巨大である。空戦艦にしては最大級の全長150m、グランデ級を誇っているのだ。


 もうじき、マグノムとアルバロス王国間で五次戦争が勃発してより半年が経つ。”ジョン4世”がいる北部戦線の西部は、完全に膠着状態にあった。


 この哨戒任務も、もう何度目か分からない。


 だが今夜は割とスリリングだ。なんといっても敵を見つけた。

 ”ジョン4世”は1個中隊相当の敵戦力を発見し、現在それを追跡している。


「ふん。逃げたとて無駄だ。”ジョン4世”の推力からは逃げられん」


 艦長は艦橋にて、双眼鏡でサーチライトに照らされた地面を覗き込みながら、そう呟いた。


 その瞬間、左前方で紅い光が炸裂した。


「なんだ!?」


 急いでそちらの方へと駆け寄る艦長。


 夜風が吹き荒れる中、隊列を組んでいた中型艦が炎上していた。


「ほ、報告、報告ッ!!!」


 背後から伝令兵の声が聞こえる。


「巡空艦ザレムから伝令!”弊艦攻撃サレル。右舷大破ニテ、航続不可”」


 巡空艦ザレムより、白光が夜空に咆えた。

 確かに攻撃されている。


「”貴艦ノ武運ヲ祈ル。敵ハ”……」


 そこで伝令兵の声が止まった。

 何事かと振り返る艦長。


「”敵ハ”」


 声が震えている。


「”敵ハ、男タダ1人”!!!」



       ◇



 アルバロス王国の北部戦線前哨基地で、土塗れな男たちの集団が咆えていた。


「だから、言ってるでしょう!援軍を、早く援軍を送って下さい!」


 男たちに囲まれた壮年の指揮官は、肩をすくませた。


「たった1人の男のために、かね?それも相手は空挺艦隊だろう?そんなリスクは負えんよ」


 男たちの先頭に立つニコラス・シュヴァルツシルトは、汗を滴らせながら叫んだ。


「ただの1人じゃない、祖国の英雄ですよ!ジョフル・ヴィエール。獲得戦果は500以上。ただ1人兵士を喪うのと訳が違う!」


 司令官は叫びを意に介せずため息を吐いた。


「君たちが空挺艦隊に発見され、彼が殿となって艦隊を引き留め始めてから既に1時間近く経っている。もう死んでいるんじゃないかね?」


 ニコラスは力強く首を振った。


「死んでない!死んでないです!だって、だって」


 涙が込み上げた。


「あの人は最強なんだ」


 その時、背後のドックで大きな音がした。

 師団が所有する空挺が、ドックの外へ向けてゆっくりと前進している。


「何をしている、戻れッ!」


 司令官がそう叫んでも、空戦艦が止まる気配はない。

 それどころか、他の空挺も次々と動き始めた。


「司令官殿。もうあなたの許可など必要ない。我々は行きます。我々の英雄を助けに……」


 ニコラスの目には強い意志が宿っている。


「空挺の不許可の利用は、軍規違反だ!」


 司令官はニコラスを指差して非難した。


「それで構いません」


 土塗れの青年は踵を返して、空挺の方へと歩いて行った。



       ◇



 797


 798


 799


 800


 ジョフルは杖を振りながら、自分がこれまで焼き殺した人数を数えていた。


 その目にはクマが宿り、精神衰弱の跡は皺としても刻まれている。


 空戦艦の艦内は狭い。数多くの人間がいようとも、問題なく1人ずつ殺せる。


「化け物」


 誰かがそう呟いた。しかしその声の主もすぐに、杖から発せられた光で塵となった。


「801」


 声は、ため息に似ていた。


 背後から銃声が聞こえた。防御結界で防ぎ、すぐに白光で相手を消し飛ばす。


「802」


 近くの人間は殺し尽くしただろうか。全部は殺せないな。

 

 全身返り血塗れで、身動きが取りづらい。

 狭い廊下も深紅で染まっていた。

 死体が折り重なる様にして床を占領し、異臭を放っている。


 機関室、と表札に書かれた部屋に入る。そこでは魔導エンジンが盛んに活動して爆音を轟かせていた。


 杖を振る。

 白光が、エンジンを貫いた。


 船が、沈みゆく感覚がする。


 これで何人死ぬ?俺が生き残る為だけに……


 壁を白光で打ち破り、外へ出た。


 魔術で宙を飛ぶ。

 夜風が吹き荒れている。

 星は見えない。夜であるのに、曇っている事がよく分かった。


「あと、2艦」


 ジョフルはゆっくりと、杖を眼前の巨大な空挺へ向けた。


 背後から光を当てられる。

 なんだ。敵の援軍か?


 その瞬間、ジョフルは意識を失った。



       ◇



 クリスタは目を覚ました。


 汽車の振動が、ベッド越しに感じられる。

 車窓の外はまだ暗い。寝つきが悪かった様だ。


 一体何度聞かされたか分からない、兄のジョフルの武勇伝。


 兄はジョフルに助けられ、そして兄がジョフルを助ける物語。

 幼い頃から憧れをこめて聞いていたものだ。


 ジョフルと会うのは本当に久しぶりだ。

 彼は変わらない。ずっと”英雄”のまま。


 それならわたしは、憧れの彼に少しでも近づけているだろうか……


 そんな事を考えながら、クリスタは再び瞼を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