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第一二話 初入港(航路・航海、バナール球)

前話は、第一一話 初到着(航路・航海)です。

「ほい二二三〇(フタフタサンマル)到着っと。ふー忙しかったぜ、ちょっと小休止だ」

「船長お疲れ。新人二人とも、見学できたか?」

「はい」


 船長の到着の宣言のあと、ソフィの声がかかり、グーンとエリスの新人二人は返事をした。

 とはいえエリスには到着の実感が湧かないらしく、どこか薄ぼんやりとした表情でいた。そこにソフィの声がかかった。


「湾口、つまり現場小惑星の港湾周辺二十キロ以内の軌道ってのは、到着とみなされるんだよ」

「そうなんですか、地表に着陸して初めて到着って思ってました」

「普通の人にとっちゃその認識だけどね」


 船から見る小惑星は、直径五百メートルほどのつるりとした球状小惑星だった。地表には緯線・経線のような模様がうっすら細かく刻み込まれていた。

 北極と南極からは冗談のようにポールが生えていて、そこに大きな鏡が付いていた。


「これがバナール球タイプのスペースコロニーッスか、初めて見るッス」

「正確にはコロニーじゃなくて鉱山炉、だけどな」


 グーンの独り言に、サルバが訂正を入れた。


「私も初めて見るけど、なんか違和感がすごいです」

「クレーターがないからね、自然な感じがしないのさ」


 そしてエリスまでも独り言を言い、ソフィに解説されていた。

 そして船長が威厳をもって号令をかけた。


「よーし新人、キャビン(乗務員室)の荷物を移動始め」

「了解ッスけど、どこにッスか?」


 即座にグーンに質問を返された船長は、頭を掻こうとしてヘルメットに阻まれた。


「あーそっか、イチから教えなきゃ……サルバ、頼んだ」

「まーたそうやって面倒を丸投げするぅ」


 そしてソフィに文句を言われた。威厳もへったくれもない。

 ソフィからの指示が飛んだ。


「じゃあサルバ、新人二人に扉の付け替えと荷物の位置を教えてやってくんな」

「了解、姐さん」

「エリスはもう就寝時間だから、見学だけして作業自体は二人に任せるんだよ」

「了解です」


「んじゃ新人集合。まずはギャレーの扉取り外すぞ」

「了解ッス」

「了解」


 サルバはギャレーの扉についている蝶番(ちょうつがい)をずらして、簡単に取り外せることを教えた。

 その扉をコックピット(操縦室)の壁にあった同じような金具に接続すると、これもまた扉として開閉できるようになった。


「扉を移すって、こういうことだったんですか」

「そうそ、これ今やっておかねぇと、後でやるの手間なんだわコレが」

「最初から両方に扉を付けておかないんですか?」

「一応キログラム単位でも軽量化しねぇと、宇宙船の燃費に関わるって叱られっからな、仕方ねんだ」

「叱られる?社長から、ですか?」

「んいや、社長はそういうのじゃ叱んねえよ。叱んのは工場長(こうばちょう)や経理だな」

「そうだったんですか……」

「さて扉付いたな。じゃ荷物動かすぞ」


 それまで天井だった壁に付いていた寝袋(シュラフ)をベリベリと剥がし、その位置に荷物のコンテナを移動していった。

 移動にはサルバとグーンに加えてロリエも参加し、ソフィとエリスが見学していたとしても、五分とかからなかった。

 しかしその移動の理由は、グーンはともかく特にエリスにはわからなかった。


 最後に寝袋を対角線上、テーブルの横のスペースに三つ並べて貼り付けて、完了だ。

 サルバ先輩が船長に報告した。


「扉の付け替えと荷物の移動、終わりました」

「あいよご苦労」


 続いて船長はロリエに向き直って言った。


「じゃ接舷頼む。俺は外に出て、もやい要員やる」

「了解。新人の見学は接舷操船?もやい?」

「うーん、どっちでもいいけどよ、もやい見学するにゃハードスーツ着る時間が……って来たな」


 船長が話している間に、通信が入った。


