野菜は牙を剥くのか?
「ほら、着いたぞ。ハーリアの街だぞ」
夜行馬車で二時間ぐらい揺られていると、シャドラゴラを売ってくれた御者が到着したと仮眠を取っていたアメジス達を起こす。
「よし、ここを僕達の中継地点にしよう。ここを中心にマンゾアスの密林とクリムゾングルの調査をしよう」
ハーリアはステッパーの街と何ら変哲もない簡素な街並みだが、冒険者のための宿舎や装備などを買い揃える場所があり調査の拠点としても申し分ないだろう。
「マンゾアスの密林は知ってるけど、クリムゾングルはどんなとこなの?」
「クリムゾングルには人を平気で襲う植物や攻撃的な植物モンスターが徘徊していて、そこのヒエラルキーの頂点に君臨しているんだ」
本来ならば獣やモンスターに食べられることの多い植物だが、クリムゾングルではただの植物が逆に獣やモンスターはもちろん人間すら捕食してしまい、その上で動いたり明確な攻撃的な意思のある植物モンスターが徘徊していて、植物がそこのダンジョンの生態系頂点に君臨すると言う有様なのだ。
以前行ったことのあるマンゾアスの密林も鬱蒼としていて植物が多かったが、クリムゾングルの方もかなりの癖者のようだ。
「おいおい、そんなとこに夜の内から入る気か?」
ニナを助けるためとは言え夜行馬車まで使ってここまで来たが、そんな前人未到のジャングルに視界の利かない闇夜の中で突入するなんて『命綱なしでロッククライミング』をするぐらい危険だろう。
「ニナが食べられるかもしれないんだ。それにクリムゾングルの場合はディアバトロスごと食べられる可能性だってある」
確かに危険は伴うがニナも同じぐらい危険な状態に立たされているのは間違いなかった。
「レイラ達にはいざと言う時はミエナのファントムハートがあるし、こっちはスザクとステラの力もあるから大丈夫だよ」
事前にチーム分けしていたが、レイラ達には緊急回避要員としてミエナを配置し、情報が少ないクリムゾングルには不死身のスザクと熱感知が出来るステラを配置しているためバランスは悪くないはずだ。
「僕らの目的はあくまでもニナの救出だ。それに今はエレメントも不安定だから戦闘の際は注意してね」
要約すれば救出を重きに置いて戦闘は二の次だとメイナスは念押しするのだった。
「そう言えばスザクちゃんはもう恥ずかしくない?」
「ああ、なんか身体がポワポワ温かくて気持ち良かったけどな」
思い出したようにアメジスが聞くと、スザクはようやくハズカシ草と催眠術の効果が切れていつもの調子に戻っていた。
「それじゃあ今から出発するか?」
「待つのじゃ、ひょっとすると街の者達が何か見ているかもしれん。それを聞いてからでも遅くはなかろう」
「けど、今はもう夜も遅いよ。起こす訳にはいかないんじゃ…」
情報収集をすれば無駄を省けるかと思っていたが、今は真夜中であるため時間帯としては草木も眠る丑三つ時であるため、人助けとは言え熟睡しているのに起こすのはあんまりかと思っていると次第に寝言やいびきとは思えない物音がしてくる。
「なんか騒がしいぞ」
「泥棒でも出たのかな」
静かにしていようと思っていたのに別の誰かが騒ぎを起こしたことに怪訝になっていると次第に悲鳴や騒音が聞こえてくる。
「これは…山賊でも襲って来たのかな」
「あたしらには関係ねぇだろ。ニナを助けに行くんだろ」
騒ぎが大きくなっていく辺り単なる泥棒ではなく、山賊の類でも来たのかと考えるもステラはドライな反応を示す。
「けど、このままにして誰かが不幸になるのは嫌だよ!」
「そうだね、後悔はしたくないよ」
教会でリラから愛情をたっぷり注がれて育ったからこそアメジスとメイナスは困っている人は放っておけないと助けに行くことを決意していた。
「はあ…さっさと倒してダンジョンに行くぞ!」
