王宮文官
”カラン…”
「いらっしゃいませ」
今日もまた軽快なベルの音と共にお客様が来店された。
綺麗に整えられた少し長めのショートヘア。
切れ長の目を強調するような銀縁の眼鏡。
少し低めの身長に華奢な体を隠すように纏ったシンプルだが上品なローブ。
ローブの隙間から覗く服もシワ一つ無くこのお客様の性格を表わしているようだ。
慣れた手つきで入店した彼はさっと棚を一瞥するとそのままカウンターの方までやって来た。
「店主、いつもの栄養ドリンクを10本頼む。」
彼が頼むのは決まって栄養ドリンクだ。
たまにペンやインクを買っていくこともあるけどほとんどの場合はこの栄養ドリンクを大量に買って行く。
あまり日持ちしない物にも関わらず毎回この本数を買って行くのだからまともな食生活が出来ているとは思えない。
その証拠に眼鏡に隠れた彼の目の下には隈が見てとれる。
僕もよくお節介だとか世話焼きだとか言われるからついつい余計な口を出したくなるけどここはグッとこらえる。
何故かって?そんなの決まっているじゃないか。
彼の称号には「苦労性」「鈍感」の文字。
苦労性についてはまぁ真面目で神経質そうな彼はそういうタイプなんだろうと思う。
大事なのは「鈍感」の方。
みなさんは「鈍感」の言葉の意味をご存知だろうか。
感じ方が鈍いこと。気がきかないこと。
つまりは周りからどう思われているか等についての感性が著しく鈍いということだ。
これは僕の推測であり願望でもあるが、きっと彼の身近な所に世話焼きで彼の生活から仕事、メンタルケアまでまるっと面倒を見てくれる人がいるはずなのだ。
男性か女性か年上か年下か同年代か。それは分からないがどのパターンだったとしても良い。非常に良い。
無理をして倒れた彼を甲斐甲斐しくお世話する人の姿が目に浮かぶようだ。…おっと、少し不謹慎だったね。
まぁそんな訳で僕が不用意に彼に忠告する訳には行かないのだ。
それは僕の役目ではないからね。
僕はあくまでただの店員。
彼の物語をちょこっと覗き見させてもらってひっそり楽しむ。
そんな立ち位置でありたいのだ。