『……メリ建十七号船メリケン・セブンティーン、停泊を許可します。南ベイ係留桟橋に回航してください、どうぞ』

「管制、こちらメリ建十七号船メリケン・セブンティーン、了解、南ベイに回ります、どうぞ」

「んじゃ新人にゃ接舷操船見せといてくれ、もやいは今度な」

「了解。新人、どっかに掴まってな」


 十八号の接舷が済んだらしく、ようやく順番が回ってきた。

 船長は席を立ち、またエアロックに向かっていった。

 やっぱり船内でもハードスーツを着っぱなしだと、船外活動の腰が軽くていいなとグーンは思っていた。


 船長からの準備完了の通信が入ると、十七号船はロリエの操船でスラスターを噴いて、十五号と十六号が回る周回軌道を離れて極軌道(北極と南極の上空を周回する軌道)に移った。

 スラスターには仕掛けがしてあって、正常に動作しているときにはラッパのようなサイレン音が鳴るようにしてあった。この仕掛けのおかげで、音程によってどのスラスターが動作しているのかが一目瞭然だった。

 十七号は南極ポール上空にさしかかると、スラスターで逆進をかけて、自由落下に入った。十八、十九、二十号はすでに接舷済みだった。

 すでに十七号に割り振られた南ベイ係留桟橋には誘導ランプが点き、受け入れ準備は万端だった。

 自由落下軌道から桟橋の高さでホバリングに入った十七号は、小惑星の自転に合わせて船尾側連結装置を中心点とした横滑り機動を開始した。リアクションホイールの甲高い響きと、姿勢制御スラスタのラッパの音が混じりあい、船内は騒音に包まれた。

 エリスは耳をふさいでいたが、グーンはむしろ高揚感を感じてこの音が好きだった。

 ロリエはこの一連の操船をマニュアルでやっていた。


 遠心力でコックピット側に持っていかれる体を立て直しながら、新人二人は停泊桟橋への係留をモニターで見学した。

 船長が桟橋側の係員にロープを投げると、桟橋係員はそのロープをボラードと呼ばれる係留杭に巻き、手早く結んだ。船長は船体フックにかけたロープと桟橋を蹴る足で、ジグザグに船を引き寄せていった。やがて船尾の連結装置が桟橋の係留装置に食い込む、ガチャンという音が聞こえた。続いてそれより軽い、安全ピンを差し込む音も聞こえてきた。

 やっぱりここでも頼りはロープなんだな、と妙に納得したグーンだった。


 副操縦席のロリエは、一息つくと、宣言した。


二三一八(フタサンヒトハチ)、係留作業完了。船長チェック」

『チェック完了』

「了解、スラスターカット、ロケットエンジンカット」


 途端にあたりに響いていたラッパの音が消えて、船尾の係留装置に船の全荷重が乗ったミシリという音が聞こえた。リアクションホイールの音も消えていた。


『スラスターカット確認、エンジンカット確認。停泊作業全完了』

二三一八(フタサンヒトハチ)、停泊作業全完了。船長お疲れ」

『お疲れ。サルバに操縦権渡しとけ』

「了解。アタシのコンテナのフタ開けておいて」

『了解』


 船は、小惑星の南ベイ係留桟橋に無事到着した。

 多数の細い船が南極ポールの周りに連なって、丸い小惑星から生えているその見た目は、言い回しは通用しないがペンペン草を想起させるものだった。船たちは、小惑星の自転と一緒にくるくる回っていた。


 外で係留作業をした船長は、船には戻らずに仕事に行くらしい。


「サル、座んな」

「んだよ、バ付けてよロリっち」

「それじゃロリっち呼びやめな」

「それは断る」


 その二人のやり取りを聞いて、ソフィがロリエに話しかけた。


「なに、もう出るの?」

「だってアタシら一班がいつまでも船内にいちゃ、二班が眠れないじゃんよ」

「そうだけどさ」


 そんな話をしつつも、ロリエはサルバに手早く操縦権を移した。


「ユーハブコントロール」

「アイハブコントロール」


 そして操縦席からキャビンの天井に一息に跳躍すると、ロボットアーム用のものとよく似たゴーグルを片手に寝袋に潜り込んでいって、中でゴーグルをかけた。まるで遮光マスクをつけた昼寝だ。