「それしかないのう」
「だね、ステラちゃん」
「…わーったよ」
同じように育てられたレイラだがそんな二人を引き止める役割を持つもののやはり放って置けないらしく、それにユウキュウやミエナも同意しステラも渋々了承するのだった。
「ここが騒ぎの原因?」
「どうやらこの街の農場のようだね」
騒ぎを辿ってみるとそこは様々な農作物を育てる畑が広がる農場のようだった。
「にしては随分荒れてるな。凶作か?」
「エレメントが不安定じゃからのう」
耕されたとは思えないぐらいに土はめちゃくちゃになっており、農機具や案山子なども手酷く壊れていて、今はエレメントが不安定なため農作物や田畑の土にも悪影響が出て凶作なのかと首を傾げる。
「最近荒らされたようだね。野菜泥棒かな」
しかし畑の畝は荒らされていて、野菜の葉や根があちこちに散らばっていて何かに踏み荒らされた形跡があり強奪されたようにも見えた。
「いや、泥棒ではないようじゃ。見ろ」
しかしユウキュウは他の誰よりも何が起きたか周知したらしく、騒ぎの原因となる街の広場を指差すのだった。
「おい、あれって…あれだよな」
「どう見てもあれだよね」
あれ、あれと言ってしまうが相手がモンスターとかそれこそ野菜泥棒とかならこんな反応はしないが、ユウキュウが目撃した物を見て我が目を疑ったからだ。
「あれって…野菜だよな?」
広場で暴れていたのはキャベツやナスやトウモロコシなど教会でもよく食べ、よく知っている野菜だったのだ。
『『『ギシャアアア!』』』
「でも野菜って目玉とか歯とかないよな?」
「吠えたりうごいたりもしないよ」
ただ、その野菜が暴れてる時点でおかしいのだが、その野菜には生物特有の目玉や牙を持っていて、しかも獣のように吠えながら根っこや蔓で出来た触手を激しく動かして暴れていたのだ。
「野菜って実はモンスターなのか?」
植物モンスターがいるのだから野菜のモンスターもいるのかとスザクは疑問に思う。
「いや、僕らが口にする野菜はモンスターじゃないよ。でもこれを見るに明らかに異常事態だね」
人間はこれまで植物を改良して美味しい野菜を栽培出来るようになったのだ。ましてや動いて人を襲うことがあって良いはずがないだろう。
「これもエレメントが不安定になったせい?」
シンフォニーフォレストでの自然のエレメントを扱うルアーネに不調をきたしたために、植物である野菜にもこのような異変が起きたのではとアメジスは予測する。
「いや、イカのモンスターが作り出した食べ物アンデッドみたいな奴らじゃないのか」
しかしレイラは野菜がモンスターのようになっていることから、コバルトラビリンスでイタマエンペラが生み出したアンデッフードの仲間ではないかと異を唱える。
「いずれにしても倒さないと村の人達が危険だ」
「じゃあ、戦うしかないな」
あの野菜達が何者かは分からないが、倒すべき相手と言うのは間違いなかった。
「こっちだよ!」
『ギシャア!』
キャベツ型の野菜モンスターにメイナスはスリンガーによる石の投擲で挑発する。案の定モンスターは怒って触手を足のように動かしメイナスに近付いていく。
「プッシュドン!」
『ギャア!?』
しかし近寄って来たところで右側に隠れていたアメジスがサイマジックでキャベツモンスターを向かい側の建物の壁に叩きつけるように吹き飛ばしてグシャリと潰れる。
「やっぱりサイマジックは問題なく使えるんだ」
「エレメントとは関係ないからね」
改めて説明するがサイマジックとはある程度の事象や現象を念じると同時にマナミナを消費することで発動出来る魔法とも超能力とも言える力だ。
自然の力であるエレメントとは無関係であるため無属性魔法とも呼ばれることがあり、今回ばかりはエレメントに取って代わられることがあるサイマジックだが今回ばかりは活躍しそうだった。
『キョオオオ!』
「何じゃ、今度はナスか。儂を食う気か」
こちらはナス型であり実が二つに裂け、そこから牙が並んだ口を見せてユウキュウを捕食しようとワニのように飛び掛かる。
「儂の肉は高く付くぞ。簡単には食わせん」
『ギュエ…!?』
モンスターの蔓を小刀で適当な長さに切り、それを使って口を縛るように巻き付ける。
「派手に吹き飛ばして焼きナスにしてやりたいが…これぐらいしか出来んのう」
「いや、充分スゴいと思うよ」
いつもは爆弾を使って相手を倒すイメージが強いユウキュウだが、スキルやサイマジックなどを使わずに手近な物や実力で相手を無力化したことにミエナは称賛していた。
「ぎゃあああ!?何だこいつはぁ!?」
戦っていたはずのレイラが鼻水と涙を流しながら相手に圧倒されていた。彼女も例外なく野菜モンスターと戦っているのだが…
「ちくしょう!玉ねぎかよ!」
戦っていた相手は玉ねぎ型だった。玉ねぎと言えば切る時に催涙物質が出て目にしみるイメージがあるのだが、モンスター化してもそれは変わらないらしく戦っていたレイラも涙と鼻水が止まらなくなったようだ。
『ギシャア!』
「うわ、この匂い…ピーマン?」
口から緑色の液体が吐き出したかと思えばピーマン特有の苦味を含んだ匂いが充満しステラも顔をしかめる。
「子供に野菜の好き嫌いをしちゃダメってよく聞くけど…これじゃ益々野菜が嫌いになりそうだよ」
「まるっきり悪夢みたいな光景だもんね」
小さな子供は大抵野菜を嫌がるがモンスターになって襲い掛かる光景は大人でも嫌気が差すだろう。
「もしかして残された野菜の祟りかのう」
「否定出来ないけど、それなら全部残さず食べちゃえば良いんじゃない?」
ユウキュウの半分冗談めいた言葉にミエナも乗っかってか身も蓋も無い返答をする。
「じゃあ、食べれるのか?人を食べるような野菜を?」
「食えるかっての!人が野菜を食うのに、野菜が食うってどんなあべこべだよ!」
結論からして食べると言うのもありなのだろうが、基本的に野菜は身体に良いはずなのにモンスター化した野菜は逆に何だか身体に悪そうだった。
『…!ギシャアアア!』
「あれ、あのキャベツのモンスターはさっき潰したはずなのに…」
するの先程倒したはずのキャベツモンスターが葉が集まって、ある程度元通りになって動き出し倒した本人であるアメジスも目を丸くする。
「何か特殊な力が働いているのかも…また錬金術か或いは死霊魔術か…」
「けっ、普通に倒してもどうにもならない訳か」
確かに野菜がモンスターになった時点で普通ではなかったが、どう見ても何かしらの特殊な力が作用しているのは間違いなく、どう攻略すればいいか検討もつかなかった。
「手っ取り早く燃やせば簡単なんだけど今はエレメントは…それにスザクちゃんだって」
燃やせば簡単に灰に出来るのだろうが炎のエレメントやスザクの力だって例外なく使用不能になっているはずだ。
「いや、スザクなら出来るはずだよ。フェニックスは火の鳥とも言われ、海と同じようにエレメントを象徴する存在だからね」
「そう言えばステンドグラスが刺さった時も」
海は水の象徴であるためコバルトラビリンスなどでは問題なかったが、フェニックスもまた炎を象徴する幻獣であるためスザクだけなら影響はないとメイナスが口にする。
「うん?ところでスザクは何処じゃ?」
「ひゃあああ〜…」
ふと側にスザクがいないことに気が付き辺りを見回していると聞き覚えのある甘い声が聞こえてくる。
「くうっ…この蔓トゲトゲしてて…あたしの身体に刺さってくるぅ…♡」