 停泊状態になると、寝袋はキャビンのテーブルの影の天井に位置することがわかり、つまり最も邪魔にならない位置だということがわかった。

 さらにコックピットに移設した扉も、この遠心重力方向だと床になることがわかった。


 操縦席のサルバから、グーンとエリスに声がかかった。


「おい新人二人。こっち来い」

「ウッス」

「モニター見てみな。俺みたいな片手間じゃない、本職のドール使いが見れるぜ」

「本当ッスか、是非」

「私も」


 ロボットアームに付いていたカメラ視点のようだったが、荷台の様子が映っていた。

 赤いハードスーツの船長が、荷台にあった大ぶりなコンテナの蓋を開いて、中の緩衝材を外した蓋に乗せていた。

 するとコンテナの中から、脱色茶髪の小さな影が出てきた。


「!?」


 グーンとエリスがキャビンを振り向くと、同じ姿の人物がシュラフに揺れていた。


「あれがアタシのドールだよ」

「髪型も髪の色も一緒なんですね」

「着てるドカジャンまで一緒じゃないスか」


 コンテナから出たロリエのドールは、ロボットアームのカメラに向かって手を振っていた。

 ニカッと笑ったその顔は、ロリエとほとんど同じで、その十歳児並みの身長も同じだった。唯一目だけがアニメキャラのように大きかったが、それは本人の目以上にやけに似合っていた。

 エリスとグーンのつぶやきが重なった。


「うわ、ロリエさん可愛い」

「ホントだ、こりゃスゲえ造り込みッスよ」


 そしてサルバもつぶやいた。


「やっぱ本職にゃ敵わねんだよ、あの動きの繊細さとかさー」


 どうも三者三様に、注目している視点が違っていた。


 画面のロリエのドールは、コンテナの緩衝材と蓋をキビキビと片づけながら、頭には安全帽をかぶり、仕事道具をまとめた布バッグを斜めに掛けていた。


「んじゃ船長、行こっか」

『おう、肩に乗れ』


 ドールは大きな手提げカバンの形をした電源ユニットを左手にぶら下げながら、船長の赤いハードスーツの左肩に乗った。そして二人は小惑星の南極に向かって、船体を蹴って勢いをつけて降りていった。

 その姿は、さながらヒーローもののアクションムービー。助け出した少女とともに最後の大脱出を行う正義の味方、というところか。ドカジャンに安全帽がアレゲだけど。

 こりゃロリっち言われる訳だ、とグーンはまた一つ理解してしまった。


「あ、行っちゃった、もっと見ていたかったのに」

「しっかし船長、回ってる船のどこにも引っかけてない。見事なダイブッスねー」


 エリスとグーンでは、仕事に向かう二人を同じく見ていても、視点が異なるようだった。


「さて姐さんとエっちゃん、キャビンで寝るんすよね、三班はギャレー行ってるっすよ」

「おう、おやすみ。エリス寝袋に入りな、もう眠いだろ」

「了解です」


 サルバとグーンは、二班の女性二人に最後に声をかけた。


「んじゃおやすみなさーい」

「おう、おやすみー」


 ソフィとエリスは、ロリエの隣りの寝袋に入っていった。グーンはそれを見届けた訳ではなかったが、気配でそうと知ることができた。


第一部 入社と平和な仕事の日々 第二章 解説とチュートリアル、終了です。

第一部 入社と平和な仕事の日々 第三章 省略を最小限度とした仕事の描写、始まります。

次話は、第一三話 初着用(鉱山炉、宇宙服)です。

※投稿後の読み直しで、直し忘れを発見したので修正しました。


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