既にスザクは蔓の触手に捕まり四肢を大の字状にされて吊るされ、それだけでは飽き足らず服や下着の中に入り込んでは所々に生えているトゲが服の下の無防備な柔らかな身体に刺さり食い込んでは甘い声を絞り出させていた。
「好都合だ。これでスザクが炎を出してくれれば」
今更ながら一見すると仲間を奪われた上にダメージを与えられてピンチに見えるかもしれないが、スザク達からすればピンチどころか絶好のチャンスだった。
「後は一網打尽に出来れば…」
「攻撃をスザクちゃんに集中させれば良いのね!」
後は複数いるモンスターを一気に燃やすには一箇所――特にスザクを中心に集める必要があった。やることが分かってミエナとメイナスは動き出す。
「喰らえ!」
「やーい!やーい!」
二人はスザクを背後に立ち回り、メイナスはスリンガーで興奮剤を発射し、ミエナはスキル『挑発』で刺激してモンスターの動線がスザクに向くようにしていた。
『『『ギシャアアア!』』』
目論見通りモンスター達はスザクがいる方に向き直り、ミエナはゴッドプレシャスで身体を透明化しメイナスは薬品で煙幕を起こして目眩ましをしてその場を脱する。
『ギエエエエ!』
「うああああ…ネバネバしてるぅ…♡」
「ひゃあ…刺激的かも…♡」
モンスターの中にはオクラや山芋などネバネバした野菜もあったのかスザクに粘液を浴びせ、身体中から粘糸が伸びて引いており色っぽくなっていてアメジスも興奮して鼻血を出してしまう。
『ギシャアアア!』
「あああああぁぁぁ♡刺激…強過ぎいいいぃぃ♡」
今度はトウガラシ型のモンスターが真っ赤な汁をトゲで傷ついたスザクの身体に浴びせると、フェニックスなのに全身が焼けるような激痛が走る。
「トゲトゲで傷つけられた上にぃ…ネバネバしてて…おまけにこんなものすごいのをぉ…ああああぁぁぁ…♡気持ち良いいいぃぃよおおぉぉぉ♡」
常人には耐えがたい苦痛になるだろうがスザクには全て耐えがたい快感となり、絶頂と共に炎が一気に溢れ出て集まっていた野菜モンスター達はスザクと共に炎に包み込まれるのだった。
「はあ…はあ…気持ち良かったぁ…♡」
野菜モンスターも辺りも黒焦げになってしまうも、スザクだけは快感の余韻からか蕩けた顔で生まれたままの姿をビクンビクンとさせていた。
「どうやら上手くいったようだね」
「今更だけどスザクの戦い方って一発逆転みたいな感じだよな」
目論見通りモンスターをスザクの炎で一網打尽にして何とか倒すことに成功するのだった。さすがに灰になってしまっては野菜モンスターも二度と立ち上がれないようだ。
「けど、何で野菜がモンスターになったんだろう」
「はあ…はあ…ん、何だこれは…」
快感でまだ身も心も熱々な状態のスザクに肩を貸すアメジスが首を傾げていると、スザクは灰となった野菜モンスターの中に焼け残ったキノコのような物を拾い上げる。
「……」
「あ、この村の子かな。ケガはなかった?」
ホッとしているとエプロンドレスを着用したショートヘアの十歳の女の子がいるのに気が付き、被害者かと思いミエナはケガがないかと目線を合わせて語り掛ける。
「ううっ…うわ〜ん!?」
「ええっ!ケガしてるの!?メイナスさん!」
見たところ外傷はないため安心させるために語り掛けたのだが、その子は突然泣き喚くために本当にケガしたのかと思いメイナスに治療して貰おうと呼び掛ける。
「何処か痛いのかい?」
「痛い…?心が痛いの!」
容態を確認しようとするが少なくとも肉体的に傷を負ったと言う訳ではないことに唖然となるメイナス。
「私が育てた野菜!どうして灰にしちゃったのよ〜!?」
「ええっ!?この野菜って君が育てたの!?」
なんと先程の野菜モンスター…と言うよりもモンスター化する前の野菜を丹精込めて育ててきたのに、村を救うためとは言え灰にされてしまったことが悲しくて泣いていたのだ。




